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魔珠  作者: 千月志保
第13章 光の柱
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光の正体(3)

「呪術はよく分かりませんが、あれは人の魂のようなものなのではないでしょうか」

「何だと」

 アラバスの言葉にレヴィリンが眉をひそめた。

「魔珠のエネルギーの代わりに多くの人に呪術を施し、魂をこの容器の中に詰め込んだのではないでしょうか」

「それを動力源にして術式を」

 面倒なことをする。そんなに多くの人間を集めなくても、優秀な〈器〉さえいれば、この容器をエネルギーで満たすことなど訳ないことなのに。

 レヴィリンは結界の向こうを見た。

 スイがたった一人、舞うように人魂に斬りかかっていく。

 襲いかかってくる人魂たちと目が合う。

 スイは何かを風のように叫びながら飛んでくる歪んだ顔にやりきれない思いを感じていた。

 子どもの顔もある。おそらくこの魂は政治犯のものだけではない。

 何の罪もない人たちが呪術の力で魂を抜かれて殺されている。そもそも政治犯だって無実の罪を着せられている人が大半だ。

 魂だけの状態になってもなお呪術に束縛されている魂。

 早く解放して欲しい。そう言いながら向かってきているようにスイには思えた。

 本来ならこの魂たちは肉体に宿り、これまでのように変わらない毎日を過ごしていたはず。それが叶わなくなった今、せめてこの魂を行くべき場所へ。

 横から不意に流れてきた人魂が腕をかすめていく。黒いローブが引き裂かれて細かい傷ができる。

 スイが大きく剣を振るうと、最後の一体が消滅した。呪縛から解放され、本来あるべき姿に戻って見えなくなったのだろう。

 光の柱が砂粒のように崩れ落ちていった。光の粒は風に漂いながら、やがて消えていった。

「なぜだ」

 結界を消すと、アラバスはその場にくずおれた。

「人を守るべき王がなぜ自分の欲望を満たすためだけに多くの人の命を奪ったのか。許せない。ヌビス、あなただけは絶対に許さない」

 その瞳からは涙があふれていた。

 振り返ったスイの顔を雲の切れ間から射してきた日の光が照らす。長い黒髪が風になびいてつややかに輝く。

 スイは傷だらけになった足を少し引きずりながらアラバスの方に歩いていった。

 アラバスの前まで来ると、屈んでその肩に手を載せた。

「ヌビスの時代は終わりました」

「そうですね」

 アラバスは顔を上げた。

「これからは私たちががんばっていかなくては」

 頷くスイを見ていて、アラバスがはっと気づく。

「傷だらけではないですか」

 スイのローブはぼろぼろになっていた。裂けた黒い布の隙間から痛々しい傷がのぞく。アラバスは涙をふいて治療を始めた。

「優しい魔力ですね」

「そうですか」

 スイの言葉にアラバスが微笑む。

「あなたはきっと良い国王になれると思います」

「それなれるように努力は惜しまないつもりです」

 こういう人こそ王にふさわしい。力を持つ人は他者の痛みや苦しみが分からなければならない。そう魔珠の里の人々のように。

「終わったようだな」

 レヴィリンが二人の方に来て言った。

「博士の勝ちのようですね」

 空を見上げた。先ほどまで黒い雲が立ちこめていたとは思えない。

 守りたい。この青い空を。これからもずっと。

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