友だちの選び方
「せっかく同じクラスになれたのですから、わたくしは皆さんと良いお友達になりたいと思っていますわ。ですから、わたくしのことは気軽に『フランソワ』と呼んでください」
わたくしは、スーナに呼び捨てで呼ぶことを許した手前、メランダさんたちにも同じ提案をしました。
「ええっ! いいんですかっ!」
「もちろん! これからもよろしくね、メランダ!」
「まあ! 光栄ですわっ! えっと…… これからもよろしくお願いしますっ、フランソワ! 」
ギクシャクとしますが、最初はこんなものでしょう。
少しずつ、打ち解けられればと思います。
メランダの隣では、マルタさんが驚いたような表情でわたくしを見つめていました。
そして、ついつい目が合ってしまいます。
「…… 私はフランソワ様とお呼びさせていただきますわ」
「そ、そうですか…… 」
こういう反応も予想できたことです。
それでもわたくしは、マルタさんに拒絶されたことに軽くショックを受けていました。
やはり、昨日の自己紹介で印象を悪くしてしまったのでしょうか。
「あっ、えっと! そちらの方はどなたですかっ? 紹介していただきたいですわっ! 」
少し気まずくなった空気を変えようと、メランダは、やや強引にですが、新たな話題を提供してくれました。
「ええ、もちろん。こちらはスーナですわ。わたくしも今朝知り合ったばかりなのだけど」
「スーナです。メランダさん、マルタさん、今年もよろしくお願いします」
なるほど、彼女たちは昨年も同じクラスだったのですね。
などと、呑気に考えていたのはわたくしだけでした。
空気が凍り付くとはこのことでしょう。
スーナは笑顔を貼り付けたまま。
マルタさんは無表情ながら、目を見開いたようにも見えました。
そして、露骨に顔を顰めたのは、メランダでした。
「あ、あなたですの!? …… フランソワ、なぜ? この子は平民ですよっ!? 」
「ええ、そうよ。でも、学園で身分は関係ないわ。仲良くしましょう」
「で、ですがっ! …… 」
わたくしの言葉に、メランダはショックを受けたようでした。
絶句という表情で、彼女はワナワナと震え出しました。
「フランソワ様。授業の準備があるので、私たち、これで失礼しますわ」
マルタさんはそんなメランダの様子を見て、そう切り出しました。
「ええ…… 分かりました。それでは、ごきげんよう」
「失礼します」
マルタさんは踵を返すと、メランダの手を取って連れて行こうとしました。
メランダはその手を一度は払い除けて、一言だけ言い残していきました。
「フランソワ。私、友だちは選んだ方がいいと思いますっ。 …… ごきげんよう、失礼しますっ。」
そのまま、二人は歩き去っていきました。
わたくしは、呆気に取られてしまいました。
ふとスーナの方を見ると、彼女は平静を装っているように見えました。
「スーナ、ごめんなさいね」
「そんな、いいのに。フランソワが謝ることじゃないよ。それに、あの人たちが平民を嫌うのは、いつものことなの。スーナは全然気にしないよ。それより、フランソワが庇ってくれたのが嬉しかった! ありがとう、フランソワ。スーナは、お隣さんがフランソワで良かったよ!」
「ありがとうございます。でも、わたくしといると、今後も似たようなことがあると思います。それでも、スーナはわたくしと友だちになってくれますか?」
「バカね」
「ば、ばか!?」
「そう、バカ。フランソワと友だちになりたいのは、スーナの方だよ。それに、スーナとフランソワはもう友だちでしょ? 違うの? 」
「…… そうですね! わたくし、スーナと友だちになれて、良かったですわ! 」
「スーナも! 」
スーナは可憐に笑いました。
なんて素敵な笑顔でしょう。
わたくしは、どんどんスーナに心惹かれています。
スーナと話していると、幾分気は楽になりました。
しかし、この後の授業でまた会うのですから、憂鬱に変わりはありません。
せめて、実技の授業までは良いイメージの自分を保ちたかったのですが、現実は思い通りにいかないものです。
「はぁ…… 」
思い出すと、ついつい溜息が吐いて出てしまいます。
「あ、フランソワ、今溜息吐いたでしょ! 溜息ばっかりしてると、運が逃げちゃうんだよ! 」
「ごめんなさい、スーナ。わたくし、つい癖で…… 気をつけますわ」
ご両親から運気が逃げると教わって以来、スーナは溜息を吐かないようにしているそうです。
確かに人前で溜息を吐くのは、淑女に相応しい振る舞いではありません。
わたくしも気を付けなくては。
スーナが、わたくしを貴族扱いせずにいてくれるからでしょうか。
わたくし、スーナと二人きりだと、安心して気が緩んでしまうようです。
「それより一時限目、模擬訓練でしょ。着替えなきゃいけないし、もうそろそろ行こうよ! 」
「そうでしたね、それでは、行きましょうか」
「うん」
「あ、あれっ? 」
一瞬だけ、わたくしは目の前が真っ白になりました。
「フランソワ、大丈夫!? 」
「…… 大丈夫、単なる立ち眩みです。ありがとう、もう大丈夫ですわ」
「本当? 授業休む? 」
「本当に、大丈夫です。気にしないでください。もう行きましょう」
「フランソワがそう言うなら…… でも、無理は禁物だよ」
「はい、わたくし無理はしませんわ…… 」
そう口に出してみると、それは嘘ではないはずなのに、なぜか胸が締め付けられるような気がしました。




