七
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お待ちいただいていた方、ありがとうございます。
「あぁ!やっと帰って来た!!おかえ…」
満面の笑みでアルフレッドを迎えたエマニュエルの言葉が途中で止まる。
そして、触らぬ神に祟りなしとはこのこととばかりに、くるりと踵を返し、城の中へ戻ろうとするエマニュエルの首根っこを、アルフレッドはがっしりと掴んだ。
「エマ」
にこりと笑みを浮かべたアルフレッドは、ヒラリとエマニュエルの眼前に一枚のメモを晒す。
「このリストに挙げられている貴族夫人どもの1年間の社交会出入りを禁止してくれ」
エマニュエルがパッと見ただけでも10はある貴族夫人の名前。
しかも高位貴族の夫人の名前まである。
これを、どうやって、丸く収めつつ出禁にしろと?
目眩を起こしそうになるのは当然のことだろう。
反感が出るのは間違いなく、もしかしたら政敵に転じる貴族もいるかもしれない。
「何、叩けば埃はいくらでも出てくる。そこを突けば大人しく従うだろう。そのために少しの不正は知らぬふりをして見逃しているのだ。ここで使わぬわけにはいくまい?」
冷徹に笑うその顔を、恐らくティアリーゼは知らない。
貴族の弱みを寵愛する婚約者の立場を守るためだけに躊躇いなく使う。
重い、重過ぎる。
そう思うと同時に、本当にこれでいいのか?という思いが湧き上がる。
傾国のなんたらと言う言葉がある通り、行き過ぎた寵愛は国を傾けるのだ。
アルフレッドがそんな愚を犯すわけがないと信じたい反面、不安が募るのも致し方ない。
「おい、アル…」
一言忠言をと、エマニュエルが口を開いた時、背後に控えていた馬車の扉が開いた。
「アル?」
目を向けると、妹であるティアリーゼが扉から顔を出したところだった。
「あぁ、ティア。すまない。
もう少しだけ待っていてくれ」
先程とは違って、優しく微笑むアルフレッド。
こいつの表情筋すげぇな、とエマニュエルは呆れを通り越して感心せずにはいられない。
「うん、それはいいけれど…。忙しいなら私1人ででも帰れるわよ?」
こちらを気遣うように見つめるティアリーゼの目が、エマニュエルが持つ紙切れに留まった。
「?」
そして、何かに思い至ったように馬車から駆け降りてくると、エマニュエルの手元を覗き込む。
「あ!やっぱりだわ!
これ、私にあらぬことを言い聞かせてくれたご婦人方のリストじゃない!
お兄様、これをどうするつもり?」
「いやぁ、どうするつもりも何も…」
しどろもどろに語るエマニュエルをジロリと一瞥した後、キッと鋭い目でアルフレッドを見上げた。
「アル?これは女の戦いです。殿方がしゃしゃり出るのは無粋というものでしてよ」
余計な手出しは無用と、アルフレッドに向かってピシャリと言い退けるティアリーゼ。
暫くアルフレッドは驚いたようにティアリーゼを見つめていたが、徐々に柔らかい笑顔へと切り替わる。
「私の愛しのお姫様は、いつの間にか逞しさも兼ね備えて、ますます魅力的になるな」
顎に手を当て、しみじみと呟くアルフレッドの腕を、ティアリーゼは怒ったようにパシパシと叩く。
「~!もう!アル!!揶揄わないで!
これくらい自分で対処できなければ、王妃になってから諸外国と取引なんて務まらないわ」
「へぇ、落ち込んで領地に引っ込んだ妹の発言とは思えないなぁ」
「お兄様!?」
ははは、と笑いながらエマニュエルは心の中で安堵する。
ティアリーゼ次第で賢王にも愚王にもなるアルフレッド。
己の存在の責任と重大性をティアリーゼも徐々に自覚しつつあるのだろう。
だから、この先も2人なら大丈夫だと思える。
この2人を支えていくことが己の使命だと、エマニュエルは改めて気を引き締めた。
「だが、抱えきれない時は無理をしないように。今回みたいに家出をされたら溜まったものじゃない」
「うぅ、それは…、ごめんなさい」
「分かってくれたらいいんだ。
さぁ、屋敷まで送っていこう」
そしていつもの甘い雰囲気の中、エマニュエルを置いて馬車に乗り込む2人。
「人が気を引き締めてる横でいちゃつかないでくれる?イラつくんだけど」
2人の背中を見つめるエマニュエルの呟きは、走り去る馬車の音に虚しく掻き消された。
一旦完結となりますが、また他の拙作と絡めた続編を書いていけたらと企み中です。
「悪役令嬢の婚約者はニヒルな笑みが様になる」の方にも、ティアリーゼとアルフレッドがゲスト出演していますので、そちらもお楽しみいただけると嬉しいです。




