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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『傀儡士』 四季守ミサオ 編
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19/31

〜即席魔導人形(インスタントゴーレム)⑲〜




……呆れる。




自称『神様』の往生際の悪さに、私はホントにうんざりしていた。


手持ちのお気にの傀儡2体を破壊されて怒るのは分かるけど、かかってきたのはそっちだし、何なら不意打ち気味に始めてきたくせに。

返り討ちにされて、約束も反故にする気なのかこいつ。


何が神様だよ。こんな幼稚な神様聞いた事ないよ。


……いや、そんな事もないか。

日本の神様で、喧嘩するエピソードはちょこちょこあるか。

力持ちの神様と一寸法師みたいに小さい神様が、力とおトイレ我慢する勝負した話あったな、確か。

あれもまあまあ子供染みたエピソードだもんな。

神様なんて、案外こんなものなのかもな。


ひどく冷静に、座ったまま私は小林を見返す。

余りやりたくないなぁ、人間をアザミでぶん殴るのは。


「…ボクが、ボクが負けるはずないんだ…!」


音もなく浮かび上がり、小林を護衛するビットのように動き出すドローン。

けど、それは…もう何度目だろう、またしても力無く床へと転がった。

それどころか、今度は床に落ちると共にバラバラになる。

爆発したわけじゃない。静かに、ばらりと『分解』されるように床に散らばったのだ。


「…聞き分けのない神様だ。こんなのが神を自称するとは、聞いて呆れる」


片手をスラックスのポケットへ入れ、もう片手をこちらへかざしながら近寄って来る者。



西園寺だ。



「あなたは私と約束したはずだ。その約束は、この場では『契約』を意味する。それとも、人間社会のように書面が必要ですか?幼稚な神よ」


そこに柔和さなどなく、西園寺は冷たい顔つきで私と小林の間に割って入った。


「もうあなたに勝ち目などない。我々に従って頂きます。勝負はついています」


そう言って西園寺は、かざした手を周囲へぐるりと回した。

途端、ドローンは全ての機体が落ち、床でバラバラに『分解』された。


…魔象なんだろうか、これも。


「私は、『管理士(ハンドラー)』を自称しています。管理士とは文字通り、管理する者ということですが、ハンドラーという英語の意味は、『扱う者』という意味でもある。

私も魔象使いでしてね。ムラクモの、魔象1課で働いていまして。

私の能力は、


『人間の手で作られたモノ全てに干渉できる』


というものです。

ですので、あなたの全てに、私は干渉できるのですよ」



…は?



じゃあ私、こんな苦労する必要なかったんじゃない?

こいつの遊びに付き合わされてただけ?

思わず西園寺を睨みつける。


「怒らないで下さい、四季守さん。気持ちは分かりますけど。あなたが戦った意味はありますよ。

メルクリウスが作り出した『贋作』どもは、メルクリウスの魔象によって作られた可能性が高い。その場合、私が干渉できる範疇を越えていた可能性がある。そうなると私にはどうにもできなかった。

…まぁ、あなたの力と成長を見たかった、というのもありますがね」


いや、話をいい感じに持っていくなよ。

結局、あなたの気持ち一つで状況は変えられたかも知れないって事じゃん。


「…ほんと、性格悪いですよね。初めて会った時はそんな事なかったのに、かなり印象悪くなりました。がっかりです」


「それは申し訳ない。でも、実際あなたは結果を出した。それは社での評価に繋がるでしょう。私からも口添えしておきますよ。

…ですが、その前に懲戒があるかも知れませんが」


「…懲戒…?」


「今回の件、3課の動き方は一部違反行為が見られます。まあ訓告か何日かの出勤停止は有り得るでしょうね」


「…こんなに一生懸命にやったのに、ですか?」


「四季守さん。あなたは3課でも話の分かる方の社員だ。分かるでしょう?会社とは利益、成果が大切なのです。あなた方は結果、プロセス共に社の想定を逸脱した。然るべきペナルティがあるのは当然です」


「…そんな」


悔しさがまたこみ上げてきて、私は唇を噛んだ。どこかで切ったのだろう、ほんのり鉄の味がする。

確かに、私が(私だけじゃないけど)暴れた結果、このフロアはめちゃめちゃだ。至る所に凹み、破損、瓦礫があり、おそらくメルクリウス本体もノーダメージではない。

それが、ムラクモの望む結果から逸脱しているということか。


「勝手に終わらせてんじゃねーよ!」


「終わりです。もう終わりなんですよ」


まだ吠えてたんだ。

負け惜しみに叫ぶ小林(メルクリウス)。その胸ぐらを、西園寺は黒手袋をまとった手で掴んで引き寄せる。


「付喪神は、人の作ったモノに現れる。『神』と付いてはいるが、その正体はご覧の通り、只の怪異だ。神という存在には程遠い」


今度は掴んだ胸ぐらを突き飛ばし、小林は床に突っ伏した。

そこへしゃがみ込んで、尚も西園寺が詰める。


「つまり、あなたの本体もそういう事だ。あなたは、所詮人間に作られたモノに現れたに過ぎない。

分かりますか?

私は管理士(ハンドラー)だと言いました。管理士は、人の作り出したモノに干渉できる。つまり、あなたの本体を今この場でバラバラのスクラップにする事だってできるんですよ」


絶望する小林の顔。

…どうやってあの顔を、命無き亡骸にさせてるんだろう。


「知ってますよ。あなたの本体は、元々は昔に作り出した『パソコン』の一つだ。メルクリウスの素性は調べましたので。


かつて、凄腕のエンジニアがいた。彼は、手製の計算処理装置を作った。それは非常に優秀で、永く人に使われた。

メルクリウスが開発された際にはそこから数十年経っていて、性能的には既にお払い箱ではあったが、その装置はメルクリウスの構造の一つ、また魔象設備の『核』の役割として組み込まれた。要は『おまじない』や『験担ぎ』と、魔象の依代として。…あなたの正体、本当の本体はそれだ。

つまり、私はあなたの本体に干渉できる。

…この意味、分かりますよね?」


…じゃあ、本当に私のした事は徒労じゃないか。

西園寺は、いつでも簡単にメルクリウスを無力化できたんだ。

でも、それをやるとメルクリウスを利用したい会社としては困る。

メルクリウスは無事のまま、メルクリウスにこちらの要求を呑ませたかった。

じゃあ、3課のした事はなんだったんだ。

最初から1課が音頭を取って指揮していれば良かった事じゃないか。


「…はぁ」


悔しさ、虚しさが一気にこみ上げ、それをため息にして吐き出す。

そんな私よりもっとネガティブな顔で、小林は項垂れている。


「…この、あなたの犠牲になったエンジニアの身体も返してもらいます。きちんと弔わないと」


床に突っ伏したままの小林に一瞥くれると、西園寺は全員の方へ向き直った。




「さあ、これにてこの件は終了です」




それを合図に、再び2課隊員が散らばる。


ある者は結界装置の撤収をし、ある者はメルクリウスから小林の体を引き離す。

メルクリウスにはもう抵抗の意志はないらしく、小林の体は、それこそ糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

途端に肌の色はつちくれのように色褪せた。

目は膜が張ったように白く濁り、落ち窪んだように見える。

さきほどより全体的に痩せこけ、正に生気の抜けた『亡骸』となった。

小林という人間が、ようやくメルクリウスから解放されたのだ。

それを隊員が丁重に寝かせ、胸の上で痩せた手を組ませる。

遺体袋だろうか、黒い袋が敷かれ、それに小林を収納していく。


遅れて違う服装の者たちが入ってくる。

警察だ。あらかじめ西園寺が呼んでいたのだろうか。結構な人数が入ってきて、現場検証か何かの準備を始めている。


スプリンクラーが、止まった。


本当のホント、これで終わりらしい。


「お疲れ様」


御手洗課長が、私の肩をぽんと叩いた。


「私はちょっと話があるから、先に西園寺くんと失礼するよ、すまないね」


「…はい。あの、ありがとうございました」


「気を落とさないで。君はちゃんと意味のある事を成し遂げた。過程はどうあれ、結果最小限の被害で終わったんだ、胸を張りなさい」


手短に告げて、課長は西園寺と部屋を出ていく。


代わりに…


「…よお、スッキリしたか?」


上半身裸のカゲ先輩が声をかけてきた。腹は包帯ぐるぐるで、いつものロングジャケットは脇に抱えている。


「…これで、いいんですか」


「…いいんだよ。小林は仕方ない。俺らにはどうにもできなかった。けど他に死人は出てないし、俺らは被害を最小限に食い止めた。それに、アザミは今回の件で新しい性能を見せた。ミサの経験値になったろ。ゲームならレベル上がってるだろ、だいぶな」


後ろから、先輩の手が私の肩に置かれる。

大きくて、温かい。

今、全身ずぶ濡れだから、泣いても分からないかな。

色んな感情がごちゃ混ぜになってせり上がってきて、喉に飴玉がつかえたような感覚。


でも。


私はそれをぐっ、と飲み干し、いつものように気持ちを静めて冷静を意識する。

私は大人だ。いちいちこんな事で泣いてなんていられない。

涙を、同情や優しさを貰う為の武器にしたくない。


「そうですね。もう先輩のレベル、越えましたねこれは」


「おっ、言ってくれるな。やるか?」


「何言ってるんですか、怪我人のくせに」


膝に力を入れ、立ち上がる。

濡れたボディから水を滴らせ、静かに立ち尽くしているアザミを、法陣に向かわせ、収納する。


新しい性能。

強い、力。


これが、また私を新しいステップへ導いてくれるはず。

それが、今回の一件で得られたもの。

そう考えれば、無駄働きではなかったと思える。

そう考えるしかない。


無駄な事なんてないんだ。


ベタッと張り付いて不快になってきたジャケットを脱ぎ、可能な限りの笑顔を先輩に見せる。

本当、無事で良かった、私も先輩も。


「帰りましょうか」


濡れて見えにくくなった眼鏡越しに、カゲ先輩が見える。

その視線は、私の目を…捉えてない。

ちょっと下辺りを見てる。

戸惑ったような表情。どうしたのかな。

もしかして、まだ何かある?


「どうかしました?」


「いや、その…」


珍しく口籠ってる。先輩らしくもない。

…あ、もしかして今の私の笑顔にキュンとしましたか?

…そんなわけないか。

でも、『水も滴るいい女』といいますからね。

今の私はほんとにずぶ濡れなので、もしかしたらちょっといつもより可愛いかも?

なんてね。


緊張感が解けたからか心の中ではしゃいでいると、先輩は私からジャケットをひったくると、それを広げて肩にかけた。


「いや、不快なんで脱いだんですよ。濡れちゃってベタベタするんで」


「…着とけ」


「え、別に脱いでもいいじゃないですか」


「ダメだ」


「なんでです?」


先輩は気まずそうに目を、というか顔そのものを反らしている。


「…お前さ、意外と派手な下着着てるんだな」


…ん?んん?今何と?


思わず佐伯くんみたいな心の声出ちゃった。

何で知ってるの!?

先輩の目線は、私の胸辺りを見てる。


………あ!!


私も反射的に自分の胸を見た。

白いシャツの、その下に着た透け防止の肌色のキャミソールの、その下のワインレッドのブラがはっきり見えた。

……透けてる!勝負下着が、す、透けてる!

シャンパンカラーの刺繍までくっきりと。

そうか、スプリンクラー思いきり浴びたから…


……ひぃっ!


「ひいっ!」


思わず情けない声を出してしまった。

両手を胸に当てて慌ててブラを隠すが、もう手遅れだ。

かあっ、と顔が熱くなってくるのが分かった。

多分耳まで赤いだろう。耳も熱く感じる。

その様を見て、カゲ先輩はケタケタと笑った。


「はは、相変わらず締まらねーな。ミサらしいっちゃらしいけどよ」


「…見ましたね。み、見てしまいましたね、私の秘密を…」


「あー、すまん。セクハラとか言うなよ?お前が見せてるんだからな」


「見せたくて見せてるわけじゃありませんっ」


「だから隠しとけ、ってジャケット掛けたじゃねーか」


「もう少しちゃんと隠して下さいよ。隠せてないじゃないですかっ」


「俺のせいにするなよ。じゃあそもそも現場に派手な下着着けてくるなよ。そんなレースごてごてのド派手なヤツ。道理で今日はちょっとスタイル良いなって思ってたんだよなぁ」


「気合い入れたかったんですよ!そこ掘り下げないでもらえます!?」


「それ高いの?いくらするやつ?バストアップ効果とかあるの?」


「調子乗らないで下さい。さすがにそれはセクハラですからねッ」


「悪い悪い、ミサが慌ててんの面白くてさ」


私とカゲ先輩がぎゃあぎゃあやり取りしてるのに気付いて、2課隊員が何かを持って駆け寄ってきた。


「…お疲れ様でした。あの、これ良かったら使って下さい」


さっきの、013隊員だ。

手には大きめのブランケットを持っている。

「すみませんっ」と、それをひったくるように奪い、私は素早く体を包んだ。


ほんっと、締まらない。

カッコよく終わりたかったのに、こんな生き恥をみんなに晒してしまうなんて。


カシャッ。


…おい、誰だ、今写真撮った奴。


「デュフフ、四季守ミサオの生き恥頂きましたぁー」


カゲ先輩の後ろで、にやにや笑う眼鏡男。

佐伯…こいつだけはほんとに許さない。

カゲ先輩は…まあ許してあげてもいいけど、こいつは別だ。


「…佐伯、やっていい事と悪い事があるだろ」


今出した声は、今年一番のドスを効かせた私の怒りの具現化だ。


「お前、ほんと許さないからな。アザミでミンチにしてやる」


「待って、待って消します!今消しますから!許して下さいよ四季守くんっ!ちょっとした出来心というか、魔が差したというか…」


「…ダメだ。お前はぶち殺す」


床に再び法陣を描こうとする私を、カゲ先輩が止めにかかる。


…いつもの3課だ。


わちゃわちゃしてて、締まらなくて、いつも何処かで内輪揉めしてて、みんないまいち緊迫感がなくて。


でも、どこかそれが心地良いんだよな。

自然と口角が上がってる自分がいる。

かつては、魔象の発現で孤立し、社会から腫れ物扱いされていた私。

同級生にいじめられ、家族もまともにいなくて、いつも孤独だった私。

それが今、中身は置いといて、たくさんの仲間に囲まれて、こうしてふざけあって、笑ってて。


これも、私の『成長』なんだろうか。


正直、汚い言葉を隠さず言うなら、世の中はクソみたいな所がたくさんある。

反吐が出るような場面にも、たくさん出くわす。

やってられないって思うような事があっても続けていられるのは、こういう何気ない日常を今の私が愛せてるからかも知れない。



良かったんだよね、これで。



私は、今きっと『充実』してるんだ…。



こうして、即席魔導人形(インスタントゴーレム)の一件は、幕を閉じた。










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