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バベルの免罪符  作者: やばくない奴
伝染病
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停電

 休校二日目――――風音(かざね)の家の電気は止まった。この時、風音とその母親はあまり動揺していなかったが、二人は停電の原因を調べていた。これが単なる停電であるという確証を得られればさほど気にする必要もないのだが、今回に限ってはそうではない可能性の方が幾分高いだろう。

「父さん……大丈夫かな」

「しっ! 静かに。ラジオの指示を聞き逃したら困るでしょ?」

 風音の母は至って冷静だ。彼女は黙々とラジオのチャンネルを回していく。一方で、風音はポープロを操作しながら停電にまつわるニュースを探る。両者ともに問題の原因を追究することに尽力する辺り、実に親子らしいと言えるだろう。



 その時である。


『速報です』


 ラジオから流れたのは「速報」の二文字だ。相良(さがら)親子はすぐに聞き耳を立て、アナウンサーが話し始めるのを待った。


『今現在、防護服を着た自衛隊がやむを得ずにバベルの感染者を駆除している状態ですが、それでも感染の拡大を阻止することは難しいようです』


――――ノイズ交じりの声だ。しかし、今は音質の悪いラジオに耳を澄ませるより他ないだろう。

『感染者は次々と活動範囲を広げており、すでにいくつもの建物が破壊されているもようです! また、感染者の被害による停電も相次いでおり、一部の電力会社は電力の復旧に力を注いでいるそうです! 新しい情報が入り次第、引き続きニュースをお伝えします』

 この時、親子は確信した。自分たちの家の停電も、バベルの感染者が引き起こしたものに違いないと。この時、風音はネットで同じニュースの記事を目にしていた。

「これが……日本で起きてることなのかよ……」

 彼女が身の回りで起きていることを信じられないのも無理はない。何しろ、たった数日の間に世界が大きく変化し続けているのだから。しかしその一方で、彼女の母親は依然として平常心を保っている。

「それが今起きていることだからそう思うだけよ。日本でも、これまでいくつもの大災害やテロが発生してきたでしょ。過去に起きた出来事はやがて『歴史上の他人事』に変わり、いつの日か風化するものなの」

「そうなのかな……」

「そういうものなの。例えるなら……そうねぇ。慰霊碑って、それを建てられた背景を知らない人からすれば、何の面識もない赤の他人の名前を彫られただけの石でしょ? 墓地に行っても、親族の墓以外は気にも留まらないじゃない。でも、どれもこれも『日本で起きてること』によって作られたものに違いはないの」


 母親の言葉に、風音は思わず息を呑んだ。唖然とする彼女の頭を撫でつつ、母親はこう続けた。


「身近な範囲だけでも良い。母さんはね……風音には記録ではなく記憶に寄り添えるような人間でいて欲しいと思ってるの」


 彼女の言うことを理解できず、風音は首を傾げた。

「記録ではなく記憶……? それって、どういうことだ?」

「教科書や書籍で世界の過去を読むのではなく、個人個人の過去を大切にして欲しいってこと。学校で学べることを理解するのも大切だけど、人を理解することはそれ以上に大切なことなの」

「そう……なのか?」

「慰霊碑をただ大きいだけの石板にしないただ一つの方法は、一人一人の過去を単なる史実ではなく記憶として意識すること――――私はそう思ってる。ただの史実を書き記すのに、あんな大掛かりなオブジェは必要ないでしょ? 風音はどう思う?」

 これが母親の持論だ。その考え方に感動を覚え、風音は目を丸くした。

「そんなこと、今まで考えもしなかったけど……言われてみれば同感だ」

「何が正しいことで、何がそうじゃないのかはわからないけど……風音が同意見で良かった。やっぱり、アンタは私の娘ね」

「へへへっ……まあな!」

 彼女は得意げに笑った。二人は今、バベルの感染者が引き起こしたであろう停電に見舞われている最中だが、それを差し引いてもなお楽しそうな雰囲気を醸し出していた。

「私も風音も、死ぬ時は死ぬ。でも、今の私たちに出来ることは、国の指示を待つことだけ。焦ったり悲しんだりしたところで、それが未来を変えるわけじゃないでしょ? 今は、学校を堂々と休めるってくらいの気持ちでいれば良いと思うよ」

「それもそうだな。とりあえず、昼間の明るいうちに漫画でも読み返すか! 夜に電気がつかなかったら何にもできねぇからなぁ」

 早速、風音は自分の部屋へと戻り、本棚にある漫画を読み漁り始めた。彼女の読む漫画のほとんどは、世界の危機に立ち向かう英傑が主役を張り、絆の力が奇跡を起こすようなファンタジーだ。

(カッコイイなぁ。オレにはコイツみてぇな魔法も剣術もないけど、それでも他人のために命を張れるようなヒーローになりてぇ……!)

 少年漫画に見入りつつ、彼女は主人公に憧れを抱いていた。

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