第8話
15歳。
義務教育という檻から解き放たれた私は、自活するための手段を模索していた。
これまでのように、結お姉ちゃんにナンバーズの換金を頼み続けるわけにはいかない。
あちこちの売り場を巡り、足がつくリスクを冒しながら少額当選を回収する――
それがどれほど神経を削る作業だったか。
自分一人で生きようとして初めて、
私は彼女にどれほど大きな「泥を被らせていたか」を痛感した。
胸の奥が、じわりと重くなる。
(……もう、甘えてばかりはいられない)
「占いを始めよう」
それが、私が思いついたもっとも効率的な“能力の換金方法”だった。
けれど、街角で勝手に始めるわけにはいかない。
地元のヤクザも、警察も、そんな無許可営業を見逃すはずがない。
私は、雑多な占い師たちが軒を連ねる――
いわゆる「占いの館」の門を叩いた。
◇
最初は見習い。
掃除、客の案内、ベテラン占い師たちの雑用。
そんな日々が続いた。
だが、チャンスは突然訪れた。
一人の占い師が急に辞め、ブースが一つ空いたのだ。
私はベールで顔を隠し、サングラスとマスクで素顔を完全に封印した。
占いの世界では、若い少女よりも
“人生経験豊富そうな年配女性”のほうが信憑性がある。
けれど、私にはそんなハッタリは必要なかった。
――私は、確実に見えるのだから。
「……いらっしゃいませ。どうぞ」
初めての客は、若いカップルだった。
「ねえ、私たちの将来を占ってよ」
ウィンドウをスキャンする。
数秒後、私は淡々と事実を告げた。
「……三ヶ月後、お姉さんの浮気がバレて破局する未来が見えます」
「はぁっ!? ふざけないでよ! 私に浮気相手なんていないわよ!」
「ええ。相手の男性が現れるのは『二ヶ月後』ですから」
女性が激昂し、隣の彼氏の顔色が変わる。
「……おい。お前、浮気すんのかよ?」
「するわけないでしょ! こんなインチキ占い師の言うこと信じるの!?」
二人は怒り心頭で席を立った。
「あの……鑑定料」
声をかけると、蛇に睨まれたような顔で私を睨みつけ、
代金を払わずに立ち去ってしまった。
◇
二人目の客は、疲れ切った表情の若い男性。
「……仕事運を、見てもらえますか」
「貴方は、三年後に癌で亡くなります。
来年倒れて、その後の検診では手遅れだと言われる
未来が、ここにはっきりと映っています」
「……っ」
男性は絶句した。
顔から血の気が引き、震える手で財布から金を出す。
「マジっすか……マジ、っすか……ありがとう、ございました……」
魂を抜かれたような足取りで、ふらふらと去っていった。
◇
三人目は、女子高生くらいの女の子。
「私の恋愛運、見てくれる?」
「結婚は30歳ですね」
「えーっ、そんなに遅いの?」
「今の彼氏とは、卒業して三ヶ月で別れます。
二人目はその一ヶ月後に出会って、二ヶ月付き合います。
その半年後に出会う三人目の彼氏と、あなたは結婚します」
「ちょっと待って。卒業って高校のことでしょ?
ってことは、その『三人目』と出会うのって19歳じゃん。
付き合い始めてから結婚まで11年もかかるの?
あんた、計算できないの? 嘘つくにしても、
もうちょっとマシな嘘吐きなさいよ!」
彼女は鼻で笑い、代金を叩きつけるように置いて帰っていった。
◇
その日の夜。
私は支配人に呼び出され、即座にクビを言い渡された。
「……君ね。うちは『予言』を売ってるんじゃない。
『夢』を売ってるんだよ。客を泣かせたり怒らせたりして、
商売になるわけないだろう」
支配人の言葉を背中で聞きながら、私はベールを脱ぎ捨てた。
真実を告げれば怒られ、
死を告げれば恐れられ、
正確な時間を告げれば嘘つき呼ばわりされる。
的中率100%。
その数字が、どれほどこの世界で「居場所がない」ものなのか。
夜の街を歩きながら、私は初めて
『占い師のジレンマ』の深淵に触れた気がした。




