表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国へ贈るコイン  作者: 西松清一郎
38/38

5-3

  ◇


 鎧塚邸二階の和室。美術家、鎧塚千鶴子が金庫の前で膝をつき、その様子を横に立った中尾がしめやかに見守っている。


「ヒロくん」美術家の口調は泣き声に近かった。「産んであげたかったんだよ。暗かったねえ。せまかったねえ。苦しかったねえ。ヒロくん、ごめんねえ。本当にごめんねえ」


 背中を向ける鎧塚の表情は見えないが、もしかしたら本当に泣いているのかもしれない。


「お母さん、いっぱいご飯食べさせてあげたかったんだよ。ヒロくん、ねえ。好きなおもちゃも買ってあげたかったんだよ。お友達もできたら、いっぱい遊ばせてあげたかったんだよ。ねえ、ごめんねえ」


 パトカーの中、知世はダッシュボードに乗せた成沢のスマートフォンで、この様子を眺めている。

「さっき、ここへ来る前」運転席の成沢が独り言のように言う。「あの美術家の主治医のもとへ行ってきてな」


 警部はそこで言うのをやめ、再び沈黙が戻った。

「あ」知世はふと思い出した。

 警部が美術館で買ったあの裸婦像。まさか、二階のあの棚に……


「ヒロくん、いっぱいお小遣いあげるからねえ。向こうで好きなものなんでも買ってねえ」

 美術家はそう言うと、懐からビニールを巻かれた五百円硬貨の束を出した。画面からはよく確認できないが、どうやら本物らしい。それを畳の上に立てると、そっと右手を添えた。それから介護士も屈み込むと、美術家の手に両手をあてがった。


 二人はその姿勢のまましばらく動かなかった。やがて、美術家の手が硬貨の束から離れたとき、介護士はポケットの中で握っていた金色のコインの束を出し、音もなく本物とすり替えた。


 美術家は何も言わず、金色のコインの束を金庫にしまう。

「二課の出番だ」成沢は運転席のドアに手をかけて、言った。

「あの美術家の目は見えないんだ。一年前からな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ