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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『傀儡士』 四季守ミサオ編
7/22

〜即席魔導人形(インスタントゴーレム)⑦〜




何で?




どうして?




納得がいかない。

国の直轄設備だから?それとも、ムラクモが舐められてる?

…いや、3課が舐められてるのか?

早く許可を出してくれないと……





これは消耗戦の様相だ。




私は焦っていた。

私だけじゃない。

3課全体が、ピリピリしてきていた。






「くそっ、あれから何件目だよ!?」


「…5件目です」


「あーくそっ!」


苛立ちを隠さず帰社してきたカゲ先輩。

その姿は埃と泥まみれだ。

今回は帯同して行ったキヨ先輩もだいぶ汚れている。


「これじゃいたちごっこだぞ、根っこを叩かなきゃどうにもならねぇ!」


脱いだ特注のロングジャケットを、デスクにどさっと放り投げてカゲ先輩が毒づく。

内側に様々な道具、忍具を仕込んだジャケットは、重そうにがちゃんっと音を立てた。


「参ったねぇ。対処法は分かってきたとはいえ、これじゃキリがないね」


結った髪をほどいて、キヨ先輩も苦笑いしている。


「お疲れー、ほぃ、どーぞ」


ヒトミが、サーバーからあったかいおしぼりを2人分投げる。


「お疲れ様でした。私もさっき戻った所です」


「おぅ。てかアザミのメンテとか大丈夫か?」


「御門主任も嘆いてました」


「…だよな」




あれから2週間。

似たような事件が続いてる。

携帯に映し出された、魔動人形の刻印と、被害者を取り込み暴走する魔動人形。

最初の件とほぼ同じ状況だ。

被害者は様々。フリーターや、高校生、中学生……。

みんな光るプログラムが携帯に残っていた。



携帯を発見して、刻印を消し飛ばせば鎮圧できるという対処法は分かったものの、スマートに毎回できる訳がない。


私も、もう疲れたよ。

魔動人形に対して、傀儡をぶつけるのがリスクが少ないのは確かだよ。

でも、使い詰めじゃアザミも持たない。

カゲ先輩や、3課のみんなも輪番で出動しているけど、1回1回がハードだもん、そりゃしんどいよ。

それだけ、あの即席人形はパワーがある。

こんな簡単に、あんなレベルのものをポンポン出されても……って感じ。


はぁ……これじゃ今日も残業だ……。

カフェどころか、夕飯もろくなものが食べられない。


どんよりした空気の中。






「うぇ〜っす、お疲れっす〜」


やたら間延びした、ハスキーな声に全員がオフィス出入り口を見た。

誰かな…?聞いた事ない声。

できれば、今このタイミングでの来客は困るんだけど。

みんなナーバスになってるし…。


「……こっわ。みんな目ぇ血走ってんじゃん」


ほらね。みんな怖い顔してるに決まってるじゃん。

声の主は苦笑いしながら、ひらひらと手を振った。


毛先に向かって明るくなる、グラデーションの金髪。手を振る指先は、ド派手なネイル。しかも長い…


…うん、だいぶ長いな?


服装は、黒のジャケットのセットアップ、下のタイトスカートはやたら短くて、何だかとっても…

…えっちだ。そこからのぞく、こんがり焼けた肌の太もも。

…うん、えっちだ。生足だ。若い、いいなぁ若さって。

インナーは、シンプルな白のカットソー……あ、おヘソ出てる。

しかも、カットストーンの付いたへそピアスしてる!

……え、えっちだぁぁぁ~。






…で、誰?





「あの、どちら様…?」


最初に口にしたのはヒトミだ。


「取引先様……ではないよね?」


「ウチの社員……かなぁ?見た事ないけど」


「キミ可愛いねぇ、どこから来たの?」


「……えっちだ……」


「おい誰だよ、こんな時にデリヘル呼んだ奴はよ」


ちょっと!最後の発言、誰!?相手によっては大事になりますよ?

思わずウチの口悪チンピラ忍者を睨む。

しゅばっ!……って音が出そうな勢いで目を逸らすチンピラ忍者。

…やっぱりアンタか。

…まぁ、仕方ないかぁ。イライラしてるもんね、明らかに。口悪いのは元々なのに、機嫌悪いからますますだよね、うん。

けど、ダメだよ先輩。私はあなた推しだから大目に見ちゃいますけど、世の中言っていい事と悪い事があるし、言っていい相手と悪い相手がいるんです。

…という目線で、それをじぃーっと訴える。


一方、言われた相手の黒ギャルさんは、そんな言葉は意に介さず(聞こえてなかったのかも)、長ーいネイルのついた手をおでこに当て、敬礼する素振りでニカッと笑った。


「ちぃす、4課にインターンでお世話になってる、『湯川ユウカ』でぃす。ギャグみたいな名前で覚えやすいっしょ〜?」


付けまつ毛にがっつりマスカラの目をしばたかせ、ユウカと名乗ったその子は近場のデスクに腰掛ける。

タイトスカートからのぞく太ももが、より一層強調されて何ともえっちい。


実直で寡黙な人揃いの4課に、こんな子がインターンで……後々正式入社なんてことになったら、何かその……色々大変そうだな…。


「皆さんお疲れ様です。4課から、差し入れです」


その黒ギャルの後ろから、かっちりした黒のパンツスーツ姿の女性が、両手に買い物袋を持って現れた。

4課の修復士(リペアラー)、直江サクラコさんだ。


4課の姿勢を強調するような、無表情の黒スーツに、凛とした背筋の佇まい。身長も170くらいはあるかな。後頭部でお団子にした髪型といい、個性を殺してる感じが、黒ギャルと正反対過ぎる。

いや、これが4課の本来のはずなんだけど。


「ありがとうサクラコちゃん。…で、そのギャルちゃんは?見学で連れてきたの?」


キヨ先輩、やんわりした言い方だけど、ちょっとトゲを感じる…気がするなぁ。


「あぁ、彼女も差し入れです」


「えっ!?どゆこと?」


「えっちだ……」


ざわつく3課。

言い方がね、どうしてもえっちなのよ、黒ギャルの見た目と相まって。

サクラコさんは無表情のまま、買い物袋をデスクに置く。こっちの動揺もお構いなしだ。強い、そのメンタル。


「彼女は、まだムラクモの社員ではないのですが、能力を買われてインターンとして4課にたまに通ってもらってます。


彼女…『回復士(ヒーラー)』なんですよ」



回復士(ヒーラー)』!


「おぉ、初めて見たわ回復士」


「すげー」


「都市伝説じゃなかったんだぁ」


私も、目を丸くして黒ギャルを見た。

彼女と目が合って、青のカラコンが細くなり、また白い歯が見える。


「ほんと?ウチ凄いー?」


「そ、そうですね、珍しいと思います…ほんとに」


回復士(ヒーラー)

それは人の中の魔象使いが1%未満である中で、更にその魔象使いの中で1%未満で現れる特性。

それが回復士だ。

魔象使いの中で、能力的にそういうタイプがいるということは分かっていても、実際に見た人はいなくて、半ば都市伝説のような扱い。

それが回復士だ。


「敬語ウケるー。タメ口でいいよ、プチおねーさん」


「……プチ……プチおねーさん……小さい…」


ダメだ、疲れてる時はメンタルに効く、チビいじり。がっくり膝から崩れ落ちる私。


「学生にまで……チビと言われる私……」


「あー、何かごめんね?じゃあごめんついでに、プチおねーさんからいってみよーか」


黒ギャルが、崩れ落ちてる私の前にしゃがみ込み、私の頭頂部辺りに手を添える。

…あの、パンツ…見えてますよ…。黒のレースと、パープルなやつ…。


「んーーー…」






…あ、何かあったかい。

頭頂部から、じんわりあったかい感じの何かが、ゆっくりと体全体に降りて来るのがわかる。

柔らかい、あったかい感じ…何だろ、優しさに抱きしめられるような、安心感溢れる感じ…。


あぁ、これ、いい…これ好きです…。


「ふあぁ…」


思わず間の抜けた声が出てしまう。

体だけじゃない。ピリピリしてた心も、ゆるーりとほどけていく感じ。

で、ほどけていくだけじゃない。もう1回、きゅっと結び直して、襟を整えてくれる感じだ。


「…はい終了〜。どう?イイ感じ?」


「…はい…イイ感じ…ですね…」


私は立ち上がる。全然『よっこらしょ』感がない。

すっと立ち上がれる。体が、軽い。

しっかり寝た朝でも、こんなスッキリ感なかなかない。コレは言葉では表現しにくいなぁ。


「はぁい、次の方どーぞー」


悪戯っぽく眼鏡のフチをあげるような仕草(眼鏡はかけてない)をして、黒ギャル…ユウカちゃんが言う。

…楽になったからかな…なんかこの子、可愛く見えてきた。

顔立ちも整ってるし、チラッと見える八重歯が可愛い。メイクキツいから素顔は分かんないけど。


「回復士とはいうものの、彼女が回復できるのは疲労についてで、疾病や怪我については『まだ』対処できません。また、彼女はインターンですので、本来能力の使用は極力控えてもらうべきなのですが」


がさごそと買い物袋からお弁当を出しながらサクラコさん。


「主任と、上から許可が出ましたので今回は特別です。順番に回復してもらいますので」


「ありがとうございます」


さすが御門主任、気が利くなぁ。


「あと、アザミの簡易メンテと、桐生さんの煙玉、影縫いクナイの補充は今日中にやっておきます。あと、近衛さんの刀は研磨済ですので」


「かさねがさねすみません、ありがとうございます」


そう、カゲ先輩は消耗系忍具についてはレシピを4課に伝えてある為、製作補充は4課がやってくれるのだ。


「おう、助かるわ直江」


「お構いなく」


…ちょっと待って、お弁当…多くない?

サクラコさんが広げてるお弁当、軽く10人分以上ある。

積み上げられる、お弁当のプラ容器。


「あの…多くないですか?」


「あー、それ人数以上のはウチのだから食べないでねー。これやるとめっちゃお腹空くんよ」


速見くんに手を当てながら、ユウカちゃんが挙手した。

なるほど、結構な消費があるんだ、回復って。

それでも、お弁当結構あるけど…1人で食べるんだ。

それでもあのスタイルなんだ…いいなぁ。

お尻なんてキュッと小さくて、バストもしっかりあるの…えっちだ。

私なんて、このデカ尻を小さくしたくて毎週フィットネス通ってるのに。

私だってアザミに結構な力消費してるはずなのに、何か不公平だ。

 


「はい、次の方ー…お、イケメンきたー。絶対モテるっしょ」



「はい次ー…お、こっちもイケメンー。でもめっちゃヤンキーっぽいー。口悪そー」



「次ー…イケイケおねーさん、こっちどーぞ」



「次ー…」



「つ、つぎー…ちょっちキツくなってきた…」



順番に回復させていくユウカちゃん、だんだん表情が辛そうになってきてる。ごめんねぇ。


「こりゃしょっちゅうは無理だな。回復って結構大変なんだな」


肩を回しながらカゲ先輩。見てからにだいぶ楽になってるみたい。何より眉間のシワがなくなってる。


「いずれ入社の際は、疲労以外の回復もできるよう修練してもらいます。…が、回復士はこのように激務になりますし、力を酷使する状況になりがちです。なので極力今後は控えてもらいますので」


「そだよ、人使い荒くなりがちなんだよねみんな。世の中疲れてる人多すぎー」


ひと通り回復を済ませると、ユウカちゃんはお弁当を開け、手を合わせるとご飯をかきこみ始める。

ちゃんと手を合わせるの、偉いな。


「だぁから、メルクリウスの捜査許可くれよ。そしたら多少は話が動くかも知れねーのによ」


毒づきながらカゲ先輩がお弁当に手を伸ばした時。




ぴりりりりりりり。




ん?携帯が鳴ってる。…

誰だろ。

胸ポケットから携帯を取り出したのはカゲ先輩だ。


「はい…おう、なんすか……あぁ、いいよ、……あぁ、うん……今?まぁいいけど…」


応対しながら退室しかけた先輩は、途中で振り返り、私を手で呼んだ。


…私?


自分を指差した私にこくこくと頷いて返してくる。

何だろ。



「あ、ちょっとすいません」


私は、すっかり雰囲気の和んだ3課オフィスを後にし、先輩とともに無表情な廊下へと出た。













 









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