第三章第十七話 領地巡察
第三章第十七話 領地巡察
いきなりの雷だったがその後は、至ってまともな対応になった。張り切り過ぎてひい様しか目に入らず過剰な対応となっていただけだ。
「では、代官代行。そなたが文官の長じゃな?」
「はい。さようでございます」
「ではそちは今から、州長官じゃ。帝国法に基づいてこの地を治め、領主代理の言を違えるでないぞ。
「はっ。慎んで拝命致します」
州長官が平伏する。
「最初の仕事は、ここ領主館じゃ。今後領主館ではなくなる故管理の者以外は希望を募り領主館に移動する。領都に行くかどうかじゃ。この地に残る者には退職手当を、付いて来る者はこのままわらわ達と共に向かうので急ぎ準備せよとな」
「はい、直ちに」
州長官がティアの命令を果たすために直ちに立ち去る。
「次に騎士団長。領都では無くなったのでここに騎士団は置いておけぬ。全騎士、従士、騎士見習いはわらわと共に領都に転属じゃ。装備その他全て持って行く急ぎ準備を」
「はっ。かしこまりました」
敬礼をして、騎士団長も命令を実行するためにこの場を後にする。
「衛兵長。今後は州長官のもと、街の治安維持に努めるのじゃ。騎士団が抜けるのじゃ、あとを頼んだぞ」
「はっ。お任せ下さい」
敬礼をして退出して行く衛兵長。各部署に命令を伝え終わった州長官が戻ってきた。
「州長官。方針を伝える。内政方針は富国じゃ。外交方針は帝室重視。軍務方針は専守防衛じゃ。領民指針は笑って暮らせと伝えてくれ。これは次期領主殿の意向じゃ」
「はい。承りました。細かな事は、ケイオス領主代理様にご相談させて頂きます」
「うむ。わらわ達は領都他3州に問題を抱えておる。この地だけでも安定して治めるのじゃ。出来れば領主代理殿のバックアップも頼む」
「はい。心得ました」
「では直ぐには無理じゃろうから明後日には出発したい。領都までは3日の旅程じゃ。急ぎ準備を進めよ」
「はっ!」
急ぎ引っ越しの手配が進められた。下男下女はここに家があり、家族がいるので全員残る事になる。侍女侍従の大半は付いて来る事となった。
馬車、荷車の手配、騎士団の一部には先行してもらい先触れや宿、諸々の手配をしてもらう。速やかに領主一行の出立がかなうこととなる。
通過する街では領主一行と言うことで常に歓待がなされた。連日の夜会にうんざりしながらも順調に旅程をこなし脱落者も出す事なく領都になる街に到着した。
「ようやっと着いたの。ケイオス義兄殿ここからが本番じゃ」
「はい」
領主館に着くと各州の長官代行を始め騎士団長などそうそうたるメンバーにてのお出迎えだ。
「皆のもの待たせたの。帝国第8皇女ティアじゃ。わらわが領主じゃが、婚儀を控えておる。後にシュナイダー男爵が領主になると心得よ。されど我が夫は多くの領地をもっておる。ここには夫の兄君が領主代理として隣領にも同じく兄君たちが赴任することとなる。領主代理を盛りたて、より領土を発展させる事に邁進せよ」
前回の失敗を踏まえ最初から宣言することにしたのだ。
「さて、旅装を解く暇もないがまずは、諸君らの身の振り方じゃ。退職を希望する者は退職金を出す故申し出よ。いずれ人事の刷新を図るが、現状そなた達を知らぬが、就職を希望する者には代理なり代行なりの肩書を取り正式に雇用致す。」
「はっ。有り難き幸せ」
「ではそち達の上司を紹介しよう。ケイオス義兄様じゃ。領主代理のうえ男爵じゃ。この領都に一県を領有して居る。そこの領主でもある。ケイオス義兄様後はよろしくお願いしますのじゃ」
「心得た。まず、一県を領有して居るのは俺だけではない。テリオ、ガイウス両領主代理も領有して居る。いずれ領主代理として交代することとなるので見知りおけ。これで現領主、次期領主、領主代理は覚えたな。つぎに3妃と9夫人だ。3妃とはティア様、グリンダ様、アイダ様を指す。9夫人とはマイア様、ヤルルーシカ様、ミア様、リュディー様、アンジュ様、メル様、ルル様、アン様、ライラ様を指す」
ここで一息を入れお茶を口に含むケイオス兄様。がんばれ。
「3妃、9夫人はいずれどこかを領有なさることとなるので、良く見知りおくように。これが現在小シュナイダー領の主たちだ。次に領地範囲を示す。ここ4州に加え隣にある元ティア様の子爵領を含めた5州これが私が治めることとなる領地だ。今はティア様のルッケンバウム伯爵領であるがこれを統合し小シュナイダー男爵領とする。小シュナイダー領には他にグリンダ様のバウム伯爵領とアイダ様のカエザル伯爵領も統合される。これで小シュナイダー領は1200万石の大領となる。その臣である事に誇りを持ち勤めてもらいたい」
うっわ。改めて聞くと凄いな。公爵家に匹敵するじゃないか。まるで人ごとだな。うん。実感なんか全然ない。俺の領地はいまだに大森林のあの拠点だけだもの。20石しかないよ。
開墾しきれれば200万石はいけると思うけど魔獣がいるからね~。さらに収穫量を考えればその10倍20倍は楽に行くんだけどままならないな。
「自領の県長、領都の州長官はそのまま私が務める。その代行職の者は副長官として励んでもらいたい。残り4州長官のうち3州の長官に告げる。内政方針は富国、外交方針は帝室重視、軍務方針は専守防衛、領民指針は笑って過ごせとのことだ職務に邁進してくれ」
「「「はっ。承りました」」」
「それと騎士団長、元の所領の騎士団を伴って来た。合流して再編してくれ。まずは以上だ」
表立って反抗的な者はいない。なにやら画策していると言う事もない様だが、知らず知らずのうちに真綿で首を絞められている様ななんとも言えない雰囲気がある。
気を引き締めておかないとこの雰囲気にのみ込まれそうだ。
「初手はこんなもので、どこまで動いてくれるかを見ようと思う。ティア様」
「はい。ケイオス義兄様、様子見ですのでよいじゃろうと思う。ここはお任せ致し、残りをぐるっと巡ってテリオ義兄様とガイウス義兄様を配してきます。そこからが勝負になるじゃろう。一度わらわがここを離れるとどうなるかも見てほしいのじゃ」
「心得ました」
グリンダの伯爵領、アイダの伯爵領と巡りそれぞれテリオ兄様、ガイウス兄様を配して来た。こちらもやはり同様でこれと言って表立っての動きはない。しかし陰にこもった物があるようだ。
さて兄たちと別れ、俺達が向かったのは新領主城館の建設予定地だ。3領を見渡せる中心にあり西には大小さまざまな湖沼地帯を抱えた水運と観光の水の街、南と東には平野が続く大穀倉地帯、そして北には3領と帝都へと続く交通の要衝となる商売の街を抱える地だ。
既に通達があり基礎工事が始まっている。3領を抱えたからこそできる造営だ。なる程姫様達が選ぶ訳だ。
大穀倉地帯を支えるのが水の街の水、大穀倉地帯の食料で水の街は生きながらえ、それらの恩恵を受ける商売の街。それぞれが別の領地にあれば揉めない訳はないな。
「まあ、うまく回れば凄い土地なのに、揉めようと思えばいくらでも揉められる地か~。ここにさらに南部大森林の産品が流れ込んだらどうなるかな~」
「まずは水運の街が潤うじゃろう。料理が格段に上がり観光が爆発する。さらに産品を北に運ぶ水運業も栄えるじゃろう」
「逆に干上がるのは大穀倉地帯ねぇ~、売れなくなるのは目に見えているしねぇ~」
「そして商業都市は通過する産品から利益が上がり商売繁盛と。大穀倉地帯の穀物を安く買い叩いて、海外貿易に繋げるとかじゃないですか」
アイダ姫がまとめにはいる。しかしまだその先をグリンダが提示する。
「うちの商品と被る、大穀倉地帯が干からびるわねぇ~。となると東に伸びる神王国辺りに流れる食料かぁ~。そして水の街、商売の街の食糧不足が始まると。うちだけじゃ賄いきれない現状がありますぅ~。安価な食糧が神王国に渡れば、進軍して来るでしょうねぇ~。目に見える様だわぁ~」
「全員がうちの産品を食べれる訳じゃないから大穀倉地帯は重要だよね? それでも市場の締め出しは起こると思う?」
「起きますわぁ~。ここぞとばかりに」グリンダが断言する。
「なら穀倉地帯にうちの産品を流すと・・・買ってもらえないか、安く買い叩かれるかのどっちかだよね」
「ここを通さないってのはどうかなと思う」お、ミヤが意見を入れてきた。
「利益が他に流れて蚊帳の外になれば不満が溜るわよ。更に食糧がやっぱり安くなって、他にも売れなくなるんだから」これにヤルルーシカも加わって反論。
「これってこの3領の縮図だね。でも水の街が自重して、商売の街が関税を抑えれば上手く行くよね?」俺が希望的観測を述べると。以外にもティアが認める。
「うむ。理想的じゃが上手く行く。そう持ち込みたいが、商人は金にうるさい。水運業社とて関税をがばがば取られたのでは面白くないじゃろ。穀倉地帯と水運の街が手を組めば商業都市は干上がる。2者が手を組めばどこも干上がる状況じゃな」
「穀倉地帯には神王国へ食糧供給は定量までと言う枷を嵌めるしかない。その枷の代わりに食糧を一定以上買いつけるように水、商業両街にまた枷をかける。その変わり南部大森林の産品を水の街を通して流す」俺が出来得る対策を口にする。
「それでは穀倉地帯のうまみがない。流通量は一定以上は増えんだろうし、神王国にも売れぬとあればどうなるかは分かろう」
「領主旗を立てて一気に帝都に食料を卸してしまうのはどうでしょう?」ここでアンジュが問題を切り離しに掛る。
「それこそ商業の街が、黙ってないじゃろう。売買利益や関税で成り立っている街なのじゃからな」
「はぁ~。どうすんのこれ」
俺達が途方に暮れている所に、兄上様達がやってくる。
「よっ! サラ。領主城館建造視察に来たぞ」
「ケイオス兄様、テリオ兄様、ガイウス兄様」
状況を説明して打開策を聞いてみる。
「ん。簡単じゃねえのか? 俺んとこは関税を決め直す。適正にするだけだ」あっけらかんと言うケイオス兄様。
「僕は南部大森林の産品は帝都しいては陛下へのお品だから大多数はそのまま帝都に送るだけだ。目玉商品として少しは流通させるけどな」テリオ兄様も至って普通の対応を口にする。
「俺ん所は今まで通り食料を供給する。余ったら帝都に税として物納か帝国中にばらまくだな」ガイウス兄様が一番困った事になるのだが、他に売って終わりだそうだ。
「それでお終いだろう? 南部大森林の物量が増えてくれれば抱き合わせて商売が広がるから嬉しい限りだな」
「すると僕んとこも水運を生かして八方に手を広げられるね」
「南部大森林の穀物が増えるなら、作物を転換して砂糖きびにしても良いな。より儲かるだろう」
「なる程。前向きですね」
「そんなもんだ。ケイオス兄上が関税を抑えてくれるのがキモだ。適正価格にさえなってれば誰も文句は言わねえさ」
「次は僕んとこが忙しいを理由に賃上げとかするとか運賃を値上げするとかするとまた変わってきちゃうからそんなに忙しいなら道路整備しちゃうぞってね」
「関税は領主の取り分だからどうとでもなる。問題は商人の取り分の上乗せ。これがどんどん上がって行くのが問題だ。だけど領主も商売するから適正価格で売買してれば暴利は貪れない。それでも上がって行くような事があれば帝都から商人を招聘すると言えばいい。大店は怖いぞ~」
「なんか簡単に行きますね」
「領主がしっかりしてれば普通はそうなんだよ。領民が苦しむことなんてない。戦争とか飢饉でも起きない限りはな。飢饉対策はするし、戦争は騎士たちの仕事だ。しっかり鍛えておけばいい。ここは金に苦しむ事もないし皇家の後ろ盾もある。恵まれた土地だよ。ここに比べたらシュナイダー領なんか悲惨だぜ」
「うん。そうだね。もう既にちゃんと回り出してるし、売り上げも関税もどんどん上納されて来てる。金庫が破裂しないか心配だよ」
「あなた。義兄様達は優秀でございます。こんなに簡単ではないはずですが既に領地を掌握なさり始めています。あとはこの雰囲気ですか」
アイダがもう任せることを前提に問題を提示する。何とも微妙な空気が流れ、全員が黙りこむ。
「じゃあ、兄様。あとはお任せ致します。俺らはもう大森林に戻ります。あそこはまだまだなので早く何とかしないと」
「そうか。報告なんかは大シュナイダー領の姫様達のお屋敷宛に送っとく。ちょこちょこ見てくれよ」
「はい」
兄様達が優秀なのは知ってたけど、まだ変な雰囲気は残ったままだ。ここは兄様達を信じて戻るしかないんだけど。
こうして簡単に巡察を終え兄様達にぶん投げるサラでした。近く問題が表面化する事をまだ知ることはない。
馬車に乗り、旅立つ。一路エルフの里、ダークエルフの隠れ里へ・・・。あれ? 大森林に戻るのではなかったっけ。
ここにきて姐さんとジュディーがしびれを切らしたのだ。聖王国国境に近い古い森林地帯と東部にあるダークエルフの里に向かい説得を試みることとなる。
近いのはダークエルフの隠れ里。まずは東部に進路を取り、襲い来る魔獣を蹴散らしつつ、道なき道に分け入る。
既に連れてきた侍女たちと御者はいなく、新たに領地で雇った御者と侍女を連れている。今度は正式な俺達の配下だ。
御者と侍女を雇ったのは、領地で貴族のメンツを守るためとここでは姫様達にやらせる意味もない事。自分達だけで動こうとすると領地の騎士団やら侍女やらがこぞってついて来ようとするためだ。
都会慣れしている御者や侍女たちは既に疲労困憊に達しているが、頑張って付いて来てもらうよりほかはない。
既にここら辺には宿を取る街はない。リュディー曰くもう少しとのことだが、馬車は使えなくなって久しい。
馬車をマジックバッグに収納して馬に侍女たちと御者を乗せ引いている。この分だと街に戻ったら辞職しちゃうんじゃないかな。
ちょっと過酷だったか。俺達は大森林で鍛えられてるからこの程度へっちゃらだけど一般人にはきついだろう。また姫様達を差し置いて自分らが乗る訳にはいかないと健気にも言い張る。
そこはさらなる行程の遅れの方が迷惑であると諭して、乗ってもらった。恐縮することしきりだが姫様達は元気だ。時折高速戦闘訓練などをして過ごしている。
今までずっと高速戦闘訓練をしていたのでだいぶ板について来た。アンジュとリュディーも既に一人前になりもう懸念はない。
あるとすれば未だになんのスキルも生えてこない俺だ。そんなこんなでようやく隠れ里の直前まで来た。
「何者だ!」




