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バベルの免罪符  作者: やばくない奴
最終決戦
33/35

人間と因果

 いくつもの高層ビルが失われた殺風景な街に、視界を焼くような夕日が差し込む。もはやこの街はかつての面影を残していなかったが、バベルの塔は容赦なく地上を焼き払い続ける。そんな退廃的かつ死屍累々とした地を走り抜けつつ、二つの人影が道行く感染者やロボット兵の残党を倒していく。

「反逆の会が地下水路を離れてから、妙なことばかり起こるじゃねぇか。まさかとは思うが、何もかもが朱朔(すざく)の仕業ってことはねぇよな?」

「いや、何もかもがあの人の仕掛けたことだ。まず、我々はあの人の盗んだバスで長距離を移動し、山奥に行った。そこは大きな河川の上流だったから、バベルに感染したインダルジェンスが集まるだけでもバイオテロになった」

「何が何だかさっぱりだ。キャンプをすることがバイオテロになるのか?」

 反逆の会が地下水路を去ったあの日以来、風音は彼らと離れて行動していたのだ。その彼女が朱朔の犯行を知らないのも無理はない。現状に至るまでの段取りを見ていない者にとって、このクーデターはあまりにも唐突なものであった。


 軍人の死体から手に入れた銃を使いこなし、ありさは化け物の大群を一掃していく。雄造(ゆうぞう)の脅威が去ったこともあり、彼女はよく落ち着いている。かつてない喧騒の中、ありさはあの短期間に起きていたことを説明した。

「川の上流に我々が集まったことにより、川の水流がバベルを四方八方にばら撒いた。無論、本川だけでなく派川もバベルの感染を速めたと言っても良い」

「なるほど、だからあんなに感染者が急増したのか……」

「その通り。更に、あの混乱に乗じた朱朔さんはバベルの塔にハッキングした。あの人がバベルの塔を遠隔操作したことにより、地球には大量のバベルカプセルが投下された」

 バベルカプセル――――風音はその言葉を初めて耳にしたが、それが例のカプセルを意味していることはすぐにわかった。灼熱の炎は土地や有象無象を焼き払うだけではなく、彼女の脳裏にも容赦なく焼き付いた。


 風音は怒りを露わにし、バールを振り回しながら化け物を駆逐していく。度重なる死闘で疲労を溜め込んでもなお、その筋力や俊敏性は健在である。彼女の戦っている相手は眼前の敵だが、彼女の憎んでいる相手は彼らではない。

「アイツ……なんて傲慢な真似を……」

「私はあの人を傲慢だとは思わない。私も含め、反逆の会のメンバーは心からあの人を尊敬しているが、当の本人は周りと対等であろうとしている」

「嘘だ! 平気で世界を破壊できるような奴が、周りの人間を見下さねぇわけが……」

「加えて、我々の計画のほとんどはあの人が一人で進めていたと言っても過言ではない。私はただ、銃を撃ち続けてきただけだ」

「アンタは、アイツに利用されてるだけだ!」

 相変わらず、風音の怒号は轟音の中でもよく響き渡る。世界を終わらせるような大災害が起きていることを考えれば、彼女があの男を信用できないのもうなずける。例え同胞の所業であろうと、世界規模のクーデターに目を瞑るわけにはいかない。



 それでも、ありさは朱朔を信じていた。風音が正義を信じてきたように、彼女には彼女の信じるものがある。

「……あの人も、風音や他のインダルジェンスと同じように家族を失った孤独な人間の一人だ。朱朔さんはただ、生き残ったインダルジェンスを家族のように大切に思い、守ろうとしただけだ」

 その言葉が本当か否かはわからない。ただ一つだけわかることは、彼女が本心を語っているということだけだ。風音は不意に雄造の言っていたことを思い出した。



『アイツらにとって、反逆の会は家族のようなモンだろ? リーダーを守ろうとした命知らずや、そいつらの避難を手伝った姉ちゃんを見て、俺はそう確信したよ!』



 あの男は反逆の会を出し抜くことには失敗していたが、彼らの心情を見抜くことはできていたのかも知れない。風音は肺が濁るような感傷に浸っていたが、ありさはお構いなしに話を続ける。

「それに、今まで私がしてきたことは、あの人の命令ではなく私の意志に他ならない」

「そう……なのか……」

「きっとインダルジェンスが迫害を受ける前までは、あの人も普通の若者として普通の生き方をしてきたのだろう。我々を普通ではいられなくしたのは原罪者たちだ。古代の原罪者はバベルを作り、現代の原罪者はインダルジェンスを迫害した」

「どうして、人間は積み重ねた過ちが牙を剥くまでテメェの愚かさに気づけねぇんだろうな」

「多くの人間は、自分が悪事を行わない理由を倫理ではなく利害で考えている。もし刑罰や報復を受けずに済むことが約束されるのなら、人は悪魔にでも何にでもなれるだろう。だが不思議なことに、奴らは『他人の悪事』に限っては倫理を理由に糾弾するのだ」

――――それがありさの見てきた「人間」の姿であった。原罪者もインダルジェンスも含め、彼女の見てきた人間は決して美しいものではなかった。

「そ……そんな……」

「端的に言えば、人間は利己的であるがゆえに身を滅ぼすというわけだ」

「これが因果……か……」

 文明の影と形を失った更地を見渡し、風音は深いため息をついた。

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