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元勇者の墓守は理想の死園を築き上げる  作者: 結城 からく


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第10話 勇者は夕食を満喫する

 その後、トーマスはさらに五つの死体を埋葬した。

 ほぼ同時にマリーが僕達を呼びに来たので、作業を中断する。

 身体を洗った後、村の中央部の家に集合すると、そこの食卓を四人で囲う。


 夕食は野菜のスープと炒め物だった。

 現在、村の住人は僕達しかいない。

 食べ物にはしばらく困らないものの、野菜などは使い切れずに腐ってしまうだろう。

 蓄えもそれほど多いわけではないので、いずれどうにかしないといけない。

 全員が揃ったところで、僕達は夕食を始めた。


 エマとマリーは一口ごとによく味わっている。

 二人とも奴隷として扱われていた。

 普段の食事が粗末だったと聞いている。

 こうして味のある温かい食事を堪能できるだけで幸せなのだろう。


 一方で僕は淡々と口に運ぶ。

 美味いとも不味いとも言えない。

 精神的な部分が原因なのか、味覚が鈍っているのだ。

 この三年間、まともに食事をしてこなかったのもある。

 飲まず食わずで過ごしても死なないのだ。


 以前、餓死できるか試してみたことがあった。

 しかし二百日に到達したところで、馬鹿らしくなってやめた。

 その時の僕は平常通りの体調だった。

 死ぬ気配など一切なかった。

 それ以降も何日か食事を忘れることがあったが、やはり衰弱するようなこともなかった。

 魔王の呪いは、徹底して僕の健康を維持している。


 スープを半分ほど飲んだところで、僕は隣に座るトーマスを見た。

 トーマスは料理にほとんど手を付けていない。

 険しい表情で睨むばかりである。

 冷めていく料理を、マリーが少し悲しそうに眺めていた。


 僕は彼の肩に手を置く。

 トーマスが、ぎょっとした顔でこちらを見た。


「遠慮せずに食べるといい。二人の手作り料理だよ」


「う、うぅ……」


 トーマスは唸りながら炒め物を食べ始めた。

 手が震えているが、辛うじてこぼさない程度の揺れだった。

 少しでも失敗すれば、僕に殺されるとでも思っているのか。

 さすがにそこまで心は狭くないが、注意深く行動するのは大切である。


 それはトーマスに欠けていた部分だった。

 せっかくなので、ここで存分に学んでほしい。

 彼の無謀な行動が、結果的に騎士達を死なせる羽目になった。


 本来、あってはならないことだ。

 先頭に立つ者は多大なる責任を抱えている。

 トーマスはそれを自覚しておらず、自らを被害者だと思っていた。

 これを機に考え直してほしいものである。


(僕だけが生き残ったのは、罰かもしれないな)


 トーマスの姿を見て、ふと思う。

 彼に対する不快感には、きっと同族嫌悪が含まれている。

 先走って仲間を死なせた者への、どうしようもない同族嫌悪だ。


 どれだけトーマスを苦しめたところで、何も変わらないというのに。

 時間をかけてまで墓を掘らせているのはなぜなのか。

 自分でもよく分かっていない。

 単なる憂さ晴らしなのか。

 それとも、自分ができなかったことの強要か。


 自己問答に陥った僕を我に返らせたのは、マリーの明るい声だった。


「まだたくさんあるから、遠慮なく食べてね!」


「……っ!」


 無邪気なマリーの気遣いにも、トーマスは過剰に反応する。

 彼は真っ青な顔になって急いで食べ進めていく。

 途中、喉に詰まらせてむせたので、コップの水を飲ませてやった。

 落ち着いたトーマスは、またもや急いで食べる。


 僕は軽くため息を吐くと、空になったトーマスの皿を指して発言する。


「マリー、おかわりを入れてあげてくれ」


「わーい、任せて!」


 笑顔になったマリーは、空の皿を手に取って台所へ向かう。

 一生懸命に作った料理なので嬉しいのだろう。

 彼女は恐怖を感じない性質だ。

 この場の異様な雰囲気を察していない。


 ある意味、それは幸福であった。

 先ほどから無言で食事をするエマは、この上なく気まずそうにしている。

 そんなエマと目が合った。

 彼女は僕の手を取ると、指で文字を書く。


『来て』


 真剣な顔のエマは、僕を家の外へ連れ出そうとする。

 何か真面目な話のようだ。

 無視するわけにはいかないだろう。

 そう思った僕は、大人しく彼女に従った。

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[良い点] 9話の違和感大爆発な元勇者の行動にちゃんと意味があった
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