それぞれの今後
朱朔は今後の予定について風音と話し合った。反逆の会としてではなく、彼は一人の人間として今後のことを考えている。
「反逆を成し遂げた我々は、もう反逆の会ではなくなりました。しかし、我々が戦友であることに変わりはありません」
「単なる利害関係じゃねぇんだな」
「別に単なる利害関係でも構いませんし、どのような心構えで我々に協力するかはメンバー一人一人の自由です」
「なるほど……」
「これから、我々はある程度壊れていない街がないか探しに行きます。形の残っている建物を活動拠点とし、街を修復しながら新たな文明を築き上げていく予定です。もし良ければ、あなたもご一緒しませんか」
悪くない話である。荒廃とした世界を生き抜くには、一人でも心強い味方がいた方がありがたいだろう。ましてやその味方が彼のような優秀な人材であれば、この話に乗っておいて損はない。
それは明らかに甘んじておくべき誘いだったが、風音は彼の提案を一蹴した。彼女には彼女の生き方がある。
「遠慮しとくぜ。オレは故郷に戻って、由奈の墓参りに行かねぇといけねぇんだ」
「ユナ……あなたのご友人ですか」
「ああ。オレが殺したダチだ」
「あなたが手を下さなくとも、いずれは僕が殺していた相手ですよ」
「そうだな。もしアンタが由奈を殺していたら、オレはアンタを殺していたかも知れない。けど、オレの死に場所が由奈の隣であることだけは絶対に変わらねぇよ」
元々、この地域は風音の住んでいた場所ではない。相良家の自宅は原罪者に破壊されてしまったが、それでもあの街は彼女の故郷なのだ。そして、そこは彼女の親友が眠りについた場所でもある。
(由奈……アンタは今も、中学に来たあの時のように強がってるんだろ? 孤独と戦いながら、それを全然気にしてねぇフリをしてるんだろ? オレはもう、アンタを独りにはさせねぇよ)
これは鋼の意志に他ならない。由奈の防壁になることを誓ったあの日から、風音の胸に宿る友情の心が色あせたことは一度もなかった。そして、彼女はこれからも親友に寄り添い続けるのだ。
仲間を大切に想う気持ちは、朱朔にもよく理解できる。彼は素直に引き下がり、彼女に別れを告げる。
「そうですか。では、僕はこれで失礼します。ユナさんがあの世であなたを待っているように、反逆の会の友人たちも僕を待っていますので」
「……アイツらは、アンタが世界をぶっ壊してまで守ったダチなんだろ? これからも大切にしてやれよ」
「あなたに言われるまでもありませんよ」
最後の最後まで、この男のニヒルな微笑みが崩れることはなかった。彼は航空機に乗り、ありさが搭乗するのを待った。
しかし、彼女は機体に背を向けた。
「私は風音についていく。どうか、私を姉だと思って欲しい」
思えば、彼女は風音を守るためだけに戦場へと飛び込むような女だ。航空機から他の空軍機へと飛び移り、銃弾の通らないサイボーグと一対一で戦う――――そんな無茶を平然と行うのがこの桐ヶ谷ありさだ。彼女が同行してくれるのもまた心強いものだが、風音はこれも一蹴した。
「アンタにも家族がいたんだろ? だったら、本当の妹の側に居てやってくれ」
「本当の妹なんて、どこにもいない。昔も、今も」
「それでも大切な妹だったから、オレにそいつの影を重ねたんじゃねぇのか?」
「そ……それは……」
「妹の死から目を逸らしてぇ気持ちは痛いほどわかる。だが、どうか妹を独りにしないでやってくれ」
いかなる場面でも殺生を拒んできた風音には、面識のない相手の孤独を哀れむくらいの優しさがある。原罪者に殺されることを恐れなかった彼女には、独りで生きていけるほどの覚悟もある。
「風音は寂しくないのか?」
「ああ。オレには由奈がいる。アンタに妹がいるようにな」
「……そうだな。風音の言う通りだ。せめて、最後に私に一つ手伝いをさせてくれないか?」
「手伝いって……?」
***
夜空には、インダルジェンスたちを乗せた航空機が浮かんでいる。その真下では、二つの人影が一つのバイクにまたがっている。二人を乗せたバイクの行き先は、相良風音の生まれ育った街だ。
ご愛読ありがとうございました。SFを執筆するのは初めてでしたが、書いていてとても楽しかったです。個人的には、羽柴朱朔という人物を描くのに苦労しました。彼はある程度大物でなければならないのと同時に、一人の人間でなければなりません。人間離れした側面と人間らしい側面は相反しているため、匙加減が難しかったです。僕が次に手掛ける作品がどのようなものになるのかはまだわかりませんが、今後もやばくない奴をよろしくお願いします。




