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促されるまま知世は成沢について次に向かった。その中で、話の間に受け取った一言も発せなくなるほどのその重みを、なおも嚙みしめていた。横に顔を向けると、警部も口を閉ざしたままでいた。その頭の中では、知世が考えるよりももっと多くのことが去来しているようだった。
沈んだ気持ちを足かせのように引きずっていると、思わず「あ」と声を出しそうになった。進んだ先の部屋で、赤い台に乗った、あの五百円玉を模した作品が視界に入ったのである。
知世は大きな身振りにならないよう注意しつつ、再び展覧会のチラシを顔の前へ持ってきた。これだ、間違いない。作品は前もって想像していたよりもはるかに大きかった。直径は少なく見積もっても50センチ以上。裏側の、粘着物から無理やりはがして出来たような突起物は、そのまま飛んでいく方角を示す効果線にも見える。
「これですね」知世は成沢に顔を寄せると、小声で伝えた。ただし、成沢は軽くうなずいただけで、捜査を進展させる情報をよこそうとはしなかった。
作品から目を離し、周囲への視野を大きくとると、「新作」の間の全貌が少しずつ捉えられるようになった。今度は、うって変わって、過剰ともいえる「きらめき」がそこら中に溢れている。冷水と湯を順に飲ますようなその極端な待遇に、知世はしばらく唖然としてそこらを眺めまわした。