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第三章第六話 きっついでこのリハビリ。

第三章第六話 きっついでこのリハビリ。



 全員が一塊りになって倒れ込む。咄嗟に三人を抱え込んで俺が下向きになるようにまでは出来た。


「ヤ、ヤルル。体起こさないで・・・障壁を張り・・・直して」


 俺の小さな体の上に三人が乗っかる形で倒れ込んだまま再度障壁が張られる。このままだと三人が攻撃を受けてしまう。


 何とか体を回転させ三人の上に乗っかる。息が出来ない。鈍器で殴られたような鈍い痛みが背中全体に走る。


「ね、姐さん。今、戦ってる魔獣は何て言うの? 相手も分からないままやられるのは嫌だよ」


「ハイスピードビートルの変異体や。マナを取り込み過ぎて逆に取り憑かれとる。えらい厄介や」


「・・・メル。はあ、はあ。そろそろうちも限界が近いよ。あんたが何とかしっ」


「・・・わーとる! くっそ! なんやねん。どいつもこいつもうちに押しつけよってからに。どないせいっちゅうじゃ。ブツブツ」


「・・・メル。うちが正面から激突するさかいその一瞬で斬るんや。チャンスは一回こっきりやで」


「待ちい。それならうちが激突するさかいあんたが斬りや」


「うちの体調じゃ斬れへん。空振るわ。あんたしかおらへんのや。うちと三人の子らの命預けたで、気張りや」


「ルル姐さん、吹き飛ぶならこっちに来て下さい。障壁に取り込みます」


「・・・ふふふ。頼むわ、サラやん」


 直後、物凄い激突音が鳴った。グゴガガゴン! 今まで見えなかったルル姐さんが、凄い勢いでこっちに飛んで来る。


 咄嗟にルル姐さんに抱きついたけどその勢いのまま3m位全員が引きずられる。ルル姐さんが飛んできた方向を見るとメル姐さんが20cm位の黒い塊を地面に縫い付けている。


 初めて目にしたそいつは、全身に黒い靄のような煙を纏わりつかせながら地面に縫い止められていない方の翅をビビビビビとなおも動かしている。カブトムシだ。


「まだや! トドメさせ!」


 咄嗟に俺の体が動いた。村雨を引き抜いて、ハイスピードビートルの頭を貫いた瞬間、自分の翅と体の一部を引きちぎりながら突っ込んでくる。


 翅が片方無いからか今までのようなスピードじゃないが俺には十分な早さだ。村雨が奴を貫いていくが、そのまま奴も俺に向かって突っ込んでくる。


 当然俺では回避できないし誰もこれには反応できなかった。奴の角が無防備な俺の胸に吸い込まれるように突きささる。


 その時、鎧に仕込まれていた魔法が発動する。敵の攻撃を受けた瞬間、防御力が増大し積層障壁を部分的に発生させる。


 その全てをぶち破り鎧をなお貫いて、ハイスピードビートルの角が俺の腹(・)に突きささる。


 完全に貫き通した角が俺の背中から突き出し血しぶきをそこら中一帯に撒き散らして奴と一緒に地面に落下した。


 鎧の魔法のお陰で急所から奴の角をずらしてくれていたのだ。即死してなければ助かるはずだ。誰かの悲鳴が木霊する中、そっと俺は意識を手放した。


 俺が意識を取り戻したのはそんなに時間が経ってからの事ではない様だ。まだハイスピードビートルの死骸が傍らに横たわったままみんなが俺を覗き込んでいる。


 またヤルルの聖光に包まれながら口にはエリクサーが咥えられていた。


「ふぅ~。何とかなったね。それにしてもこの鎧はお買い得だったよ。お陰で命拾いした」


 前世の記憶のゲーム的には、どんな致命傷を受けてもHPが1残る魔法の鎧みたいな感じかな。


 傍らに置かれている鎧は貫かれて大穴が空いているが、自己修復機能が働いているのか穴の部分がぼんやり光っている。


「なんや。焦ったわ。死んでまうかとおもたわ。ひやひやさせんといてよ」


 また俺だけ負傷か。小さく嘆息しながら起き上る。今回はエリクサーがあったから直ぐに復帰できるようだ。


「ヤルルありがとうね。もう大丈夫。それにしてもすごい魔獣だったね。姐さん達がいなかったら全滅してたよ。こいつならBクラスの冒険者でも全滅しててもおかしくないよね」


「そやな~。魔力に侵されてもおったし、マイヤ達のパーティーでも危なかったやろな。うちらかて装備が一新されてなかったら危なかったで。多分前の装備ではこいつの体貫けへんかったかもしれん」


「・・・ほら、ヤルルーシカも立ちなさい。そんなに心配しないの。ぎりぎりだったけど助かったんやから」


「だって、また守り切れなかった・・・」


「無傷とはいかないけど守りきったやないの。それで満足しとき。全員死んでてもおかしない相手や」


「うん」


 ぺたんと座りこんでいたヤルルも立ち上がる。空を見上げればもう夕闇が迫ってくる時間だ。必死だったから気付かなかったけど結構な時間立ち回っていたらしい。


 主に姐さん達が。俺達は障壁の外からタコ殴りになってただけ。止めだけは俺が刺したけど。


「はぁ~、疲れた。もう帰ろう」


 鎧とハイスピードビートルの亡骸を回収して全員ボロボロ汚れまくった姿で帰路につく。最終的に全員傷を負っていた。


 姐さん達はあちこち傷だらけだしアン達も吹き飛ばされてそこら中すりむいていた。ヤルルもずーっと障壁を張っていた上、最後に聖光まで発動したから魔力切れで癒せない。


 とぼとぼと拠点に帰り着いた俺達を迎えたのは満面の笑みを浮かべたマイヤとリュディーだった。


どうやらお風呂と寝室の改装工事をやりきって満足しているようだ。如何にも誉めて欲しそうな顔で迎えられたが俺達を見て驚いている。


「どうしたんだ! 姐さん達までボロボロじゃないか」


「・・・ああ、強敵に出くわしたんよ」


 疲れ果てていた俺達は、拠点前のキッチン兼屋外ダイニングがある庭に座り込んだ。リュディーが慌てて飲み物やら濡れたタオルやらを用意してくれる。直ぐに開墾組も帰還して来て、当然上半身裸だ。俺達を見つけて慌てだす。


 グリンダが全体回復魔法を使い、ようやく傷がいえた。


「えらい目に負うたわ。みんなも気い付けや。今回の相手はこいつや」


 マジックバッグから黒い塊を出してみせる。


「なんだ随分小さいのを相手にやられたんじゃな。これ一匹にやられたのか?」


「うーむ。なんかにわかに信じられん。こんなの相手にてこずったのか?」


 マイヤや姫たちが疑心暗鬼の中、絶句しているのはアイダ姫だけだ。


「これ! ハイスピードビートルであります。見えない影とか音速の暗殺者とか騎士団の中隊が全滅したとか聞いた事があります。初めて見ましたが良く生きて帰ってこれましたね」


「えぇ~。こいつそんな凄いやつなのぉ~? 小さくて弱そうよ?」


 リュディーがいかにもってな感じで疑問を口にする。


「こいつは早過ぎて見えないそうです。更に小さいものだからこちらの攻撃が当たらない上硬い。恐ろしく厄介な虫です。こいつの動きに着いて行けるのは瞬歩持ちだけ。俊敏持ち程度では黒い影が見える位です」


「うん。姐さん達以外誰も見えなかった。俺達は障壁の中で縮こまってるだけでも障壁ごとタコ殴りに合ってたんだよ。それなのにこいつ障壁までぶち破って攻撃加えて来るんだ」


「攻撃し返せるのは瞬歩と索敵のスキルを両方持ってないと出来ません。それも熟練していないとその甲殻に弾かれてしまいますし、姐さん達を除けば多分この中では私だけでしょう。アンジュとリュディーがかろうじて自分の身は守れるくらいですか」


「そやな。あとはお荷物抱えてじわじわ削られて全滅やな。ものごっつう早いからその攻撃力もケタ違いやし、他を守りながらだとうちらとアイダが居っても何人か死んどるやろ」


「どうやってお荷物抱えながら倒したんですか?」


「まあ、うちら以外は諦めたんよ。障壁張らせて動かんようにゆうて全力で倒しに掛ったんや。消耗してからじゃ、うちらかてよう斃さへんからな。うまくいけば一人二人くらいで済むやろ思ってたわ」


「・・・ところがこいつは魔力に侵されとってさらに強うなってた。最後は賭けに出て一瞬だけ動き止めたところで地面に縫い止めたんや」


「とどめはサラが刺したんやけど、翅やら体やら引きちぎりながら突進かまして来て、サラにブス~と突き刺さりよって相討ちに近い形で決着や」


 皆の視線が俺に突きささる。洋服とか大穴があいてるし、血塗れだしね。


「エリクサーがあったから、直ぐ回復したよ」


「これ一匹だけとはとても思えん。アンジュとリュディーは高速戦闘の訓練や。あとはスキルのレベル上げやな。それまではここを離れん方がええ」


「さて、しんみりするのはここまでだよ。獲った獲物を解体してみよう。きっとすごい核があるに決まってるからね」


 ハイスピードビートルから獲れた素材は甲殻、角、核。核は大きめなうえものすごく純度が高かった。


 完全な透明なんだ。核が透明なの初めて見た。核屋の値段表で一番上にある奴だよ。今まで気にしてなかったから値段は覚えてないけど。


 俺達を除いて夕食やらお風呂やらの準備はみんながしてくれた。俺達は姐さん達と一緒にお茶を飲みながのんびり休憩だ。


「とんだリハビリになってもうたな。サラやん予感してはったん?」


「う~ん。予感ってほどじゃないけど少しね」


「・・・はぁ~、ヤルルを付けてくれてありがとな。トドメも刺してもろうて。助かったわ。うちらだけじゃこいつら守りきれへんかったとおもうわ」


「「ありがとう」」


「え、いやいや。足手まといなのは俺も一緒だよ」


「最後はよう動けたな。あれもなかったら一人二人は道連れにされとったで。スキルもよう生えんのに大したもんやで」


 しみじみ回想に耽っているとミヤの声が響いた。


「ごはんだよ~」


 重い腰を上げてダイニングに向かう。肉を中心に大盛りだ。血を失ったからだな。ガツガツとたくさん食べて、一息入れる。


 マイヤが俺を小脇に抱えて風呂場に向かう。みんなも改装が済んだ風呂場を一目見ようとぞろぞろと付いて来る。


「じゃーん。湯船を二つにしてそれを繋いでみました~」


 リュディーが自慢げにお披露目する。一段高くなった所にやや小ぶりの湯船がたされ、その上に増し湯用の湯船がある。


 段々と下に行くほど温くなる感じだろうか。増し湯用の湯船からチロチロと湯が流れてきており前世の記憶にある温泉にかなり近い。


「上の方は熱いからね。熱いのが良い人は上、温めが良い人は下に入ってね」


 服を剥ぎ取られながら湯船を眺めているとペタペタと体中を探られている。傷がないか確かめているのだろう。


 傷がない事が分かるとまた小脇に抱えて風呂場に入っていく。俺を膝の上にのせたマイヤが頭を洗いだすと腕やら足やらもアンと、ライラが洗いだす。正面はアンジュだ。


 じーっと眺めてからおもむろにむぎゅと握ってから洗いだす。


「わ! そ、そこは自分でやるから。触らないで」


「じっとしてなさい。綺麗にして上げるから。も、問題ないです。元気です」


 前面を洗い終わると脇に手が射しこまれて、抱きつくような感じにアイダの膝の上に移される。


 後ろ向きになった途端に今度はヤルルが背中や肩を洗いミヤがお尻から前に大きくスライドさせながらお尻も前も洗う。アイダも俺と自分の間に手を突っ込んでもぞもぞとまた洗って来る。


「ちょ、ちょっと。今日は、な、なに? ま、待って」


 最近はここまで構われる事はなくなっていたので油断した。洗い終わった俺に姫さん達がお湯をかけて泡を流す。


 先に洗い終わった姐さん達が俺を挟み込むようにして湯船に連れて行く。二人にサンドイッチされたまま湯船に浸からされる。


「な、姐さん、う、動けないよ」


「ん? 今日は名誉の負傷やから特別や。あんじょうまかせとき」


「・・・そやよ」


 二人に前と後ろからサンドされたまま、湯船に浸かっていると続々と体やら髪やらを洗い終わったみんなが来る。


 今、俺が入っているのは熱い湯の方だ。俺が熱い湯の方が好きなのを知っているらしい。でもエルフ達は温い湯の方が好きな筈。


 ちょっとしたらもう降参なのか交代して行く。一巡したところで湯船から上がって涼む。バスチェアーまで完備されてる。


 それも大きめだ。下に二人が寝そべってその上に俺が置かれる様に出来てる。不味いこのままではなすがままになってしまう。


 流されてはいけないな。そうだ。大解放でもしよう。わぉーん。両側にアンジュとミヤが並んで腰に手を当てながら夜空の双子月に向かって吠える。


 あは。大声で吠えるのは気持ちが良い。火照った体を夜の風が撫でて行く。ここは大森林、獣と魔獣の巣窟。人が入る事のかなわぬ人外の魔境。とはとても思えない穏やかさだ。


 風呂場の片隅には冷水を湛えたカメが設置されて、いつでも飲めるようになっている。レモングラスの汁をしぼったのかほんのり香る柑橘類の香りがさわやかだ。


 かー、もう一っ風呂行くか。今度は自由に湯船に浸かる。なんだか前世の記憶にあるスパとかスーパー温泉みたいだ。


 最後に水を浴びて、風呂場を後にする。

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