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第三章第五話 リハビリやー。

第三章第五話 リハビリやー。



 翌朝目を覚ました俺は、辺りを見回す。大分落ち着いて来た。人数が増えた分抱き枕になる確率も減ってきたのだ。


 今日は、・・・ルル姐さんに掴まってたか。背後から俺を抱きしめて寝ている。よいしょっと。姐さんの手を撥ね退けて出口に向かう。この危険地帯をどう抜けるかが問題だ。


 ごちゃごちゃと色々いるので立つと危ない。四つん這いのままゆっくりと気配を殺しながら出口に向かう。


 うっ、リュディーか俺の足に絡み着いて来た。ここで慌てちゃいけない他の注意を引かない様に慎重に足を引き抜く。抜いた足をヤルルを越えてその向こうの隙間にそっと置く。


 い、いかん。バランスが崩れた! ガバッとアイダ姫とアンジュに掴まる。そのまま布団の中に引きずり込まれ体を極められる。ヤルルの向こうは遠かったか。


 極められているので、そう簡単には脱出できない。なぜ朝から組手なんだ! 手首を返して相手の腕をとりながら、くっ、首が極まっちゃう。


 後ろからアイダ姫の手がスルスルと伸びてきて顔全体が極まりそうだ。首に入ろうとしている腕を肘から持ち上げる様にして外す。


 危なく難を逃れた俺は、背後のアンジュの腕を外し前にいるアイダ姫との組手を制して再び移動を開始する。無理は禁物か。次に掴まったら逃げられないかもしれない。


 姐さんとマイヤは遠いな大丈夫だ。アンとライラなら何とかなるし、ティアとグリンダは俺同様捕まってると。ノォ~~~。あわてて下半身を見れば、ミヤが腰に巻きついている。それも前から。


 見逃した! 剛力でぎりぎりと締め付けられ、グリグリと顔を動かすミヤ。ここで急所へのアタックを許してしまい焦った俺が失策を演じる。アンとライラを軽く見過ぎていた。


 出口付近に散らばっていたので余り脅威を感じなかったがミヤに下半身を抑えられた途端両腕にぶら下がってきた。顔から床に倒れ込んで、そのまま腕を極められる。


 万事休す! 扉を目の前にして身動きが取れない。肩を両足で極め、手首を両手で極める。そのまま腕全体に体が絡まってくる。


 当然掌は胸部装甲に押しつけられている。ああ、ダメなのにダメなのに。柔らかい。あぁああぁ~。ミヤもう止めて~。


 この体勢は詰んだ。寝返りも打てない。掌をできうる限り遠ざけながら取り得る手段を模索する。


 ・・・腕は伸びきり腹這い、膝立ちすら許されない。詰んでる。寝てる人間に押さえ込まれるってどんだけ俺って弱いの。


 これで痛ければギブアップ出来るのだが、気持ちいいだけとか。いやいや、そうじゃなくて。「!」持ち上げてしまおう。


 幸いこの三人ならまだ軽い。ぐっ。けど三人は結構重いな。これで怪力とか生えたら情けなくて仕方ない。


 どっせい。持ち上げてしまえば腕の極めは意味をなさなくなるはず。どうにかアンとライラを外してそっと寝かす。


 ミヤはどうやって外そうか。片手ずつゆっくりとよーし外れた。何とかダイニングに逃げのびる。毎朝組手の訓練から始まる目覚めってどうよ。


 ガックリとしながらも外を回って風呂場で身支度を整える。朝のお茶の準備をして一息つこう。うーん。さわやかな目覚めだ・・・正直になります。


 朝から疲れたよ。パンの下準備だけしてダイニングでお茶を飲んでいると(今日は紅茶)ヤルルとアイダが起きて来る。俺の次はいつもこの二人だな。


 身支度を整えて戻ってきた二人にお茶を入れてあげる。この次からはアイダが淹れてくれる。やっぱりお茶はアイダが一番上手に入れる。


 ハグ・スリスリ・ペタペタ・チュ。


 朝の儀式終了。


「今日姐さん達とリハビリに参加すのよね、サラは」


「うん、そのつもり」


「なんかある?」


「お風呂の拡張工事とか寝室の拡張工事とかも必要かなって」


「そうか。それもしないとね。とすると組み分けを変えないといけないか。リハビリ組はそのまましかないとして、リュディーとマイヤに頼めば良いかな」


「そうね。二人なら慣れてるからいいわね」


 一時間程してぞろぞろと皆が起き出して来る。相変わらず手を引かれて起きて来るティアとグリンダ。


 眠そうに眼をこすりながら、今日は姐さん二人に手を引かれてる。世話好きだな~。それを見ていたアイダが素早くお茶の準備に入る。ふふ、2杯目もらっちゃおっと。


 皆がお茶を貰って一息入れたところで、先ほどの話をもう一度する。


「マイヤとリュディーには悪いんだけど、お風呂と寝室の拡張工事をお願いしたいんだ」


「ああ、なるほどな。今手狭だもんな。分かった。リュディー前の設計図残ってるよな?」


「うん。大丈夫。改良加えるよ」


 あれ? マイヤとリュディーの首根っこを掴んでヤルルが引っ張っていく。あ、また女子会かな。これは関わっちゃいけないやつだ。


「マイヤ、リュディー」


「どうしたヤルルーシカ」


「寝室の拡張の事なんだけど。個室を一つ作るべきじゃないかしら」ひそひそ。


「ん? どういうことだ。面倒なだけだぞ」


「そうね。面倒な事を頼んでごめんなさい。でも必要だと思うの。大奥よ。寝る所じゃない寝室。分かるわよね? 延び延びになってるけど外堀を埋めて行かないと埒が明かないわ」


「なるほど。良案だ。ませとけ」


「皆には私から話しておくわ。みんなも賛成してくれると思うの」


 グッと拳を握りしめる3人。悪巧みが完成した瞬間だ。戻ってきた三人。ヤルルが次々と他のメンバーに耳打ちして行くそして大きく頷く。


 最後が俺かと思いきやスルー。どうやら女子だけの様だ。まあいい、仲間はずれにされたような気がするがそんな小さな事を男が気にしちゃいけない。


 なんとなく気まずい感じのまま朝食を済ませそれぞれの持ち場に散っていく。


「ほな、うちらも行こか。サラやん。軽く流しながら周辺を偵察したり、魔獣を討伐したりするで」


 アンジュ達と一緒にまずは南門に向かう。そのまま周辺を偵察してなにもない事を確認し、西門に向かって防壁の外側を回る。


 アンジュ達も畑を耕し終わったので木々の伐採に向かうのでまた一緒だ。


「姫さん達も魔法慣れたよね。結構いけるでしょ?」


「うむ。最初は無理じゃないかと思ったものじゃが意外と慣れるとそうでもない気がするの」


「あまり気にならなくなりましたのぉ~」


 そうなんだよ。常に魔法を使ってるから気にならなくなるんだ。そうなると後はこっちのものでどんどん慣れてくる。


 転移魔法が今だ俺だけなのが気になるが、魔力量にもよるからな。魔力の増幅訓練と並行しながらやって行けばその内出来る様になるだろう。西門の辺りで別れて周辺に移動する。


 そうそう姐さん達の陣形は、ツートップでメル姐さんとルル姐さん、その左右後方にアンとライラがいる台形みたいな形だ。


 そこに俺が入ったから俺の位置は台形の底辺中央、後方支援の位置だ。最後尾にヤルルが入る。うん、剣士扱いされてないな。


 まあ、仕方ない連携も取れないだろうから様子見だ。中級の魔獣ギガマンティスが前方に居る。スルスルッとルル姐さんが近寄ってサクッと首を切り落とす。


 ギガマンティスはなにが起こったのか分からないみたいな挙動を体だけがして斃れる。おしまい。


「・・・リハビリつらい。思ったように体が動かない」


 え? 俺より全然いい動きしてたよ? 一撃だったよね? 俺が驚いているとメル姐さんが。


「しゃーないやろ。2か月も寝てたんや。そら筋力も落ちるやろ。刀~刃毀れさせんようにきいつけや」


「・・・うん。良い武器。麟が刃毀れしたら可哀想。気いつける」


 左右を見るとアンとライラもいつもの事みたいな感じ。姐さん達を放っておいて周辺警戒を・・・いや、これは自分の獲物を探してるんだな。


 なるほど、そう言うことか。パーティー内でも自分で見つけて自分で狩るんだ。手に負えない様な物を見つけた時だけ連携するのかな。


「ライラ右前方おるで、ちゃんと警戒しいや」


「あ、ほんとだ。ごめんなさい」


 マーダースネイクが木からぶら下がっている。ライラが駆け寄ってフランベルジュで対戦。流石に一撃とはいかない様だな苦戦していると横から姐さんが支援攻撃を入れる。


 姐さんに気を取られたところでライラが止めを刺す。


 なるほど、なるほど。訓練の一環なんだな。へー、パーティーによっていろいろ違うんだ。マイヤ達はみんなでさっさと倒してしまう感じだけど、姐さん達は個々で戦いながら練習してる感じ。


「そう言えば姐さん達は冒険者レベルはどの位なの?」


「うちらか? うちとルルはCクラスや。アンとライラがこないだDになっとったな。ギルドランクはEのままやな。アンとライラもCクラスになったら卒業や」


 うわ。これはまた典型的な。マイヤ達と一緒だ。どうみてもC級じゃないでしょ。200年もやっててそのままってどういう感性してんだ。


「うそ~。マイヤ達とおんなじだよ。ギルドランク上げないからそれが足を引っ張ってるんだよ」


「そうなん? うちらメンバーが変わること多いからギルドランク上げてへんねん。うちとルル以外直ぐ変わるさかいEに戻ってまうんよ」


「だってマイヤ達、この間Bクラスになったよ。ギルドランクをC級だかにしたら一緒に上がったもん」


 これも姐さん達の弊害か。だからマイヤ達も気にしてなかったんだな。つまりこのままCクラスになると言う事は実際にはBクラス以上か。


「そうするとマイヤ達も卒業したのは最近なの?」


「ん~。そうでもないな。結構経ってるよ。あいつらサボってたのか?」


「いやいや、姐さん達もC級のままでしょ。ギルドランクが低いままだとC以上に成れないんじゃないかな」


「アンとライラはそのままの意味っぽいけど。俺よりはC級に近いと思う。試しにギルドランクを上げてみれば良いんだよ。ポーションの納入クエならいつでも受け付けてるから持って行って納品してみたら?」


「そうやな。ただ売るよりは納品クエでクリアした方がええな」


「でも納品クエだとCまでが限界だったと思うよ。マイヤ達がそうだから。午後にでも行ってみる? 転移で直ぐに連れてってあげるよ」


「さよか。ほな、頼めるか。・・・ルル」


「・・・うん。いる」


「アン、ライラ下がりや。サラやん守ったって」


「「はい」」


 何かいるみたいだけど全然分かんないや。あ~、嫌な予感当たっちゃったな。全員が緊張感に包まれる。一気に戦闘モードだ。キン。姐さんが何かを弾く。またキン。今度はルル姐さん。


「ねえ、アン、ライラ。見える?」


「・・・見えない」「・・・見えないです」


 不味いな。見えないってことは完全に足手まといだ。援護も出来ない。ハッと気づいたら姐さんが俺の前で刀を一閃した。キン。うっそ~~~。目の前でも見えない。俺がビックリ顔で見てると。


「困ったな~。サラやん見えてへんよ~」


「・・・しゃーないやろ。これ見えるの多分アンジュとリュディー位や。それも攻撃まででけへんと思う」


「マイヤとミヤはパワー型やからな~。どないしょ。うちらかて守りながらじゃよう攻撃でけへんよ」


「・・・ヤルルーシカ。自分物理防御障壁でうちら以外を覆えるやろ? 三人ともヤルルーシカの周りに集まって固まりや」


「で、でもまだ障壁が小さいから、身動きも取れませんよ」


「出来るだけ密着してじっとしとき。障壁抜けられても我慢するしかないで。早よしー」


 俺とアン、ライラは慌ててヤルルの周りに集まる。


「もっとくっ付いて。はみ出ちゃう。私に抱きつくくらい密着しないと覆えない」


 全員がヤルルに抱きつく。俺も抱きついたけど腰が引けちゃう。


「サラ! お尻が出ちゃってる。もっとくっついて!」


 南無三。やわらかいな~。良い匂いする~。ヤルルがアンとライラを両手で抱く様にして、俺は背後からヤルルに抱きついた。


「!!!」


 ヤルルは何も言わないけど気付いたろうな~。だから腰が引けてたんだけど今やヤルルのお尻にナイスフィット。生理現象だからしょうがない。


「じゃ、じゃあ障壁張るからね。は、はみでない様にして」


 ああ、ヤルルも耳まで赤くなってる。うっっ。動かないで。ヤルルがモジモジと動くんだ。気持ちは分かるけどナイスフィット中にそんなことされたら・・・。


 障壁の外ではギュイン、ガギンとか凄い何かが激突する音がしてるのに。


 姐さん達は守るものがなくなったので完全に攻撃モードに入った。もう姐さん達の姿すら見えなくなって音だけがする。これって瞬歩のスキル全開なのか?


「みんなは見えてるの?」


「かろうじて姐さん達は見える気がするくらい」「・・・私もです」


「私は黒い影と姐さん達は見えてるわよ。でもあっちこっちに凄い速さで動いてるから追っ駆けるので精一杯よ」


「うぅぅ。ごめん。ヤルル、モジモジ動かないで」


「で、でも。だ、だって。背中に息がかかって・・・」


 なんてヤルルが言いながら、さらに身をくねらせる。ああ~~、もう助けて。その時バリンと言う音が頭上から聞こえる。


 流石に全員がハッとして身を固くする。遊んでる場合じゃなかった。障壁の一部が突き破られた音だ。


 直ぐにヤルルが結界を張り直してるけど、こう何度も突撃を喰らってたら障壁だってそんなに保たない。その内障壁を破られて攻撃を受けてしまうかもしれない。


「姐さん、姐さん。もう保たないよ。まだ、まだなの」


「ちっ! 泣き言、言わへんの。こいつめっちゃ早いねん。根性で凌ぎや」


「・・・同意や」


 そんな~。根性で何とかなるのか。暫くガギンとかギュインとなってたけど、とうとうその時が来た。


 バリン、ドスッ。ぐはっ。やっぱり俺なのか! 背中にとてつもない衝撃を受けて息が詰まる。物理防御に加え鎧まで着てるのにこの衝撃。


「サラ! サラ! 攻撃受けたの!? 大丈夫! 返事して!」


「・・・だ、大丈夫。すっごい衝撃来た。息出来ない。でもまだ死んでない」


 やっとの思いでそう答える。思わずヤルルを掴んでいる手に力が入る。柔らかい。いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


 本当に死んじゃうかもしれないのに。でも柔らかい。お腹あたりかな~。普段出来る限り接触しない様にしてるからあんまり感じてないけど実際に触ると柔らかいな~。


 バリン、ドスッ。直撃した。今度は耐えられない全員まとめて横倒しに吹き飛ぶ。それでもヤルルに掴まったまま手を離さなかった。


 ヤルルもアンとライラを離さなかったのか全員まとめて吹き飛んだ。

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