製造室(2)
黒い笑顔にスイは苦笑する。訪れるたびに森の構造が変わって見えるとか、許可された者しか出口にたどり着けないとか、そういう仕掛けが施されているということだろう。
そう言われてもいつもの癖でついつい道を記憶しようと努めてしまう。結界というのであれば、魔力をたどってみるのも良い道しるべになるかもしれない。面白そうだ。
「スイ、また何か悪いこと考えてるでしょう」
「そんな顔していたか?」
メノウはぷくっと頬を膨らませた。
「僕の話ちゃんと聞いてよ」
「聞いてるよ」
たわいのない話。小さい頃からずっとしていたいと願っていた。いつまでもしていたいと。それが一瞬で壊れそうになった。一瞬で壊れることがあるのだと知った。怖くて仕方なかった。でも、乗り越えることができた。そして、今、ここにいる。スイは天使のような笑顔を浮かべた。
「もう。その笑顔嘘くさい」
そう言われてはお手上げだ。と思いながらも、周囲を気にかけてしまう癖はどうにもならない。
「着いたよ」
しばらく進んでいくうちにメノウもあきらめたのか、すっかり機嫌が直っていた。
目の前にはなかなか立派な施設らしき建物がそびえていた。
メノウが手をかざすと、扉が開いた。
無機質な印象の壁、床、天井。同じような色で統一されているからか広く見える。右側のいちばん手前の扉が開いて若い女性が出てきた。
「おはようございます。メノウ様ですね。突き当たりの部屋です」
「ありがとうございます」
少し戸惑った様子でメノウが礼を言う。
「お前もここは初めてなのか?」
じっとメノウを観察していたスイが訊いた。
「そうだよ。関係者しか入れないところだもん」
メノウは立ち止まった。
「ここはね、魔珠を製造する施設なんだ」
つまり人間を〈器〉にして人為的に魔珠を作り出すための施設ということだ。
メノウは再びゆっくり歩き出した。
「最初はね、君たちみたいに魔術師を何人も何回も使っていた。でも、君の言ったように苦しくてみんなおかしくなってきた。急に発作を起こして周りにあるものを壊し始めたり、全く動かなくなってしまったり。それでもやっぱり魔珠が必要だから、魔術で眠らせて生命維持装置に入れて〈器〉の役割を続けてもらっていた。それでももともと里にはそんなにたくさん人がいないし、誰かが生贄にならなくちゃいけないんだったら、少しでも人数が少ない方がいい。だから、〈器〉として最も適した人を一人探してその人の体を何体もコピーする――クローンっていうんだけど、そのクローンとオリジナルの人を〈器〉として使うことにしたんだ」




