第27話 勇者は動揺する
僕は兵士と傭兵を一瞥する。
彼らは黙って僕とレナを眺めていた。
観客のつもりなのだろうか。
少なくとも介入する気配は見られない。
僕はレナに視線を戻すと彼女に確認する。
「本当に一人で戦うつもりなのか」
「彼らがいたところで意味がない。肉の盾にしても脆すぎる」
レナは苦笑する。
冗談ではなく本気で言っているようだ。
その考えは正しい。
兵士と傭兵が参戦しても、ただ犠牲が増えるだけだった。
多少は僕の隙を作れるかもしれないが、それも誤差の範囲だろう。
乱戦になって不確定な流れになる方が、レナにとっては面倒に違いない。
レナは左右の手の間で剣を踊らせる。
剣は流れるように回転し、或いは空中を閃く。
まるで曲芸師のような動きだった。
ああやって手に馴染ませているのだろう。
レナは決まった武器を持たない主義だ。
型が決まって弱点となり得るためと聞いたことがある。
そのため不定期に武器を変えており、現在の装備も見覚えが無かった。
目の前で繰り返される動きは、慣れない武器を扱うための儀式であった。
やがて動きを止めたレナの目が細まる。
視線の鋭さは、まるで肉食獣のようであった。
「君とは一度戦ってみたかった。存分に楽しもうじゃないか」
「僕は楽しくない」
「はは、そう言うと思ったよ」
レナは軽く笑うも、目は瞬きもせずに僕を凝視している。
既に臨戦態勢らしい。
「実を言うと、君を驚かせる用意をしているんだ」
そう言ってレナは空いた手を伸ばす。
指先の虚空に柄が出現した。
彼女が柄を握って引くと、鞘に包まれた剣が現れる。
全体が漆黒に包まれた禍々しい剣だった。
柄と刃の境界線には真っ赤な宝珠がはめ込まれている。
僕はその形状を目にして硬直した。
強烈な頭痛を感じてふらつく。
吐き気を覚えながらも、なんとか声を発する。
「それは……まさか」
「ああ、そのまさかだ。これは君の仲間だった"黒騎士"の魔剣だよ」
レナは全貌を現した剣を構えてみせる。
最初の剣と合わせて二刀流で戦うつもりらしい。
(いや、そんなことはどうでもいい)
あれは間違いなく魔王討伐の仲間――"黒騎士"アイリの愛剣だ。
巨人との死闘で紛失し、使い手である彼女も相討ちで死んだ。
それだというのに、なぜかレナが所持している。
「その魔剣を、どこで手に入れた?」
「君達があの巨人を殺した地だよ。欲しくなって探したんだ。これだけの魔剣はどれだけの金を積もうと手に入らないからね」
レナは嬉しそうに魔剣を振った。
嗜虐的な視線が僕を捉える。
「返してほしいかい?」
「……ッ」
刹那、僕はほぼ反射的に石畳を蹴る。
そして返答代わりにレナへと跳びかかった。




