探り合い
首都圏外郭放水路に向かう道中、風音はいつものようにバベルの感染者を片付けていった。彼女の活躍により、サイボーグの軍人は放電する能力を隠し通すことができた。当然、風音も彼がサイボーグであることを知らない。二人はすぐに反逆の会の拠点に到着した。
風音が階段を降りると、そこにはたくさんのインダルジェンスがいる。彼らは皆、サイボーグの軍人の正体が原罪者であることを知らないようだ。その場にいる誰もが、彼をインダルジェンスだと思い込んでいた。
ただ一人――――羽柴朱朔を除いては。
朱朔は軍人のことを不審に思っていた。この一瞬の間に、彼は多くの不可解な点に気づいていたのだ。彼は金属探知機を手に取り、軍人のすぐ目の前へと詰め寄った。
「あなたは……?」
「俺は宮間雄造……インダルジェンスだ!」
「ここまで来るのは大変だったでしょう。何しろこの地域では、たくさんの軍人が毎日のようにインダルジェンスの命を狙っていますから」
互いに腹の探り合いだ。宮間雄造と名乗った男性は、眼前の美男子の質問に慎重に答えていく。
「いや、今日は妙に平和だったよ! あの静けさは、まるで両親の夜の営みを見てしまったガキのようだったね!」
「こんな日は我々『反逆の会』にとっても実に珍しいものです。いつもは銃声が一日中鳴り止まないのですよ。何しろ、軍隊が相手であろうと、バベルの感染者が相手であろうと、我々には銃が必要になりますからね」
「確かに妙だが……まあ、平和に越したことはないだろうよ!」
両者ともに、ポーカーフェイスを保っている。だが、雄造は内心焦りを感じていただろう。それを朱朔が悟っていたか否かは定かではない。彼が確信していることは、眼前のサイボーグが怪しいということだけだ。
「ところで、あなたはどのようにここを訪れたのですか?」
「ああ、そこのお嬢ちゃんに案内してもらったよ!」
「そうではなく、あなたの使った交通手段について聞いています。バベルに汚染されているこの場所は立入禁止区域ですから、電車もタクシーも通っていないはずです。もし車で来たと言うのなら、その証拠として車の鍵を見せてはいただけませんか」
二人の会話は、徐々に朱朔による一方的な尋問へと変わっていく。彼はニヒルな笑みを、雄造は不敵な笑みを浮かべているが、両者の間で真剣な心理戦が繰り広げられていることは言うまでもないだろう。
「持ってねぇな。俺は徒歩でここに来たんだ!」
「あなたが軍隊に追われながら長距離を歩いたと仮定すると、それで体に傷を負っていないどころか息の一つも切らしていないのは不自然ですね」
「ああ、俺は元からこの地域の住民だからな!」
「バベルの影響を受けていない者同士である我々は、近所に暮らしていたというのに面識の一つもなかったのですね」
「それこそ、俺が傷の一つも負わずに五体満足で生きている最大の理由さ! 俺は身を隠すことには自信があるからな」
一見、雄造は矛盾を生むことなく質問に答えているように見えるだろう。しかし、反逆の会のメンバーたちは彼を疑い始めていた。
彼らにとって、人を疑う理由は「羽柴朱朔がその人を疑っているから」で十分なのだろう。反逆の会の人々は、朱朔に厚い信頼を寄せている。彼は自分の同胞たちを手下だと思ってはいないが、彼らには自分たちのことを手下だと思っている節がある。
朱朔は雄造の正体を暴いていく。
「僕が見たところ、あなたは妙に歩幅が広かったですね。腕も大きく振っていましたし、背筋も伸びていて姿勢が良かったです。更に、あなたは張りのある声をしています。これらの特徴は、軍人によく見られるものですよね?」
「おお、詳しいじゃねぇか! お前の言う通り、俺は軍人……正確には『元』軍人だ! 軍に従事していた人間にもインダルジェンスはいるし、俺はその一人だったんだ! 俺が軍の活動しない日付を予測できたのも、俺が元軍人だからさ」
「それは失礼しました。しかし、僕はまだあなたがどのようにバベルの感染者から逃げてきたのかを聞いていませんよ。感染者は無差別な破壊を繰り返す怪物です。あなたがどこに身を潜めようと、身を潜めている建物ごと破壊されてしまうのが関の山でしょう」
「化け物なら、自分で倒したよ!」
「今日は銃声が全く聞こえなかったのですが……あなたがどのような武器を使用していたのか、非常に興味深いですね。少しだけ調べさせてもらいます」
いよいよ金属探知機の出番だ。朱朔は金属探知機の電源を入れ、それを雄造の右手にかざした。無論、その場に電子音が鳴り響いたことは言うまでもない。
「あなたは、本当に人間ですか?」
生身の人間の手から金属反応が出るのは明らかに異常だ。ついに、朱朔の質問は核心に迫った。




