第三章第三十五話 再建終了です。
第三章第三十五話 再建終了です。
再建を開始、人員を増強してから既に2週間が過ぎている。懸念されていた大侵攻は起きていない。この2週間でなにがあったか順に話そうと思う。
増員されて暫くは大侵攻を警戒しつつの作業が続いていた。若干進行速度が遅くなったが仕方ないとして警戒組と開拓組とに分けたりとしていたが、3日ほどしても特に変化が見られなかったので開拓優先のシフトに変更して今に至る。
まず塩造り。結構な変化があった。2日目くらいで、濾し布を魔法で代用しだした。
生活魔法の『ピュアウォーター』を用いてまず70%程の真水を分離し、かん水を作りさらに固形化した苦塩と異物の除去に成功した。
3日目には搾り布が魔力圧縮に代わって、ここからが劇的に変わった。翌日には当初4人で行っていた塩造りを6人体制に変更して、流水のまま作業を開始した。
海からは竜のような海水が流れ、その途中で7割くらいの真水を分離する。分離した真水は頭上を越えて最終の洗浄用として再利用し塩に降り注ぐ。
濃縮された海水を受け取る2人は魔法で固形物を分離し、さらに水分も抜く。ここと次が二人での作業だ。
ペースト状に変化した塩を両側から魔力で圧縮しつつにがりを下のたらいに落とすと半固形化された塩を受けた最後の一人が上からシャワーのように降ってくる真水の膜を数回通して最後に完全に水分を抜く。
サラサラと落ちてくる塩を塩袋に入れたり移動するのはマッドゴーレムだ。この流水のまま塩を製作する工程になってから1tづつしていた作業に比べ数倍の生産量に跳ね上がった。
ううん。数倍どころじゃない十数倍だ。間断なく塩が生産され続ける様になったんだから驚きだ。これ俺が言い出したんじゃないんだ。
作業していたみんなが徐々に改良してこの形に収斂していったんだよ。水魔法で洗浄用の真水を出さなくて済んだり、魔法を再起動したりしなくて済む分魔力の温存にもつながったんだ。
それを皆が独自にやっちゃった。俺が行ったり来たりしてる間にどんどん改良されて行って完成形に至ったんだ。凄いよね。
なので皇宮の要求は楽々クリアして余剰分もどんどん上納してる。2日目で300tの上納をしに皇宮に塩を持ってったんだけどシュナイバッハ侯があんぐりしちゃってたっけ。
今じゃそれどころじゃないんだ。皇宮で塩を隠しておく所を作る方が間に合わないくらいだもん。そのままの生産量を維持して納品し続けたからだよ。
一緒に行ってくれてるのはマルス兄様なんだけど、行くたびにシュナイバッハ侯から何やら言われて顔が引きつってるよ。
逆に苦しんでるのが薬師部隊。エリクサーと万能薬10本づつは何とかクリアしたんだけど、一向に成功率が上がらない。毎日ああでもないこうでもないと試してるんだけど失敗続きなんだ。
やっぱりエリクサーと万能薬は難しい。普通の薬に関しては十分量産が進んで、拠点の薬草園もまばらになって来るぐらいだった。でもまあ、直ぐに生えて来るんだけどね。
増設したおうちと新設したおうちはそれぞれ男女で分けなければならず、結構面倒だったようだ。領主館の丸太小屋も倍くらいに増設して、併設された丸太小屋が近衛侍女隊の宿舎に。
そこから少し離れて騎士団宿舎が左右に男女別に建てられた。それらの増設のほか騎士団および近衛侍女隊には倉庫も必要で装備品などや食糧の備蓄も行っている。もちろん氷室も掘ったよ。
宿舎には別途風呂や厨なども完備し、領主館とは独立して一戸の家として機能するようにしている。その他としては、騎士団および侍女隊共同の屋内・屋外訓練場や馬場などの新設もしている。
騎士団の訓練場と馬場は草原と呼んでる所に作ったんだ。もちろん領主館でも屋内キッチンなど家としての機能を充実し、貯蔵庫の増設、氷室の拡大なども行った。
一通り建物を建て終わった所で防壁の修繕に入りそれもほどなく終了している。騎士団は訓練も兼ねて周囲の間引きを積極的に行い、間引きの獲物の内半分を領主館に、残りを備蓄している。
食肉はそれで構わないが狩猟品は一括して領主館で交易品となる。別途給金も出しているので狩猟品は全て俺のものなんだ。
侍女隊は、間引き作業から解放され本来の侍女としての職務に集中するとともに騎士団の稽古にも付き合っている。
残念ながら騎士団の方の実力が一段階くらい落ちるので早急に底上げする必要があったんだ。このままだと騎士団から犠牲者が出かねないからね。
もちろんスパルタだから騎士たちは毎日ぼろ屑のようになってるよ。奥さん達も容赦ないから。実力的には騎士たちもマイヤ達に引けは取らないんだけど、戦い方が綺麗なんだよ。
卑怯もくそもない魔獣との戦いではやっぱり見劣りする。当然マイヤ達もと言いたいところだけど守られる側になったのでそこまで急激な指導は入らなかったが着実に鍛えられているはずだ。
姐さん達は言うまでもなく指導側だしね。海岸組でも同様の訓練は行っているけど、製塩が優先のため翌日に響く程の訓練は行っていない。
こちらは水中や水上訓練がメインとなる。陸に打ち上げてしまえばそれほど苦労しないと言う事もある。こちらでも塩村及び港村の拡張と防壁を終了している。
港村には一応小さな桟橋を作ってある。小舟が一艘だけだけどあるからね。またそれぞれに丸太小屋を1軒だけ建ててある。入植したてでも寝泊まりが出来る様にだ。また1反だけ畑も作った。
小麦と野菜を少し植えて、後は放置だ。入植者が利用してくれればいい程度の気持ちだ。ここまで来るとドライアドさんの加護もかなり低くて枯れない様にはしておく程度らしい。
そうそう海洋性の魔獣討伐が進んで行ったので近海では漁も試験的に行ってみている。そこそこの取れ高は見込めるのを確認している。まあ、時間的にそこまでしか行えてない。
海洋資源もまだ有るかもしれないけど見つける所までは至っていない。海洋性魔獣の討伐が進んだのにはまた訳もある。
塩造りで出る真水が結構な量なんだけどそのまま垂れ流してたら、魔獣たちが逃げるようになったんだよね。そう汽水域に生息できない魔獣が急に汽水域になったもんだから逃げる逃げる。
これを利用して入り江も魔獣を追い払ってみた。まあ逃げただけだから何処かに居るんだけどね。あ、そうだ。侍女隊と騎士団の小シュナイダー領正式装備が納品されました。
かっこいい仕上がりになっています。もちろんすでに配布済み。大森林突入組だけだけどね。
侍女隊は基本が侍女服を模しておりそれにブレストアーマーと長剣、カチューシャ仕様のティアラに脚部には長ブーツなどだ。
騎士団はフルアーマーにバスタードソード。兜はフルフェイスじゃなく視界を確保し易いハーフヘルム。揃いのマントだ。
侍女隊装備も騎士団装備も魔法付与されており、それぞれステータスを底上げする様になっている。これを配布した時は凄い歓声が上がったよ。
普通魔法付与まではしてないらしいし、重量軽減や装着合わせの魔法もないそうだ。俺達の装備には劣るけど一般的な騎士や侍女装備としては格段に上らしい。
帝都騎士団の上級騎士たちに匹敵するとか・・・嵌められちゃったかな? 商売上手だね、あの老舗の武具屋。
さらにシュナイバッハ侯が追加で注文を増やしてくれたらしく到着した時は俺が注文した分の倍くらいが届いたよ。さらに増員したら配布するつもりだ。
「さて、最近雨もちらほら降ったりして来てるから小麦の収穫をしてしまおう。今日はその他の作業は中止します」
俺が全員を拠点に集めて話している所だ。いくら持ってきているとはいえそろそろ備蓄が底を尽きかけている所での収穫、それも待ちに待った例のパンの元なのでみんなモチベーションが高い。
今までは購入した小麦だから黒パンだったのだ。それでも毎日焼いてるから柔らかい分ましだったんだけど、普通は保存が効く様に焼き固めてあったりするんだ。
「旦那様、収穫なら騎士団で行います。わざわざお手を煩わせる必要はありません」
副騎士団長、現大森林隊隊長がそう進言してくれてるけど、大森林の収穫を舐めてるようだ。東西北に各40反の収穫は並みじゃない。
今日まで彼らには同時展開複数遠隔魔法の練習はさせてなかったのだ。なぜって? もちろんその前の実力強化の方が優先だったからだよ。
魔法まで強化させようとしたら潰れちゃうかもしれないだろ?
「うん。副騎士団長。ありがとう。でも、君たちだけじゃ無理だから。雨に降られて収穫が間に合わないと思うよ。まあ、まず現場に行って説明するから見てからでも良いでしょう」
取り敢えず全員を連れて東にある農場を目指した。もちろん騎士団の方達が目にしたのは直径1cm、高さ2mくらいの麦が分ケツして100本くらいの束になっている麦畑がずらっと並んでいる所。端の方には高さ4m程のトウモロコシや巨大大蒜や大大豆だ。
「じゃあ、収穫なんだけど道具がありません。よって皆さんにはエンチャント魔法で鎌を付与してもらいます」
即座に鎌型に付与した刀で手近に有った100束を藁でくくってザックザクしてとやっとカットして担ぎ上げ、手本を見せる。
全員にまず鎌型に付与する様に抜刀させ、付与出来た者から収穫を試させているがそこら中からパリンとエンチャントが壊れる音がする。一通り全員が試した辺りでさらに告げる。
「収穫が終わったら、マッドゴーレムを作製して収穫物の移送をさせて下さい。拠点の広場にお願いします」
俺が収穫した麦束をマッドゴーレムに渡して、命じると駆け足で拠点を目指して行く。ほどなくして往復したマッドゴーレムが戻ってくるとまた渡す。これを繰り返してもらうんだけどどう?
と聞いたら騎士団の方達が絶句した。
「と言う事でこの持ち場を騎士団全員でお願いします。北は侍女隊で、西を俺達がやります。畑はこの奥に40反ありますから小道を進んで下さい。魔獣の襲撃にも十分注意して下さい。境界線側の人数を絞っていますからそう酷い事にはならないと思いますが、グレイハウンドドックやバイカルベア辺りは平気で出ますからね」
騎士団総勢30名を残して、俺達は移動する。侍女隊はエンチャントはそこそこ出来るはずだから問題は移送だろう。
北の農園で侍女隊13名が鎌のエンチャントで刈り取りを始めるのを見届けて俺達も西に移動する。西の農園に着いたら始める前に一言。
「さあ、領主組の実力を見せてやろうよ。他2隊はまだまだな事を思い知ってもらおう」
「ふふ。悪い領主さま。でも私達に一日の長がある事は知っておいてもらわないとね」
「その通りだ。ここで苦労した数カ月分は、差をつけないとな」
ヤルル、マイヤもやる気十分だ。アン、ライラはさすがにこの距離の遠隔魔法は経験していないから不安そうだ。ティア、グリンダ、アイダですらちょっと顔が青ざめている。
遠いと思っているのだろう。こんなのまだ近い方だよ。街道を作りながら丸太を運んだ時の方がキツイからね。
もちろん俺達は複数のマッドゴーレムを呼び出して、往復させる。1反程度ならこの人数ならすぐだ。どんどんと刈り進め、昼には4反の収穫が終了している。
途中でハニービーの襲撃を受ける事になる。どうやらこの辺に巣を作っていたらしい。普段は人を襲撃する様な魔獣じゃないんだけど巣に近づくと襲ってくる魔獣だ。
軍隊アリと同様、群体で行動する魔獣なのでやや厄介だ。軍隊アリ程凶暴じゃない分殲滅は楽に進む。おおよそ殲滅して巣を探したら大きな巣が近くにある事が分かった。
巣からは甘い蜜の香りが漂い出していて極上の蜂蜜を収穫出来た。ちょうどいいので殲滅が終了した段階でお昼休憩にする。
「ハニービー達のせいで随分遅れたやん。大丈夫やろうか?」
「へへへ。メル姐さんまだまだ大丈夫だよ。たぶんまだ1反も終わってないと思うよ」
ミヤが確信ありげに言ってきた。これは経験談だろうな。試験農園での収穫に最初は1日がかりだったんだもんな。
アンとライラは案の定、拠点までのマッドゴーレムの往復が出来なかったので、練習のための往復運動だけさせている。途中で収穫物を落としちゃったら大変だからね。
ティア、グリンダ、アイダでやっと出来るぐらいだ。その分刈り取りがぎこちなくなっている。その内慣れるだろう。さすがなのは姐さん達で数回試して難なくこなせるようになっている。
お昼は侍女さん達が持たせてくれたお弁当だ。お茶の準備とお肉を焼くための焚火を起こして食べる。今日も上手に出来てるお弁当だ。
パンが黒パンなのだけが残念だ。お肉は塩漬け肉を持って来ていて、その場で洗い流してから焼く。
スープも残り少なくなっていた、とうもろこしで作ったコーンスープだ。それに八宝菜、煮卵に角煮など色々ある。ああ、醤油があればなと思わずにはいられない
。記憶にはあるけど現物がないのは結構きついな。煮卵と角煮はハーブと塩がベースの俺が知っているものとは別物だ。
全員でワイワイガヤガヤしながらお弁当をつついて、最後にお茶をしながら休憩する。午後は結構な数のハニービーからの狩猟品を採取することから始まる。
ハニービーからは翅と針に核が取れる。結構な数になるので手間だったよ。そんな事もあったので初日は10反の収穫で終了してしまった。
半分は終わらせたかった。空模様もどんどん怪しくなるので他の所も手伝わないといけないからね。




