第三章第三十六話 収穫祭的な宴会
第三章第三十六話 収穫祭的な宴会
初日の収穫を終え、拠点に戻ると呆然と収穫品の前で佇む集団が居た。騎士団と侍女隊の両方ともだ。
騎士団はマッドゴーレムの輸送は出来なかったと見え、それぞれが収穫物を抱えて持って来ている。
全員が一抱えほどの麦を持っているので1反の半分くらいは刈り取り出来たのかな。エンチャントが出来ないと刈り取り自体が出来ないからだろう。
侍女隊の方も、輸送は手間取っている様で中継点を設けて最後はマッドゴーレムと自分達で抱えて持ってきたみたいだ。
まだマッドゴーレムは往復している所を見ると回収中の様だ。ふむ。侍女隊は2反は収穫しきれてるみたい。
「さあ、さあ。収穫物をそれぞれの倉庫に収納して。後で実をもぐから今はそのまま倉庫に入れておいてね」
「あ、あの旦那様。今日はどのくらい収穫出来たのでしょうか?」
侍女の一人がおずおずと聞いて来る。
「今日はハニービーの襲撃があったから、10反しか出来なかったよ。あ、これ蜂蜜ね。後で搾って置いてね」
侍女隊、騎士団共にうそでしょ。みたいな目で見て来る。1000体に近いハ二ービーの狩猟品の束を出しながらこれも倉庫にと渡す。
「あ、あの。私達もバイカルベアの襲撃を受けたので2反とちょっとしか出来なかったのですが・・・手は抜いてません」
「はっ。自分達はなんの襲撃も受けなかったにもかかわらず、半反すら収穫出来ていません。申し訳ありません」
侍女隊と騎士団のそれぞれから申し開きがあった。さすがに差があり過ぎるので手抜きを疑われたくなかったのだろう。
「うん。分かってる。想定通りだよ。初日はそんなものだよ。どんどん上手くなるから、魔法もやめちゃ駄目だよ」
「「はっ!」」
両隊とも敬礼して来る。おお、尊敬の眼差し~。みんなも得意げだ。収穫物を一旦倉庫に仕舞っておく。
「あ、いけない。言い忘れてたけど、収穫した麦は魔法で水分飛ばして乾燥させておいてね。倉庫で腐っちゃうからね。俺らはもうやってあるから」
「「・・・」」
それぞれが自分達の収穫物の処理を終えて、戻ってくる。俺達はマッドゴーレムにやらせながら、収穫したばかりの小麦から小麦粉を取り出している。
ミヤとリュディー、ヤルルが小麦粉を練ってパン生地を作っている所でどんどん追加して行く。出来たパン生地は寝かせておいて次々と練って行く。
騎士団と侍女隊が装備を外して戻ってくるころには全員分には多い程のパン生地が出来ていた。もちろんリュディーとミヤがやるからにはバターも練り込んでる筈だ。
今日は収穫したばかりの食材を使って収穫祭と言う名の宴会としゃれこもう。くくく。侍女さんとか騎士団の驚く顔が見たいもんだから領主組が働く事、働く事。
「お、奥様。それは私が・・・」
慌てて侍女さんがミヤ達を手伝おうとするけどもう終わってる。
「そう? じゃ後で焼いてね。僕特製パンだから。ね! リュディー」
「うん。ふふふ」
後は、トウモロコシステーキとガーリックソースと肉。枝豆を少々出して、エールの樽も開けちゃおう。こいつらの旨さを知ったら明日からの作業が楽しくなるからね。みんなの顔が楽しみだな。
リアクションキングとクイーンは誰だろう。侍女さん達がお茶を用意してくれたので、領主組はおうちでお茶会だ。騎士団は本日の稽古に入っている。
もう自分達で食事の準備とかお風呂の準備をすることはほとんどなくなった。
「くふふ。今日は全員で外の広場で食べるんでしょう?」
「そのつもりだよリュディー。楽しみなの?」
「うん。どんなふうに驚く事やら。姫さん達以来だよ。それにまだ『くろわっさん』どころかバターパンでもないんだよ」
そう今日は普通のパンらしい。ただの白パンでバターも練り込んでいないそのままだそうだ。確かに最初に食べるならそのままでも十分おいしいんだけど、俺達からしたらもう普通のパンだ。
いや、最近黒パンだったから一味違うかもな。
「今日は枝豆にエールも付けるんだろう? 私はそっちの方が楽しみだよ」
マイヤがそんな事を言いだした。今日の枝豆見たらビックリするだろうな。普通の塩茹でもあるんだけどもう一つ『まよねーず和え』も作ってもらってるんだ。
塩茹での方も茹であがってから角切りにして塩を振る様にしてある。大き過ぎて中まで塩の味がしみ込まないから一手間だ。
ほどなくして食事の準備が整ったので外の広場に出る。既に全員が集まっており暴力的なまでのニンニクの香りと焼き上がったパンの香りが充満してるもんだから今や遅しと待ってるみたい。
そこへ樽を抱えたマイヤが来て中央にドンとエールを置く。もちろん氷魔法でキンキンに冷えてるよ。
「今日は収穫御苦労さま。君たちにとって初収穫だ。簡単だが収穫祭をしよう。特別にエールを出す。明日も作業があるから酔い過ぎない程度で飲んでくれ」
ここで騎士団からわーっと歓声が上がる。早速侍女さんが趣向を凝らした料理やシンプルな料理を運び込み始める。
中央の焚火ではお肉がどんどん焼かれており、その傍に出来たばかりのガーリックソースとガーリックバターも置かれる。
パンは籠にたくさん入れていくらでも食べられるようにしたのでみんなの目が釘付けだ。
「さあ、食べてくれ! これが大森林の恵みだ。明日からの英気を養おう」
俺の掛け声で一斉に食事が始まる。マイヤが中央でエールの樽の蓋をぶち抜き早速みんなに配りだす。待ってましたとばかりに男どもが群がる。いいのかな~。食事を後回しにして。くふふ。
その時侍女さん達から悲鳴が上がる。振り向けばパンを食べた侍女が思わず上げてしまったみたいだ。ひひひ。始まったぞ。
猛烈な勢いでまくし立ててるからなにを言ってるか分からないけどパンが美味いと言ってるみたい。
白パンだから美味しいに決まってるじゃんとか聞こえるけど、半信半疑でその周りの侍女もパンを口に放り込む。さらなる嬌声が響いてほんとだほんとだとわめきだしてる。
その輪がどんどん広がって行きエールを飲んでいた騎士がパンをヒョイッと口に放り込んだ。
劇的だった。もうエールに目もくれずにパンを指さして同僚に食え食え言ってる。あっという間に全体に広がった。
あっという間に最初のパンがなくなって追加が焼けるまでもうパンの話題で持ち切りだ。
「だ、旦那様。このパン。凄いです! 私も白パン、食べたことあるんですが、ぜんっぜん違いました。ありがとうございますっ!」
もう皆がそりゃあ、喜んだよ。口々にお礼を俺達に言って来る。
「さあ、まだだぞ。魔獣の恐怖に怯えながら収穫したんだ、これからは毎日のように食えるんだ。他も試してくれ。それ、もう肉が焼けるぞ」
焼けた肉をそぎ落としてガーリックソースをつけて食べだしたら、騎士がうんめぇ~なんて叫ぶもんだ、パンがないので今度は肉に群がった。
それを横目にエールの樽の傍でマイヤが一人飲んでる所に行き、枝豆の『まよねーず和え』を渡してみる。
「ん? なんだいこれ。エールの人気があっという間に落ちちまったよ。つれないねぇ~。んは! うま! 枝豆だ。サラこんなの仕来んでやがったのか」
「へへへ。美味しいでしょ。塩も良いけどさ。まだ胃が元気なうちは『まよねーず和え』はエールが進むよ」
俺も木のジョッキを樽に突っ込んでエールを一杯もらう。キンキンに冷えたエ-ルをゴキュゴキュ飲んでプファ~と一息。
その口にスプーンで掬った『枝豆のまよねーず和え』をマイヤが放り込んでくれる。さらにもう一口ゴキュゴキュ。ああ~生き返るよね。
マイヤとジョッキをかち合わせてると副騎士団長が近寄ってきたので、エールをジョッキに注いで『まよねーず和え』も渡すとウホォ~とか言ってゴキュゴキュ行った。
もちろんこれを見ていた幾人かがマネしだすと肉から今度はエールに戻ってきた。奥さん達が今度は侍女さん達にコーンステーキを切り分け始めたよ。
またまたそちらから歓声が上がるとエールと枝豆をやってた連中が移動して行く。あっちでもこっちでも歓声が上がるもんだから、ふらふらする騎士たち。
そこで第2弾のパンが焼き上がってくる。でもそれに群がろうとするみんなを制したのは、姐さん達だ。
「待ちや、待ちや。そのまま食うても美味しいんやけどまあ、見てや」
1cm程の厚みに斬ったパンにガーリックバターを塗って火で焙る。カリッとした所で侍女の口に放り込むと。面喰らった侍女がそのまま咀嚼して飲み込んだ。
そのまま姉さんに跳びかかって手に持ってた残りを食べてしまった。
「・・・慌てなさんなまだまだあるで自分らもやってみ」
ルル姐さんが危なく野獣となった侍女を抑えて、次々とスライスパンを渡して行く。もう取り合いになってるので姐さん達が避難する。
ははは。凄いな。あれだけあった料理がどんどん消えていく。最後まで残ったのはエールだったりするから驚きだ。領主組はほどほど食べたらその場を離れてお風呂にする。
侍女さんが既に作っておいてくれてるので後は入るだけ。さすがの俺もこの熱気に当てられてお風呂に一緒に入っちゃったけど気がつかなかったよ。
体を洗って髪も洗う。そして湯船につかって広場の歓声を聞いている。ここで侍女さん達を呼ぶほど野暮じゃないよ。みんなそれぞれで済ませて湯船にじゃぼん。
あ~、おもしろかった。向こうではまだまだ宴もたけなわだ。
「ふぅ~。今回は塩も変わってるから一段と美味しかったね。」リュディーが軽く言いだすと
「そうね。パンも甘さが引き立ってたみたい。すこしお塩をパンに入れるでしょ。それも変わったからかしら」
ヤルルが凄い所に気が付いた。なるほど。それは気がつかなかった。あるのかもしれないね。
「枝豆も大分違ったよね。塩ってずいぶん味が変わるんだね。僕もビックリした。それに『まよねーず和え』良く思いつくよサラは。一口サイズにカットしたのもいい感じ」
「お誉めに預かり光栄ですよ。ミヤ」
「ああ、あれはあたしも良いと思ったよ。エルフ達も喜んでたし。あいつら菜食が多いから今までも野菜が美味い、美味いって言ってたもん」
「そうそう。リュディーさん。トウモロコシステーキも好評でしたねエルフ達には」
アンも報告して来た。
「でも肉も食べてましたよ。美味い、美味いって。あんまり喰わないけど美味い、美味いなんて言ってましたね」
アンジュは肉食だから肉の傍に居たんだな。世界樹に固執してるエルフ・ダークエルフに大森林も良い所だと言う所も見せられたかな。
少しは態度が軟化してくれればいいんだけど。まだまだ押して行くか。
「明日のパンはどうする?」
「もちろん、ここでやめる訳ないじゃん。バター練り込むよ」ミヤが悪い顔になってそんな事を言う。
「ならばそれは自分が侍女たちに教えるであります。最後に『くろわっさん』でありますね?」
「・・・あれ、美味しいよね。アンちゃん」
「あたしらだってまだあんまり食べた事ないんだからさ」
リュディーとアイダで悪巧みの続きをするみたい。ライラとアンの素直な感想だ。これからはもっとたくさん食べれるよ。
程良く温まった所で、お風呂を上がると外にタオルを持った侍女さん数名が待ち構えていた。
「申し訳ありません」
「気にしないで宴会楽しんでよ。タオルありがとうね」
「とんでもございません。お拭き致します」
ん~。なんだか気を使わせちゃったな。そんなつもりじゃなかったんだけど。仕方ない。さっそと拭いてもらってまた宴会に戻ってもらおう。
「また酒も食事もある?」
「はい。十分残っております」
「そう。足りない様なら言ってね。今日は楽しんじゃっていいから」
「ありがとうございます。旦那様」
領主組が風呂から上がって部屋に引きこもると外ではなお一層熱気が溢れている。そのうち楽器も打ち鳴らされ、踊りまで始まった様だ。
俺達は奥の部屋に引っ込んだから微かに流れてくる音楽を子守唄に就寝した。翌朝は朝からいい匂いが漂ってきており、昨夜あれだけ騒いでいた面々もこれにはたまらず早起きしてきたみたいだ。
各隊にパンを配布してそれぞれが食事の準備に取り掛かる。通常は騎士団は騎士団内で食事を済ませ、俺らとは別々なんだ。今日だけはパンを配布してあげたのは昨夜の悪巧みのせいだろう。
早朝訓練のあと食事になる騎士団や俺達の世話の後に食事になる侍女隊からも俺達がお茶を楽しんでいる間に歓声が上がってる。上手く行ってるようだ。
さて今日も収穫頑張りましょうかね。大きく伸びをして背筋を伸ばす。ちょうど食事を終えた副騎士団長が迎えに現れた。
「おはようございます。旦那様」
「ああ、おはよう。副騎士団長。今日も頼む」
こうして収穫2日目が始まった。




