死闘の行方
再び己の心を殺し、ありさは目を覚ました。
彼女が顔を上げると、そこには建物の残骸が散らばる焼け野原が広がっていた。無論、彼女の眼前には宮間雄造もいる。
(風音の身に何か起こる前に……アイツを殺さないと……)
もはや息継ぎの暇すらない。何とか一命を取り留めたありさだが、彼女は後一撃でも高圧電流を浴びれば命を失うだろう。彼女が二本足で立ちあがると同時に、その足下には鮮血の雫が落ちた。満身創痍の体から血と煙を流しつつも、ありさは決して目の前の宿敵から目を逸らさなかった。
その根性を称え、雄造は静かな拍手を送る。
「見事だ! 俺の電撃は感染者をも一撃で葬るのだがな……どうやら姉ちゃんは人間じゃないのかもしれないな」
「……できれば、今でも人間でいたかったものだ」
「ならば俺がお前さんを殺してやるさ。姉ちゃんが人間に過ぎなかったと証明するためにな!」
引き続き、両者の間には銃弾と電流が飛び交っていく。第三者の介入を許さぬ死闘は目まぐるしい速さで繰り広げられているが、二人にはその時間がゆっくり経過しているように感じられた。
「人権を失った時点で、私は秩序の檻を抜け出した獣だ」
「ははははっ! 獣なんだったら服なんか着ないでストリップを披露してもらいてぇモンだな!」
「鉄の体になっても、まだ精巣は残っているらしいな。もう必要ないだろうし、撃ち落としてやろうか?」
「俺に精巣なんかねぇよ! 玉が本当に金になっちまったからな!」
「品のない男だな。ホームセンターの跡地でも探して、頭に使うネジとドライバーを拾ってきたらどうだ?」
その強気な態度は相変わらずだが、ありさには余裕がなかった。彼女は息を荒げつつ、額から大粒の汗を流していた。一方で、雄造は依然として涼しい顔をしているままだ。そもそもサイボーグが呼吸や発汗をするはずはないが、それを差し引いてもなお彼は余裕綽々としている。
その上、彼が無傷であるのに対し、ありさはすでに重傷を負っている。
彼女の銃の腕前は依然として健在だが、その眼前にいる宿敵は人間にとっての急所に値する部位を撃たれてもなお銃弾を弾き返してしまう。雄造の高圧電流の威力は高く、ありさが逃げ回っていく間に何本もの電柱が破壊されていった。この地帯に人間はほとんどいないが、轟音は耳が麻痺するほどに響き続けている。炎に包まれた大地は化け物やバベルの塔のレーザーによって破壊され、徐々に更地と化していく。彼女の方へとにじり寄りつつ、雄造は言う。
「どこに行く気だ? もしかして、俺をホームセンターにでも案内してくれるのか? これはこれは親切な姉ちゃんだ!」
敵を圧倒している自分に陶酔しているのか、彼はもう警戒心を抱いていない。油断大敵という言葉もあるが、そんなものはこの男には通用しない。その強さをもってすれば、油断さえも敗因にはなりえないだろう。
ありさは一発の弾丸を銃に補充した。それから、彼女は何を思ったのか残りの銃弾を投げ捨てた。その不可解な行動を前にして、雄造はただただ怪訝な顔をするばかりだ。しかし、これはありさなりの覚悟だ。
「背水の陣だ。この一発で、必ずお前を仕留める!」
とても正気とは言いがたい決意である。相手はサイボーグであり、無数の銃弾をはね返してきた猛者だ。あの鋼の肉体は、どうあがいてもたった一発の銃弾で破れるような代物ではない。
「ほう……大した覚悟じゃねぇか。世間はそれを無謀と呼ぶかも知れないが、俺は勇気と呼んでやるよ!」
「ならば、私はお前たち軍隊が反逆の会に戦争を仕掛けたことを無謀と呼ぶことにしよう。例え世間がそれを勇気と呼ぼうとな」
「無謀で結構! お前のとこのリーダーが何を謀ったかは知らねぇが、お前は俺の無謀な攻撃によって死ぬ!」
「本当にそうか、試してみるか?」
「上等だ!」
この時、彼は己の頭上など気にしていなかった。その目はありさの方へとまっすぐに向けられていた。彼女が発砲したのとほぼ同時に、彼も強力な電撃を放った。ありさは電流をかわし、再び雄造の方へと目を向ける。高圧電流は倒れている電柱から伸びている電線へと流れ込み、それから何本かの電柱を通過していく。この電流の行きつく先は、雄造の頭上から落ちてくる電線だ。
ありさは逃げ回りながら強敵に電柱を破壊させ、最後に彼の頭上にある電線を銃弾で切り落としたのだ。
「一件落着……だな」
宿命の敵が頭から高圧電流を受けるのを確認しつつ、彼女はデザートイーグルの銃口に息を吹きかけた。




