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成沢がそこまで聞いて黙ったので、知世は鑑識による資料に目を移した。
内部素材:鋳鉄(鉄、炭素、ケイ素からなる合金)
表面素材:黄銅(銅、亜鉛からなる合金)
直径:26.5mm
量目:7.7g
※図柄に現行貨幣との差異有り
素材として高価な金は一切使われていない。現行のバイカラー・クラッド貨と比べると、随分粗悪な印象を受ける。純金に似せた表面の光沢も鮮やか過ぎて、そこに本物らしい洗練さは少しもうかがえない。
「どうだ」成沢が真っ直ぐ前を向いたまま訊いた。「二課の刑事の観点で、それは贋金と言えるか」
「言えません」知世は即答した。「贋金はおろか、模造でもありません。本物と比べて重量がやや大きく、組成も全く違うので、現代の自販機に入れれば、ほぼ百パーセントはじかれます」
そして。知世は喋りながら、もう一度資料を眺める。紙片上部には、問題のコイン表裏それぞれのカラー写真が掲載されている。表に大きく印字された『見本』の文字、そして裏に赤く捺染された翼のような模様。
「そして何より、表裏それぞれに、目立つように文字と図柄がプリントされてます。全体の色も派手な金ですし、どちらかというと、儀式的な装飾品のように見えます」
成沢はそこまで聞くと口をつぐみ、前を見続けた。