最初の魔法測定
闘技場には、準備体操を済ませた2年Cクラスが勢揃いし、ゴトー先生に注目を注いでいました。
「模擬訓練担当教官のゴトーだ。昨日の今日で、自己紹介も必要ないだろう。早速授業を始めたいが、その前にだ。この場で四人一組の班を作ってくれ。暫くはその班単位で活動してもらうから、そのつもりでな。ほら、いくぞっ」
パン、とゴトー先生が手を叩くと、疎らに人が動き出しました。
一年生時からクラスが変わっていないグループが固まって、他は様子見というところでしょうか。
「フランソワ、一緒にやろ! 」
「ええ、よろしく」
わたくしは、隣にいたスーナとは早々にペアを作れましたが、後が続きません。
一度も話したことがない子に話し掛けるのには、躊躇します。
「なぁ、スーナ。俺も入れてくんねぇか?」
「あら、アッシュじゃない。いいわよ、いらっしゃい」
「さんきゅな」
アッシュと呼ばれた少年が、スーナに話し掛けました。
アッシュさん。
最初に自己紹介されていたので、よく覚えています。
確かご兄弟がたくさんいらっしゃる、と仰っていました。
「フランソワ、ごめん。勝手に入れちゃった」
「謝ることではありませんわ。アッシュさん、よろしくお願いしますわ」
「アッシュさん!? うへぇ、アッシュでいいです。俺は馬鹿だから、そんな丁寧に喋るのは下手なもんで」
「なるほど。それでは、アッシュ。わたくしのことはフランソワと呼んでください」
「は!?…… えっと、そっちが言うならいいのか? えーっと…… じゃあ、よし!フランソワ、よろしくな!」
アッシュは、小柄ながら筋肉の張った胸を叩いて言いました。
スーナの友だちだけあって、彼女に似て、元気のいい少年です。
四人一組ですから、残るは一人です。
アッシュが男性一人になってしまうので、できれば男性を入れるべきでしょう。
わたくしが思案していると、まるでタイミングを見計らったかのように、声を掛けられました。
「フランソワ様、よろしければ僕と組んでくださいますか」
穏やかで丁寧な口調です。
その主は、意外な人物でした。
「テノールさん!」
「「ええっ!!」」
「初めまして、テノール=アポカリプトと申します。以後お見知り置きを」
「わたくし、フランソワ=リーンヴェルトですわ。こちらこそ、よろしくお願い致します」
テノールさんは昨日、貴族たる者強くあれと、わたくしにとって非常に頭が痛いことを仰っていました。
貴族であるにも関わらず落ちこぼれのわたくしは、テノールさんの理想の対極と言える存在です。
わたくしは魔法が苦手だと告白したはずなのに、どうして声を掛けて貰えたのでしょうか。
もしかして、謙遜だと受け止められたのでしょうか。
「お二人もいいですか?」
「もちろんよ」
「俺も」
断り難い空気になってきました。
そもそも断る必要は無いのですが、テノールさんがわたくしと同じ班に入るだなんて、どうしても違和感を感じてしまいます。
「フランソワ様、僕を入れて頂けますか」
「…… ええ、テノールさんさえ宜しければ、わたくしは歓迎しますわ」
「そろそろ、できたか? では、右から1班、2班、3班--」
わたくしたちは1班だと告げられました。
ゴトー先生は、矢継ぎ早に指示をしていきます。
まず、6〜10班は校庭に移動していきました。
校庭では体力テストを行うようです。
一方のわたくしたち1〜5班は、闘技場に残り、魔法のテストを行うとのことでした。
「まずは、1班と2班! 舞台に上がりなさい。他の班は舞台下で見学するように!」
わたくしたちは、舞台へと上がりました。
2班には、メランダとマルタさんもいました。
正直に言うと、彼女たちには特に、無様な姿を見られたくありません。
それに、最後にこの舞台へと登ったときのこと、つまり昨年度末テストの嫌な記憶が、どうしても頭を過ってしまいます。
「それでは、これからテストを行う。俺は魔法の専門ではないので、どんな魔法を使えるかという点で評価するつもりは無い。ただ、現状確認という意味では、この魔法のテストも必要なことだ。全力で行うと約束してもらいたい。どうだ?」
「「「はい」」」
全力で行うのは当然のことです。
当然のことですが、わたくしはどんどん逃げ場が無くなっていくのを感じていました。
この衆人環視の中、これから醜態を晒すのだと思うと、足が竦みます。
「2班は次に同じことをするので、後ろで見ていなさい。では、1班! ここに来て、並んで」
わたくしたちは横一列に並びました。
左から、アッシュ、スーナ、テノールさん、そしてわたくしの順です。
「4人とも、杖を出して。俺に続いて、魔法を唱えるんだよ。ではいくよ、【トーチ - 光よ】」
トーチは、最も基礎的な火属性の魔法です。
これならば、わたくしにもできます。
ゴトー先生の復唱をして、わたくしたちの杖の先には、光が灯りました。
「アッシュ、いい輝きだね。安定感もある」
「火属性は得意なもんで」
ゴトー先生は、ゆっくりと歩いて観察し、何かをノートにメモしているようでした。
「テノールも流石だな。眩しいくらいだ」
「お褒めに預かり、光栄です」
わたくしのライトには、ゴトー先生は何もおっしゃりませんでした。
「ふむ…… それまで。では、次にいくぞ。真似してくれ。【アクア - 水よ】」
次は水属性の基礎魔法、アクアです。
ゴトー先生の唱えた呪文を4人で復唱すると、テノールさんの杖から一際勢いよく水が流れ出しました。
「いいじゃないか!」
「水属性は、僕の得意魔法ですから 」
テノールさんが言いました。
得意と仰るだけあって、杖の先からはかなりの勢いで水が噴出しています。
この調子では、彼の足元に大きな水溜りが出来そうです。
「それまで! 」
その後、風属性のウィンド、土属性のホールでも同じようにしましたが、やはりテノールさんが抜きん出ていました。
基礎魔法とはいえ、わたくしが昨年度在籍していたAクラスの子たちにも、引けを取っていないように見えました。
それに比べて、わたくしの魔法はといえば、明らかに見劣りしていました。
基礎魔法だけは、誰にも負けないぐらい練習したはずなのに。
悔しさが胸に募ります。
「次は、俺に向けて撃とうか。【パルス - 音よ】」
力学魔法のパルスは、音を回りに漏らさず、目的地点に届ける魔法です。
ですから、対象から外れた人には何も聞こえません。
「スーナは力学魔法の制御に長けているな。綺麗な音色だ。ふむ、フランソワも良くできているよ」
「えっ…… 」
わたくしは、思わず息を漏らしてしまいました。
そんなはず、ないのに。
どうして……
「テストは終わりだ。1班は降りて、3班と交代するように。2班は前に出て並んで! 」
「…… フランソワ? どうしたの、ボーッとして」
「……あ! ご、ごめんなさい。今行きます!」
スーナに呼ばれて、わたくしは慌てて舞台を降りました。




