担当官の仕事(5)
「スイ、お前がふらふらしていてどうする」
強い調子だった。スイは涙で濡れた目を見開いた。
「お前は魔珠担当官だろ。お前がどうしたいのか考えて交渉するのがお前の仕事だ。メノウはもうどうするのか決めている。お前も決めて落としどころを探すんだ。そうしないと」
キリトは優しく微笑んで言った。
「誰も幸せになれないだろ」
そのとおりだ。豊かな生活ができるようにエネルギー源を確保する。身の安全を確保するために兵器を作る。生活が成り立つように資源を守る。全て誰かの幸せを願ってした行動なのだろう。だが、肝心なのは何なのか。全ての人が平穏な毎日を安心して過ごせる。そうなるように動くべきではないのか。
不意にスイがくすっと笑った。
「なんだ、その黒そうな笑いは」
「いや、キリトが外務官のようなことを言っていると思って」
「のようなとはなんだ。のようなとは。俺は外務室長だ」
強い調子で主張して二人でぷっと噴き出す。本当にキリトが側にいてくれて良かった。
「ありがとう、キリト。あまりにも問題が大きすぎて一人では抱えていられなかったんだ」
「だよな」
二人は申し合わせたわけではなかったのだが、ほぼ同時に立ち上がった。キリトが薬の入った巾着に心配そうに目をやる。
「薬、調合して明日の朝持っていってやるけど、それで今晩の分足りるか? 足りなかったら、今すぐ調合するけど」
「大丈夫だ」
スイはにこやかに笑った。
「ありがとう、いつも。感謝している」
「分かってるって」
キリトはスイの肩をとんとんたたいてぎゅっとつかんだ。
「信じてやれよ。メノウのこと」
一瞬固まったが、すぐに強く頷いた。
「そうそう。友達だもんな」
満面の笑顔をキリトが浮かべて部屋を出る。二人で廊下を歩いて階段を下りて玄関の扉の前に着く。
「じゃあまた明日な」
「また明日」
少しでも背負っていた荷は軽くなっただろうか。キリトはスイの真っ直ぐ伸びた背中が遠ざかっていくのを見ていた。月光に浮かぶその影は凜としていて美しかった。




