第三章第十八話 ダークエルフの隠れ里
第三章第十八話 ダークエルフの隠れ里
リュディーにもう少しと聞いたところで突然の誰何の声が響き渡る。目の前には忽然とエルヴンボウを構えたダークエルフが出現していた。
驚いていないのはアイダ、リュディー、アンジュ、姐さんだけだ。きっと見えてたんだろうな。気付くと辺りはダークエルフに囲まれている。
全員がエルヴンボウを構え、いつでも放てるように矢をつがえている。
「やあ、リュディシディリア・ハイランダーだよ。隊長さんこんにちは」
「リュディシディリアか。遊びから帰ってきたのか? なぜ人間をここへ連れて来た。幼子と言えど掟違反は重罪だぞ」
長命種の感覚だと数年は遊びに行っていた感覚なのか。やっぱり幼子って言ってる。本当に子供だったんだ。まあ、隠れ里だから他の種族を連れてきたら掟違反だよな。うん。やばいんじゃない?
「掟より種族の戒律の方が優先されるから平気だもん。大おばあ様はいる? お話しなくちゃなんないんだよ」
「長老に話があるだと。いくら直系の姫でもそうそうお会いできるものではないぞ。まずは大姫にでも話を通すがいい」
「じゃあ、ひいばあ様に会いに行くからどいて」
「絶対死守が俺の仕事だ。ここを通す訳にはいかん。まずは小姫様を呼ぶからここで待て」
「かか様か~。怒ってた? ねえ。隊長。かか様、怒ってた?」
「当然お怒りだ。何度も探しに出られては落胆して戻ってきたわ。折檻は覚悟しておくがいい」
「やだよ~。かか様は容赦ないんだから。ばば様かひいばあ様はいないの?」
「お前が戻ったら必ず小姫様のところに連絡する様に厳命されているんだ。既に連絡はいっている諦めろ。幼姫」
「うわぁ~ん。隊長の意地悪」
リュディーが逃げ腰になった所で『リュディシディリア』と声が掛り、ふわっとリュディーを抱きしめる女性が目の前に現れた。
「私の幼子が戻ったのね。無事で戻って何より。心配をさせて・・・」
そう言ってリュディーを抱きしめることしばしやっと離した。
「あ、あのね。かか様。外の世界は意地悪だったけど、そうじゃないのも居たよ。無事に戻っただけじゃないよ。戒律に示されていた使命も果たしたよ」
「なにを言っているのこの子は。そんなこと出来る訳ないでしょう。里の者なら誰でも知っている事よ。幼子のお前だけですよ、今だ使命だのなんなのと言っているのは」
「そうじゃないんだよ。ここでは話せないから何処かに・・・ううん。ひいばあ様に会わせてよ。この人間も連れて行って。ちゃんと話すから」
「出来る訳ないでしょう。!!! エルフまで居るじゃないの!? 狂乱の双生児!? なぜこんな凶暴なエルフを里に連れてきてしまったの!?」
「あんなあ。お前なにゆうてんねん。誰が凶暴じゃ」
「ああ、怖い。」
「メル! 黙ってて。話がこじれちゃう」
「ちっ。 分かっとるわ」
「ほら、黙らせたでしょ。大丈夫。あたしの言うこと聞くから」
「本当なの。狂乱が他者の言葉を理解できるの?」
「・・・!!」
「あまり変なこと言わないで。抑えられるものも抑えられなくなっちゃうでしょ。だからひいばあ様に会わせて」
「狂乱を手なずけたの。そこまでの事が出来るものなの? そう証明されたわね。しかし・・・」
おお、ナイス姐さんの悪名。でもまだ迷ってる。ティアに目配せをして名乗りを上げさせる。
「ちょっとよろしいじゃろうか。わらわは帝国第8皇女ティアと申す。リュディーの申している事がそちらの戒律かどうかはわらわ達には理解しようがない。しかしこの事は帝国にとっても大事な話じゃ。易々と他者に話せるものではない」
「帝国の皇女? そなた剣姫か。剣姫まで伴って来たならば事は重大なことは理解致しましょう。ついてまいれ。場所を移す」
よし。第一関門突破。帰り道があると良いな~。大森林ほどではないけど、ここも十分に古い森だな。森の奥へと連れられて行く事暫く。
森が開けている場所、そこにダークエルフの里があった。そこそこ立派な家が森の木々と同化しながら建てられている。
エルフの里と言えば木をそのまま利用した家を樹上とかに作っているかと思えばダークエルフはそうでもない。木を取り込む形で地上に家を立てている。
里の奥に行くに従って徐々にその全貌が明らかになって行く。里の最奥には巨木がそびえ立ちその木に寄り添うように建てられている古い大きな屋敷が最長老の所在なのだろう。
屋敷の中に入ると大きな広間に通され、その中央に熟年と思われる一人のダークエルフが座している。見た目が熟年だがこの人が最長老だろう。
ダークエルでさえその容姿に老いが現れる程の年月を生きて来たのだ。その周りには妙齢の女性を始め若く見える女性が座している。
どうやらダークエルフは女系の種族なのかもしれない。
「小姫。幼姫を連れてまいったか」
「かか様。いえ、中姫様。何やら大事の様子。話を聞いてあげて下さい」
「それを決めるのは最長老の大ばば様ですよ」
「皆黙りな。幼姫。掟破りの弁解をさせてやろう。言う事があればいいなさい」
「大おばあ様。お人払いをして下さい。多くの人に話す事を許されていないの」
「ここには私、大納言姫、中納言姫、小納言姫、大姫、中姫、小姫しかおらん。全て私の直系だけだ。その伴侶でさえ席を外させている。これでも多いと申すのか」
「リュディー。致し方ないようじゃ。配慮を感じる。事が帝国にも及ぶ。他言無用じゃ」
「承知しているよ。帝国の幼姫」
「じゃあ。誰にも話さないでね。お姉さま方。掟を破ったのは皆を世界樹に導くためなの。戒律に示されている様に世界樹の元に集まる事、それがダークエルフの使命でしょう?」
「ふん。世界樹は聖王国とやらのせいで近づく事もままならん。その事は皆知っている。じゃが人間の寿命はたかだか100年程度。その内滅びる。その時にはちゃんと世界樹の元に行く。そう話して聞かせたであろう?」
「ううん。違うの。第一の御神木じゃないの。第二の御神木に導くためにやってきたの」
「・・・第二の・・・御神木だと!?」
「うん。まだ若木なの。この子、サラと言うのだけどが見つけてくれたの。そして今まで誰もそこには近づけなかったの。でもサラは近づけた。そこにあたしも居た。これは使命を果たした事になるでしょう?」
「・・・導き手を見つけたと言いたいのだな。そうか。まだ有ったのか。一本きりではなかったと。それを探す使命を怠っていたようだな。これは幼姫にしてやられた様だ。認めよう。その話が本当ならばな!」
証明するのは簡単だ。俺が転移で連れていけばいいだけだからだ。最長老のみを伴い転移する。
流石は最長老、一瞬だけ呆然と光景を見つめたと思ったらおもむろに膝をついた。と思えば拝跪し始める。数瞬だけ拝むと戻ろうと声をかけられる。
ダークエルフの里の大広間に取って返した俺達に皆の視線が集まる。
「真であったぞ! 若様であった。本当だった。それに幼き姫も多数おいでだ。第一のご神木様にはもう姫様は一本きりじゃのに。くそ忌々しい聖王国の神官どもが皆殺してしまいよったからな」
「おお~」
凄いどよめきが巻き起こる。若様とは世界樹の若木の事で、姫様と言うのは命の木の事らしい。
「皆静まれ!!」
最長老の一声に場が静寂に包まれる。一度瞑目した最長老がカッと目を開く。
「ダークエルフ族、数千年の悲願が達成される。幼姫がその導き手を発見したことを認め、戒律に従う。ここにダークエルフの初代女王が誕生した。これより我ら長老たちは女王を補佐し世界樹を目指す」
「え? なに? 大おばあ様なにを言ってるの?」
これはまた、大事になりそうな予感がする。姐さん達の動揺も激しいみたいだ。つまり同じ戒律が存在するんだな。ってことは姐さん達のところにも初代女王が誕生しちゃうんだ。どうなるんだ?
「幼姫。そなたにはまだ話していない戒律の先の話があるんだよ。お前が女王としてダークエルフを導くんだ。これから千年王国が誕生する。その初代王がそなただよ」
「え、そんなこと出来ないよ。まだ遊びたいもの」
「幼子よ。まだまだ遊べばよい。そなたの遊びがミレニアムを作るその礎となろう。我らがそれを助ける。ダークエルフ、またエルフも国を作らなかったのはその戒律に縛られていたからだ。その戒律を果たしたときダークエルフ・エルフ達は千年王国を作ることが許されるのだよ」
「遊んでていいなら、そうするけど知らないよ? なんかやらせようとしてもだめだからね」
「ふふふ。さて、帝国の皇女よ。お聞きの通りだ。どうする?」
「また面倒な事じゃ。帝国の中に国を作ると宣言されたのでは、困るのじゃ。ダークエルフは戦争を望むのか?」
「いや。望まぬよ。さてさて。状況を整理してくれぬか? サラと言ったか、そなたが中心であろう」
「・・・困りましたね。俺が見つけたから世界樹は俺のものだよ。そして俺は帝国の貴族だ。だから世界樹もまた帝国のもになる。だけどダークエルフが望むなら俺の領民として受け入れても良いと女王には約束しちゃったよ」
「ならば話は簡単だ。我らは国を作る。しかし帝国がある限り帝国の一部としてあろう。じゃが帝国が滅んだならば我らは国として独立する。帝国はそれを認めるか? 認めたとして我らダークエルフになにをしてくれる? それいかんによってダークエルフは帝国にその力を開放しよう」
「それはわらわでは決しかねるのじゃ。お前様。帝都に、陛下の元に跳んでくれ」
今度は帝都かよ。俺ってただの転送装置じゃね? まあ良いんだけどさ。直ぐにティアを連れ帝都に跳ぶ。
◇ ◇ ◇
「父上様、いや、陛下。事の次第は今話した通りじゃ。帝国は如何に致す?」
「ふーむ。話しは簡単じゃな。帝国に恭順する。そのためには公国なりなんなりを認めよと言う事じゃろう。さすればダークエルフの強大な魔法戦力が帝国と共にあると言う事じゃ。またその後エルフも同じ事が起きる可能性があると」
「そうじゃ。2大魔法種族を帝国がその掌中にする機会じゃが、それには国として独立することを約せねばならぬのじゃ」
「それは帝国が滅んだらじゃよ。ティア。ダークエルフ、エルフを擁していてそう簡単に滅ぶ訳もあるまい。くくく。それこそミレニアムじゃよ。その礎が転がり込んで来たのじゃぞ。良かろう。認めよう。ダークエルフもエルフも南部大森林にこだわっているのじゃな?」
「そうじゃが・・・父上どうするつもりじゃ」
「南部大森林は聖地としてその領有は認めぬ。あそこはあくまでも小シュナイダーの領地じゃ。居住は小シュナイダー卿が認めるならば認めよう。国を起こすならば土地が必要であろう? 大シュナイダーの東側の一部からその先をダークエルフに与えよう。西側をエルフに与えよう。大シュナイダーには中央部から帝都に至るまでの領地を加増してくれる」
「な、なんじゃと本当に国をくれてやるのか!?」
「いや、その地を治め、帝国貴族として叙爵し、東王とする。その領地は未開地を含む1500万石、見事治めて見せよ。西のエルフも同様じゃ。これで聖王国、神王国の備えは盤石じゃろう?」
「それぞれに事に当たらせる気か? それも未開地の開拓までさせる気なのか。丸儲けではないか!? 資金くらいは出すのじゃろうな? そのままくびり殺されるのはごめんじゃぞ父上」
「もちろんじゃよ。シュナイバッハ。帝都の国庫を開けよ。皇家の金庫もじゃ。大金貨1000枚を下賜してやろう。大いに恩に着てくれ。ふぉふぉふぉ」
もう大騒動だよ。父様ごめんね。せっかく色々動いてくれてるけど台無しにした。そして取って返した俺達はまたも事の次第を告げる。
「と言うことじゃ。最長老よ。受けるか?」
「くくく。帝国皇帝もなかなか。受けよう。初代東王はリュディシディリアそなたじゃ。されど導きの姫巫女でもあるそなたじゃ。代王として私がその地を治めよう。そなたは聖樹様の元に一族の居留地を作るがよい」
そこからはもうあれよあれよという間に新女王即位がダークエルフの身内だけで行われた。
リュディーにはダークエルフ秘伝のティアラが冠され選りすぐりの配下300名が居留地開拓のためつけられる事になった。
またダークエルフ全氏族の大移動とその拠点が決められて行く。更に術師の大部隊が組まれ、荒れ地を含む多くの地が大規模な術式魔法にかけられる事になり森に沈んだ。これはまた別の話である。
「さて、帝国の皇女よ。世界樹の事はまだ内緒なのであろう? では、ダークエルフが帝国に恭順した体を取らねばならぬな。・・・ならば帝都で人間の儀式に参加してやらねばならぬか。リュディシディリアよ。そなたは一時別行動じゃ。帝都に行くぞ」
帝都にはグリンダを案内役にダークエルフの重鎮、最長老にリュディーを伴って連れて行った。流石に一回では無理だったので複数回に分け連れて行く。
あとはもうダークエルフと帝国の問題なので感知しない。しないったらしない。
ダークエルフ達が帝都に着いて数日。リュディーはあっさり解放されて戻ってきた。叙爵だけでその後の歓迎式典やら会議やらはほとんどすっ飛ばしてきたらしい。
帝国の中でも大規模な転封が行われ始めた。ダークエルフの領地は緩衝地帯も含めて多くが未開地だが一部貴族が領有している地もあるからだ。
リュディーに付けられた精鋭中の精鋭はもちろん南部大森林の東側境界線の元大シュナイダー領に一時駐留する事になった。
直ぐに突入しないことを条件にそこに留まりながら南部大森林の間引きを行う。ティア達の配下は、転封を受けて大シュナイダー領南部中央に移転。
まだこの中央部にしか村がないので好都合と言えば好都合だった。かなりごたごたしているが、知らない。関わると酷い事になるのは分かっているから。
俺達は俺達の方で次の目的地に向かう事にした。転移で迷宮都市に跳び馬車で更に西に向かったのだ。




