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第8話

15歳。

義務教育という檻から解き放たれた私は、自活するための手段を模索していた。


これまでのように、結お姉ちゃんにナンバーズの換金を頼み続けるわけにはいかない。

あちこちの売り場を巡り、足がつくリスクを冒しながら少額当選を回収する――

それがどれほど神経を削る作業だったか。


自分一人で生きようとして初めて、

私は彼女にどれほど大きな「泥を被らせていたか」を痛感した。

胸の奥が、じわりと重くなる。


(……もう、甘えてばかりはいられない)


「占いを始めよう」


それが、私が思いついたもっとも効率的な“能力の換金方法”だった。


けれど、街角で勝手に始めるわけにはいかない。

地元のヤクザも、警察も、そんな無許可営業を見逃すはずがない。


私は、雑多な占い師たちが軒を連ねる――

いわゆる「占いの館」の門を叩いた。



最初は見習い。

掃除、客の案内、ベテラン占い師たちの雑用。

そんな日々が続いた。


だが、チャンスは突然訪れた。

一人の占い師が急に辞め、ブースが一つ空いたのだ。


私はベールで顔を隠し、サングラスとマスクで素顔を完全に封印した。

占いの世界では、若い少女よりも

“人生経験豊富そうな年配女性”のほうが信憑性がある。

けれど、私にはそんなハッタリは必要なかった。


――私は、確実に見えるのだから。


「……いらっしゃいませ。どうぞ」


初めての客は、若いカップルだった。


「ねえ、私たちの将来を占ってよ」


ウィンドウをスキャンする。

数秒後、私は淡々と事実を告げた。


「……三ヶ月後、お姉さんの浮気がバレて破局する未来が見えます」


「はぁっ!? ふざけないでよ! 私に浮気相手なんていないわよ!」


「ええ。相手の男性が現れるのは『二ヶ月後』ですから」


女性が激昂し、隣の彼氏の顔色が変わる。


「……おい。お前、浮気すんのかよ?」


「するわけないでしょ! こんなインチキ占い師の言うこと信じるの!?」


二人は怒り心頭で席を立った。


「あの……鑑定料」


声をかけると、蛇に睨まれたような顔で私を睨みつけ、

代金を払わずに立ち去ってしまった。



二人目の客は、疲れ切った表情の若い男性。


「……仕事運を、見てもらえますか」


「貴方は、三年後に癌で亡くなります。

来年倒れて、その後の検診では手遅れだと言われる

未来が、ここにはっきりと映っています」


「……っ」


男性は絶句した。

顔から血の気が引き、震える手で財布から金を出す。


「マジっすか……マジ、っすか……ありがとう、ございました……」


魂を抜かれたような足取りで、ふらふらと去っていった。



三人目は、女子高生くらいの女の子。


「私の恋愛運、見てくれる?」


「結婚は30歳ですね」


「えーっ、そんなに遅いの?」


「今の彼氏とは、卒業して三ヶ月で別れます。

二人目はその一ヶ月後に出会って、二ヶ月付き合います。

その半年後に出会う三人目の彼氏と、あなたは結婚します」


「ちょっと待って。卒業って高校のことでしょ?

ってことは、その『三人目』と出会うのって19歳じゃん。

付き合い始めてから結婚まで11年もかかるの?

あんた、計算できないの? 嘘つくにしても、

もうちょっとマシな嘘吐きなさいよ!」


彼女は鼻で笑い、代金を叩きつけるように置いて帰っていった。



その日の夜。

私は支配人に呼び出され、即座にクビを言い渡された。


「……君ね。うちは『予言』を売ってるんじゃない。

『夢』を売ってるんだよ。客を泣かせたり怒らせたりして、

商売になるわけないだろう」


支配人の言葉を背中で聞きながら、私はベールを脱ぎ捨てた。


真実を告げれば怒られ、

死を告げれば恐れられ、

正確な時間を告げれば嘘つき呼ばわりされる。


的中率100%。

その数字が、どれほどこの世界で「居場所がない」ものなのか。


夜の街を歩きながら、私は初めて

『占い師のジレンマ』の深淵に触れた気がした。

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