束の間の休息
「気がつきましたか?」
自室のベッドだった。横に心配そうな表情でスイを見ているエルリックがいた。
「先生が」
そのとき、ずきっと右胸に激しい痛みが走ってスイは顔をしかめた。
「大丈夫ですか、スイ」
痛みは一瞬で退いた。しばらく胸を手で押さえたまま待ったが、再発はしなかった。
「はい。大丈夫、みたいです」
スイは真っ直ぐエルリックを見た。
「先生が、連れてきてくださったのですか?」
エルリックはうなずいた。
「完全に気を失っていましたから。少し眠るといいですよ。昨日よりも時間がありますから」
エルリックは苦笑した。昨日一本しか刻まれていなかった傷痕が七本に増えて呪術が完成した。そのせいで苦痛が桁外れに増し、意識を維持できる時間が短くなった。昨日はこの時間はまだヌビスの実験室にいた。皮肉なことだが、苦痛が大きくなったせいで解放されるのが早くなったわけだ。
「先生は、ずっと起きていらしたのですか?」
言葉を発するたびにちくちく胸に痛みを感じたが、先ほどまでの苦痛のことを考えると、我慢するのは容易だった。それにしゃべらなくても呪術を刻み込まれた胸の辺りがずっしりと重いのは変わりない。
「いえ」
エルリックは少し笑って答えた。
「あなたを迎えに行くまでは寝ていましたし、あなたの目が覚めるまでベッドの端をお借りして突っ伏して寝ていましたよ」
「私の隣でよければ、先生も少し横になってください」
広めのベッドだったので、大丈夫だろうと思い、スイは重い体を引きずってできるだけ左側によけた。
「優しいのですね、スイは」
あんな時間に呼び出されてエルリックも疲れていたのだろう。ベッドに潜ると、すぐに寝息を立て始めた。スイもいつの間にか眠っていた。
一限目の講義が終わると、昨日と同じように他の研修生が声をかけてきた。昨日は何事もなかったかのように楽しく談笑して次の講義までの十五分の休憩時間を過ごした。
「すまない。忘れ物したみたいで。ちょっと取りに行ってくる」
「ああ。じゃあまた後で」




