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元勇者の墓守は理想の死園を築き上げる  作者: 結城 からく


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第22話 勇者は街に到着する

 翌日の昼過ぎ、遠くに街が見えてきた。

 平坦な土地にある小さな街だ。

 森を抜けた先にあるそこが、あの村から最寄りの場所であった。


 辺境の土地で治安は悪くない。

 僕は何度か訪れたことがあった。

 平穏という言葉が似合う場所である。


(何事もなく辿り着いたな)


 僕は拍子抜けする。

 道中で襲撃があるかと思ったが、ほとんど止まらずにここまで来れてしまった。


 王国は僕の行動を把握しているはずだ。

 事態を過小評価しているのか。

 少なくとも領主は報復を企んでいそうなものである。

 騎士団の壊滅という被害を重く見て、念入りに準備をしているのかもしれない。


「街だー!」


 馬車に座るマリーが嬉しそうに声を上げる。

 そこまで長くない旅路だったものの、退屈な時間が多かった。

 目的地が見えたことを喜んでいるようだ。


 僕はふと気になってマリーに質問する。


「村にいる時は、行ったことがなかったのかい?」


「うん。ずっとお仕事だった」


 マリーは平然と答える。

 特に悲しそうではなかった。

 それが彼女にとっての普通なのだろう。


 僕は暫し考え込んだ後、マリーに告げる。


「到着したら、何でも好きなものを買っていいよ」


「やった! 本当にいいの?」


「もちろんさ。せっかくの機会だからね」


 無駄遣いできるほどの蓄えはない。

 しかし、気晴らしの買い物も必要だろう。


「ねぇ、エマ! 何か買いたいものってある!?」


「……っ」


 興奮気味のマリーがエマと揺さぶる。

 エマは少し驚いているも、買い物自体には肯定的なようだった。

 彼女もやはり欲しいものがあるらしい。

 エマは日頃から控えめな性格で、自分から主張しない。

 こういった時くらいは自由に行動してほしいと思う。


 買い物に舞い上がる二人を見て、僕は微笑する。


(平和なやり取りだな)


 歪んだ形であれ、僕の凶行は二人に幸福をもたらした。

 間違いだらけの人生に救えた存在がいたのだと実感できる。

 その幸福の下には、数多の命が犠牲となっていた。

 もっとも、それは仕方のないことである。


 僕は全知全能の神ではない。

 すべてを救うどころか、望む結末さえ手に入らなかった。

 勇者などと言われているが、所詮は一人の人間なのだ。

 そこを履き違えてはいけない。

 今もこれからも、できることをやるのみであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっと、これは失礼しました。 先が楽しみで、つい焦れてしまった罪深きユーザの業をお許しください。
[一言] できればもう少し一話の話を長くして欲しいです。(展開が少ない場合は特に) 原初のはあのペースでも気にならないですが、こちらはほとんど同じ文字数でもテンポが遅いように感じてモヤモヤします。
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