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元勇者の墓守は理想の死園を築き上げる  作者: 結城 からく


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第9話 勇者は墓地を眺める

 その日の夜、僕は村の共同墓地にいた。

 視線の先ではトーマスが一心不乱にシャベルを振るっている。

 汗だらけの彼は鎧姿ではなく、村にあった粗末な作業着を纏っていた。

 あのままだと動きにくいためだ。

 戦うわけでもないのだから、豪華な装備は必要ない。


 トーマスが土を掘っては脇にどける。

 慣れていないためか、かなり手間取っていた。

 それでも繰り返しているうちに、掘り出した土は増えていく。

 ある程度の深さになったところで、彼はシャベルを置いて歩き出した。


 彼の向かう先には死体の山が出来上がっていた。

 僕が殺した騎士の屍だ。

 トーマスはそのうち一体の両足首を掴むと、苦労して引きずり始める。

 死体を掘った穴に転げ落とすと、シャベルで土を被せていった。

 仕上げに軽く押し固めたところで完成だ。


 付近一帯には、同じような痕跡が何十と点在していた。

 いずれもトーマスが死体を埋めた場所である。

 彼が手柄欲しさに同行させた結果、騎士達は死んだ。

 ならば責任を取って、自らの手で葬ってやるのが筋だと僕は思う。


「ほら、急いでくれよ。夕食に遅れてしまうじゃないか」


 椅子に座る僕は、作業中のトーマスに声をかける。

 ずっと待っている身にもなってほしい。

 ちなみに手伝うつもりはなかった。

 それはトーマスの作業だ。

 横取りするのは無粋だろう。


 しかし、そう考えていたのは僕だけだったらしい。

 睨み付けてきたトーマスは、こちらにシャベルを投げてきた。

 地面にぶつかったシャベルが足元まで滑ってくる。

 激怒するトーマスが神経質な調子で叫んだ。


「これは、貴様の要望だろうっ! 不満なら、自分で、やれッ!」


「…………」


 椅子を立った僕は無言でシャベルを眺める。

 片手で持ち上げると、軽く弄びながら笑った。


「――別に僕がやってもいいけど、墓が一つ増えることになるよ」


「ひ、ひぃっ」


 トーマスが情けない声を上げて腰を抜かした。

 激昂しても意味がないと理解できなかったのだろうか。

 単に怒りを我慢できなかったのか。

 どちらにしても愚かだった。


 僕はシャベルの半ばほどの位置で掴み、担ぐようにして構える。

 そして勢いよく投擲した。


 空気を掻き乱すように飛んだシャベルが、一瞬にしてトーマスのそばを通過する。

 猛速のシャベルは彼の後ろにあった樹木に炸裂し、幹を爆散させながら突き立った。

 割れた幹からうっすらと白煙が上がっている。


 僕は椅子に座り直すと、凍り付くトーマスに指示をした。


「作業に戻ってくれ。夕食抜きで動き続けるのは辛いだろう?」


「あ、あうわぁ……」


 トーマスは這いつくばって進み、樹木に刺さったシャベルに縋り付く。

 必死に引き抜こうとするも、彼の筋力では叶わない。

 シャベルのスプーン部分が完全にめり込んでいた。

 ちょっとやそっとの努力では抜けないだろう。


「あ、あの……」


 トーマスが泣き顔でこちらを見る。

 彼は、震える手でシャベルの持ち手を引っ張っていた。


 何が言いたいのかは分かる。

 僕はため息を洩らすと、トーマスのもとまで歩いていった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] う~ん・・・なんか、9話の勇者の行動が今までと違いすぎて違和感がすごい。 急に別作品かと思うくらい傲岸不遜な感じになったのは作者さんの意図的なものなのだろうか?
[良い点] 死んだ兵士の墓を延々とトーマスに掘らせるとは、 元勇者もなかなかえげつない。 穴掘りって、結構な重労働だからね……。 旧ソ連で行われた「掘った穴を無意味に埋め戻させる行為を延々繰り返さ…
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