第二話「大男」
僕は、ついにソイツの全貌を見ることとなった。
そいつは、予想通り3メートルくらいの身長で、真っ黒な服を着ており、大きなまたこれも真っ黒な靴を履いている。そして顔だが、青白い皮膚をしており、頭には黒い大きさぴったりの帽子をかぶっており、目は丸く、眼球は橙色をしている。なかでも特徴的なのが、口を覆い隠す大きなマスクをしているところだ。そのマスクには、見ただけでも相手を振るいあがらせるような歯が描かれている。
妙に余裕があるなと思うかもしれないが、人間のいうものは、危機的状況になったときに、五感が覚醒し、今の僕は特に、見たものを一瞬で脳内理解をする視覚が覚醒しているようだ。
そんな恐ろしい姿を見て、僕は恐怖のあまり、地面に手をつき、必死に
「こっ…殺さないでください!!!決して悪い者ではありません!!許してください!!!」
と、命乞いをしていた。
すると、そんなものを無視するかの如く、その大男は僕に手を伸ばし、僕の服を摘まみ上げた。
ーああ…僕はこいつに食われて死ぬのか…
僕は、そう思うことしかできず、目をぎゅっとつぶり、食われるという現実を、大人しく受け入れるしかなかった。
すると、その大男はこう言うのだ。
「おまえ、ニンゲンってやつか?」
僕は驚きと恐怖のあまり、声を出そうとしても息がヒューヒューなるだけだった。
「人間です!!!害のない人間です!!!」と言おうとしてもなにも言葉が出てこない。
そんな僕の様子を見かねたのか、大男は僕をやさしく地面に下した。そして、想像もつかない言葉を口にしたのだ。
「あーー…わりいな。おれはおまえを怖がらせるつもりはない。俺はお前が思うような怖い奴じゃない。ただ…お前を見て面白い奴だと思ってな」
その言葉を聞いても、やはり、僕の恐怖心は消え去らない。そして、僕が依然恐怖でビクビクしているとまたその大男が口を開いた。
「えー…、こういうとき、相手を落ち着かせるにはー…ええと…何だったか…あ!そうだった。自己紹介し合うのが良かったな」
そして、その大男は、自分の正体を何のためらいもなく打ち明けたのだ。
「俺ぁ、ゾンビだ。ちなみに名前はないがな」
そういうとそのゾンビは大声で笑い始めた。思わず耳を抑えてしまうほどの大声だった。その笑い声を聞いて僕は吹っ切れたのか、声が口から出たのだ。
「僕は…人間です…名前は…忘れました…」
すると、ゾンビは今までにないほど目をかっぴらき、
「やっぱり人間か!名前がないだなんて俺と同じじゃねえか!これはお前と仲良くできそうだ!」
とどこか嬉し気に言った。名前、ないわけじゃないんだけどな…とは思ったが、変に口答えしたら、それこそ危険だと思い、口をつぐんだ。すると、ゾンビは驚くことを提案してきた。
「よーーし!それじゃあ、互いに名前を付け合おうぜ!どうだ?名前のない者同士それで友好を深めようぜ!」
僕は、気づいたころには、恐怖心も吹っ飛んでいた。だが、名前を付け合う…という言葉に驚かざるを得なかった。困惑しているうちにゾンビは
「まず俺がお前の名前を付けてやるぞ!そうだなぁ…」
と言いながら僕の顔をまじまじと眺めてくる。そして、こう言った。
「決まったぞ!お前の名はクライだ!お前の暗い雰囲気と涙を流すcryをかけてるんだぜ!どうだ、気に入ったろ?」
僕は、正直このゾンビはふざけているのかと思った。確かに、自分は暗いだろうし、今さっきも涙を流して命乞いをしていたが、さすがにおかしいだろと思った。が、ここで言い返せば、食われると思い、また口をつぐんだ。ゾンビは
「今度はお前の番だぜ。とびっきりかっこいいのを頼むぜ!」
と言い、楽しげに待っていた。僕は、もう従うしかないと思い、大人しくゾンビの体を眺めた。
しっかり見れば見るほど、恐ろしい奴だと思った。だからこそ良い名前を、思いついた。僕は小声で控えめに
「そっ、それじゃ……ディケイドってのはどうですか?ほっ、ほら…あなたはゾンビなのですから、朽ちた、という意味のdecayedからとったんです…」
といった。すると、ゾンビは、少し眉間にしわを寄せ、僕の顔をにらんだかのように思え、僕はすくみ上った。が、次の瞬間、ゾンビは大きな手をたたきながらこう言うのだ。
「ディケイド!!いやあ、かっこいい名前じゃねえのおい!お前さいっこうだな!名づけのセンスあるんじゃねえの?」
予想外の反応に、どう返せばいいのかわからなかったが、僕は、自分が疑問に思ったことを思い出し、やはり控えめに尋ねる。
「あの…すいません…ディケイドさん?ここってどこなんですか…?」
すると、ディケイドは、少し笑って
「名付け親はお前なんだから、呼び捨てでいいっての。ここか?【トーキョー】だぜ」
「と…東京…ほかに人間はいないんですか?」
「敬語もやめようぜ?俺たち気が合うじゃねえか?ほかにか?いねえぞ?お前が最初の一人目だ」
「な…なんだって!?」
僕は驚いてしまった。僕が覚えている東京ってのは、人間がたくさんいる街で、こんな化け物など、いっぴきもいない街のはずだった。何かがおかしい…ここ…何かがおかしいぞ…
すると、ディケイドは、僕の考えていることを察したかのように、衝撃の事実を告げるのだ。
「クライ、お前何か勘違いしてるんじゃねえか?ここはお前が思っている【東京】ではなく【トーキョー】だぜ?全くの別の場所だ。まあ、俺も【東京】の存在は本でしか読んだことがないからよく分かんねえけどよお」
正直、驚くばかりだ。【東京】とは別に【トーキョー】があっただなんて。そして、その驚きと同時に、これから先への絶望感が見えだした。一体、僕はどのようにすれば元の世界に帰ることができるのだ…
そんな僕に気づかず、ディケイドはこう言った。
「おい、クライ!俺の家に案内してやるよ!」
僕はためらいもあった。しかし、ここでこいつに逆らって逃げたところでかくまってくれるやつもいないだろう。僕は腹をくくり、こう答えるのだ。
「ああ、頼むよ、ディケイド」
すると、ディケイドはマスクで見えないものの、明らかに笑顔になっているのが分かった。
第二話完




