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魔珠  作者: 千月志保
第4章 マーラル魔術研究所
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再会(3)

「年齢以上に落ち着きのある人物だと思っていたが、やることは大胆だな。肝が据わっているなとは思ったが」

「欲しいものがその手段でしか手に入らないのであれば、そうするでしょう」

 大きく息を吐いて呼吸の乱れを整えると、スイは不敵な笑みを浮かべて言った。

「あれだけの激痛を受けたのにもうそんな減らず口をたたけるのか。大した体力だな」

「体力がないと私という人間は務まりませんので」

 魔珠担当官は魔珠取引に関係する仕事全般が守備範囲だというのがリザレス、そしてセイラムの考え方だった。ただ取引をするだけではなく、円滑に取引できる環境を整えることも魔珠担当官の職務とする考え方だ。そのためには今回のように自ら行動しなければならないときもある。体力が必要だということはセイラムから言われたこともあるが、それ以上にセイラムを見ていて感覚的にそう考えるようになっていた。それだけではなく、セイラムがヘキにした以上にメノウに協力して実際に手足を使って行動することを望んだのが自分という人間だとスイは自負していた。

 すると、ヌビスは凍てつくような微笑を見せた。

「そうだな。すぐに意識がなくなるようでは私を満足させることはできない」

 思わぬ意味に言葉を捉えられた動揺もあったのだろうか、過去に受けた苦痛が鮮明に蘇る。胸に刻まれた傷痕がまた強く疼き出す。息苦しくなって大きく息を吐こうとしたその瞬間、また貫くような激しい痛みが胸を襲う。息は絶叫になった。

「ひと目見てお前は有能だと思った。マーラルを脅かす存在になる可能性があると思った。だからこそお前の胸に呪いを刻み、研修中毎夜耐えきれぬほどの苦痛を与えてきた」

 記憶がより鮮明に蘇って胸の鈍痛が走る。今度はヌビスの魔力によってではなく、自分の記憶が呼び覚まされたことによって。ヌビスの恐ろしさを思い出したことによって。

「そう。呪いを刻んだ研修生は皆そのように痛みを思い出して恐怖する。そして、その恐怖が現実の痛みとなり、さらなる恐怖をかき立てる。だから、その痛みを思い出さないようにするためにマーラルとは一切関わろうとしなくなる」

 心当たりはあった。確かにマーラルから戻って何年もその苦痛にうなされていた。

「なのに、なぜお前はマーラルに足を踏み入れ、しかも国家機密に触れようとして捕らえられた魔珠売人を助けに来た!」

 ヌビスの怒鳴り声と再び激痛を強要されたスイの絶叫が混ざり合い、回廊に響き渡る。

 激痛はなおも強まる。胸が苦しい。締めつけられたように。呼吸ができない。

「スイ!」

 意識を失ったスイの体から力が抜けていく。それを確認してヌビスは魔力からスイを解放した。スイの体がぱったりと倒れる。

「予定変更だ。メノウと一緒に準備室に放り込んでおけ。実験は明日の夜にする」

 言い残してヌビスは連れてきた護衛二人を従えて来た道を戻っていった。スイは意識が戻らないまま兵士に抱えられた。長い黒髪がさらさらと肩から落ちた。

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