最終話
事件から数日。
私は母さんと――そして新しいお父さんと一緒に暮らし始めた。
ハジメがあの日、公共の電波で放った「宣戦布告」の影響は凄まじかった。
マスコミは血眼になって“予言の少女”を特定しようとしたけれど、
新しいお父さんの毅然とした対応と、私の“筋金入りの引きこもり適性”が勝った。
家から一歩も出なければ、誰にも会わない。
数ヶ月もすれば、人々の興味はハジメが次々と塗り替えていく“新しい世界のニュース”へと移り、
家の前のマスコミも、潮が引くようにいなくなった。
かつて私が死に物狂いで守ろうとした「1999年の記録」は、
今やハジメの手によってズタズタに書き換えられている。
けれど――
そんなデタラメな世界が、今の私にはとても心地よかった。
◇
ある日。
リビングで寛ぐ母さんのウィンドウを何気なく覗いた私は、息を呑んだ。
数日後の未来。
そこには、大津波のニュース映像が流れていた。
「……お母さん」
私は母さんに相談した。
この津波を予言すれば、また世界が騒ぎ出す。
せっかく手に入れた平穏が壊れ、家族に迷惑をかけてしまう。
迷う私に、母さんは優しく、けれど力強く言った。
「そんなの、迷惑なんて思わないわよ。
……絢、その力は何のためにあるのかって、ずっと悩んできたんでしょ?
なら、もう答えは出てるはずじゃない」
その言葉が、ストンと胸に落ちた。
そうだ。
ハジメが“占いを外すため”に世界をかき混ぜてくれたように――
私は“誰かを救うため”に、あえて外れる予言を叫べばいい。
私は、懐かしい番号をダイヤルした。
「……もしもし、ハジメ? 久しぶり。……うん、元気。
……あのさ、また仕事、増やしていいかな」
受話器の向こうで、ハジメが楽しそうに笑う気配がした。
私の瞳に映るウィンドウは、今日も無機質な数字を刻んでいる。
けれど、その先に続くのはもう“真っ黒な空白”じゃない。
私たちが、これから自由に描き変えていく――
真っ白なキャンバスだ。
(完)




