第二章第二十一話 姫様参戦④
第二章第二十一話 姫様参戦④
当初の目論見とは逆に狭撃を受ける形になってしまった俺達は、かなりの苦戦を強いられることになった。Aランク冒険者のアイダ姫の剣技に期待していたので、その目論見が大いに外れた形だ。
ここで思うのはヤルルーシカなりグリンダ公女なりがホーリーウェポンをかければ簡単なんじゃないかと思うだろうが、事前に用意していたならばまだしも戦闘が開始されてしまった今、動き続ける姫様にホーリーウェポンの呪文が掛けられないのだ。
ゴーストの標的にされてしまったアイダ姫様は回避する以外に決め手がなく、休憩中だった他のメンバーも物理攻撃が可能なスケルトンの相手で手いっぱいだ。
物理攻撃が可能とは言ってもスケルトンなどのアンデッドは一撃で切り捨ててお終いにはならない。直ぐに復活してしまうためだ。
ダンジョンの暗がりからヒタヒタとゾンビどももやってくるのが見える。最初の魔物の殲滅に手間取っている間に第二陣が姿を現してきた。
「まずい!! 後ろが混乱してる。マイヤ、ミヤ。スイッチ!! くっ。ごめん、こ、このっ」
焦った俺がスイッチのタイミングを失敗し、軍隊アリに攻め込まれる。それでも何回かの攻防の後、なんとか後衛をしていたマイヤ達と入れ替わる。
太腿に咬み付かれ出血しているが、多少の負傷はしょうがない。グリンダ公女も法衣の裾を噛み裂かれたがそちらはどうやら無傷でスィッチ出来たようだ。
「グリンダ公女! アイダ姫様にホーリーウェポンを!」
「無理ですよぉ~。あんなに動かれては魔法付与のために触れませんよぉ~。それに数が多すぎて近づいたら私が先にやられてしまいますぅ~」
アイダ姫様にまとわりついているゴーストは一体だけじゃなかったのだ。都合3体。良くかわし切れるものだ。さすがに呪文を唱える余裕はないようだけど。
前後左右から気配も音もなく突撃をかましてくるゴースト達をすんでのところでかわし続けている。
「ならば、ご自分の錫杖と俺の刀にかけて下さい。まずはヤルルーシカを支援します」
「はいな~」
気が抜ける返事を返してくるが、その呪文は素早い。伊達に聖女と呼ばれてはいない早さだ。俺の刀にホーリーウェポンの呪文がかかるや否やヤルルーシカを襲っているスケルトン目掛けて突進する。
スケルトンを撃退しながらホーリーウェポンの呪文を唱えようとしているヤルルーシカだが、周辺を飛び回る吸血大コウモリの襲撃に呪文の中断を余儀なくされている。
グリンダ公女は自分の錫杖にホーリーウェポンの呪文をかけ、アイダ姫様を救援するかと思いきやリュディー、アンジュとティア殿下の救援に向かった。
ゴーストが飛び回るアイダ姫様の戦闘に割り込むのは無理と見て他の仲間の救援を優先したようだ。
「ヤルルーシカ! スケルトンは引き受ける。早くホーリーウェポンの呪文をかけて」
「分かっています! 私からコイツ等を引き離して下さい」
俺が参戦したことでヤルルーシカに余裕が生まれる。ほどなくしてヤルルーシカの獲物であるメイスに聖なる輝きがともる。
俺が相手をしているスケルトンの横合いからメイスの一撃が放たれスケルトンを粉砕する。
「ヤルルーシカ、ここはお願いします。アイダ姫とスイッチしてきますからそしたらアイダ姫にもホーリーウェポンをお願いします。それで体勢を立て直そう」
「了解よ。前衛陣はグリンダ姫様が順次付与してくれるはずだからここを凌げば何とかなるわね。行って!」
行きがけの駄賃にスケルトンを切りつけて無力化してからアイダ姫の救援に行く。ヤルルーシカを信じて後ろは振り向かない。
アイダ姫とゴーストの戦闘に割り込む。ちょうど目の前に居たゴーストを一刀の元に切り捨てる。残り二匹。
「アイダ姫! ここは引き受けます。一旦下がってヤルルーシカにホーリーウェポンをかけて貰って下さい」
「ふぅ~。助かりました。どうにもならなかった所であります。直ぐに戻りますのでしばしお待ちを」
アイダ姫がバックステップで戦線を離脱しつつも、物理攻撃が有効なバット系やらスケルトンを薙ぎ払いながらヤルルーシカに近づいていくのを見届け、ゴースト2体を相手に立ち回りを始める。
アイダ姫と違ってこちとら素人に毛が生えた程度だから2体でも回避するのがいっぱいいっぱいだ。
回避しながらゴーストに切りつけようとするんだけど浮遊しているゴーストはなかなか当て難い。何回か掠りはするけど決定的な一撃を叩き込めない。
逆にこちらが一撃を貰ってしまいそうになる始末だ。クッソ! ふらふらと不規則な動きをしやがって、これじゃ先読みも出来ない。
さてどうするか? アイダ姫が戻ってくるまで粘るかそれとも思い切って撃って出るか。ふらふらっと俺の前に一匹のゴーストが近寄ってきた。
チャンス! 思い切って撃って出た。俺が刀を肩に担ぎあげるようにしながら一撃を見舞おうとした瞬間スーッと上に逃れる。
俺の太刀は空振りに終わった。その時もう一匹のゴーストが真横から突進して来る。しまった! 誘い込まれた! こいつら知恵があるのか!? 攻撃直後で回避が出来ない! やられる!
ザシュッと音が聞こえそうなほどの斬撃が今少しで俺に襲いかかるところだったゴーストを切り払った。
「婿殿。そんなに簡単に誘い込まれるようでは困ります。焦りは禁物でありますよ」
返す刀でもう一体のゴーストも仕留めたアイダ姫がため息交じりに注意して来る。
「助かりました。まさか知恵があるとは思わなくって」
「知恵ではありませんよ。本能みたいなものです。さあ、こちらはもう立て直しましたので軍隊アリの方を支援しないとあちらも切羽詰まって来てます」
アンジュ達はもうホーリーウェポンをかけて貰って追加で来たゾンビたちを殲滅しだしている。振り返るとマイヤとミヤが二人で兵隊アリを相手に奮戦している。
流石の二人でも数が多すぎるのか肩で息をし始めている。ダンジョンの方は間もなく殲滅が終わるとみてグリンダ姫に声をかけながら軍隊アリの前線に戻る。
「グリンダ姫! マイヤとミヤが限界です。前線に戻りますよ。後衛組は殲滅後10分間休憩してから交代して下さい」
取って返して前線に戻ると同時にスイッチと声をかけミヤ、マイヤ達と入れ替わる。戻る間に唱えておいたファイヤーボールを打ち込む。
そのかず数十発だ。押し寄せてくる兵隊アリを焼き払いながら前線に躍り出る。
「ふぃ~。やっと戻ってきた~。流石の僕ももうだめかと思ったよ~」
「ごめん。ごめん。ちょっと休んでから援護して。グリンダ姫、大丈夫ですか? まだ保ちますか?」
「はいは~い。もう少し大丈夫ですよぉ~。危なかったですねぇ~。まさかアイダが役立たずとは思いませんでしたねぇ~」
「ははは、仕方ありませんよ。物理攻撃が効かないんですから。さて、ちょっと余裕がありませんので魔法全開でいきますね」
そう言いながら太刀を鞘に納めて、ダンジョンの入り口にウインドカッターの乱舞を展開し、軍隊アリの後続を切り刻む。
そのままウインドカッターを維持しながら後続の乱入を阻止する。既に遺跡に入りこんでいた数匹はグリンダ姫が錫杖と神聖魔法で殲滅してくれた。
後衛は既に殲滅し終わって、交代までの時間、瞑想に入って待機している。消費したMPの回復を早めるための手法の一つだ。
ダンジョン内の敵を一掃したので展開していた魔法を終息させる。流石にかなりのMPを消費してしまっている。
俺も大分息が上がってしまっているがしょうがない。再び太刀を引き抜いて次の軍隊アリに備える。
ミヤとマイヤの息が整って、援護を入れてくれるようになった。これで最初と同じように余裕を持って軍隊アリに対処できる体制が整う。
暫くして最初の近衛アリが兵隊アリを引き連れて姿を見せ始める。ここでマイヤからスイッチの声がかかる。正面の兵隊アリを弾き飛ばしてスルスルッと後退する。
グリンダ姫様は錫杖でカチ上げを入れてから後退して来た。ミヤがハルバードで突き殺して近衛アリと対峙する。
「はぁ~、やりますねグリンダ姫様。さっきは弾いていたと思うんですけど今回はカチ上げですか」
「ふふふ~。状況判断がぁ~甘いですよぉ~。さっきは後続も団子状態でしたからぁ~弾き飛ばしてぶつける様にして後続の進行を遅らせたのですよぉ~。今回は後続との間に隙間があり、その上近衛アリと言う大物がいましたから兵隊アリを処理し易い様にカチ上げたんですよぉ~」
「なるほど。まだまだ経験が足りていませんで。最初にそのまま下がっちゃったんで、真似してみたんですが状況が違うからまた違う対処が必要でしたか。はぁ~。今だに素人から脱却できずですか」
「ふふ、ちょっとづつですよぉ。これで少し成長しましたから次は同じことを真似るんじゃ無く考えてから行動出来ます。そうしてる内にスキルが生えて一人前になってきます。正直言うとですね。結構成長が早いと思ってます。普通はまだEランク位にしかならないはずなんですよ。パワーレベリングしてる訳でも無茶をしている訳でもないのにDランクですよね? それってかなり成長早いですよ」
「そうですかね? 無茶と言うより勝手に巻き込まれて強敵と対峙しちゃってますけどね」
「そこ!! 集中しなさい。サラ魔法で援護する! グリンダ姫は兵隊アリを牽制しなさい!」
スイッチしたことで安心してしまい話しこんじゃってる俺達にマイヤから檄が飛んだ。ごめんと謝ってから直ぐに魔法構築に入る。
グリンダ姫様も近衛アリと対峙しているミヤの援護をすべくその周りに居る兵隊アリを牽制しだす。
近衛アリが前足を持ち上げミヤへを牽制した瞬間にポイント弾を腹に打ち込む。ドゥンと音がして近衛アリが前方に倒れ込む。
すかさずミヤがハルバードで首を切り落としてしまった。石附を近衛アリの死骸に打ち込んでダンジョンの外に弾き飛ばす。
「さあ、そろそろ交代で良いであろ。近衛アリが出て来たならあと少しじゃ」
近衛アリが引きつれてきていた兵隊アリを処理してからマイヤ、ミヤ、グリンダ姫と俺が今まで休んでいたアンジュ、ジュディー、ティア殿下と交代した。
アイダ姫はホーリーウェポンの掛った武器でそのままダンジョンから出てくるアンデッドを処理し続けている。
「ふぃ~。危ない場面もありましたが何とかなりそうだね。アイダ姫、大丈夫ですか? 疲れてませんか?」
「はい! 私はこの程度の敵ならなんら問題ありません。肩慣らしにもなっていないので心配無用です」
ダンジョンから湧いて出てくるアンデッドを、一撃で次々と処理しているアイダ姫は剣舞を舞っているかのようにクルリクルリと踊っている。
既に十数体のアンデッドを処理しているにもかかわらず一切危なげがない。Aランク冒険者、いや戦闘メイド隊の力を見せつけられている感じがする。
「それにしてもアイダ姫様は凄いね。結構な数のアンデッドとやりあってると思うんだけど」
「そりゃそうだよ。戦闘メイド隊ってそう簡単に成れないんだよ。多分小隊長とか中隊長とか下手したら大隊長クラスじゃないかな」
「自分は小隊長を拝命しております。先日昇格の話もありましたが、もう嫁ぎ先が決まってしまったので辞退しました。副長にとの話でしたね。でもみなさんも戦闘メイド隊にスカウトしたい位の腕前ですよ。ただし礼儀作法が出来たらですけどね」
「うへぇ~、そりゃ無理だな。私達は礼儀作法とは無縁で生きて来たから、ヤルルーシカなら行けるかな? ミヤお前はどうだ?」
「いやいやいや、僕は無理だよ。礼儀作法なんて習った事もないよ」
「うふふぅ~。で・も、直ぐに習うことになりますよぉ~。サラの側室になるならですねぇ~。女の戦いもしなければなりませんからねぇ~。パーティーやお茶会、各種宴席に社交界。刀振り回してるだけじゃ勝てない敵も居ますからねぇ~。黒薔薇夫人は怖いですよぉ~」
うわぁ~。社交界って魑魅魍魎の巣窟じゃないか。くわばらくわばら。絶対近づきたくない所だな。男爵の側室くらいならそんなに出席する事もないだろうからきっと大丈夫だな。
「サラ~、ノンキなこと考えてますねぇ~。皇族を三人も娶るんですからそんな訳ないじゃないですかぁ~。絶対に伯爵以上になりますよぉ~。私の見立てでは系譜が途絶えたどこかの公爵家を継ぐことになると思いますねぇ~。直ぐ直ぐと言う訳じゃありませんがぁ~」
「えっ! うそ! せいぜい子爵どまりじゃないんですか!」
「ふ・ふ・ふ。皇族なめてます? 義父様はきっと改易になって帝都近傍で侯爵位です。サラは、旧シュナイダー領と男爵家とか子爵家の領地も合わせて公爵領とするか辺境伯領が最終的な位だと思いますよ。なぜって? ティア様も私もアイダも子爵位持ってる上に領地もありますよ? まあ実質はお父様が管理してますけど、領主には違いありません。領地からの上がりもちゃんと私の資産になってますから」
・・・うっそ! 姫様達って俺より爵位上なんだ。知らんかった。
「ですから、私達の領地も含めてサラが管理することになりますし、マイヤ達にも領地を分けてあげたりして男爵くらいにはしてあげないといけませんよぉ~。サラが死んじゃっても最悪未亡人の女男爵として生きて行けるんですね。社交界には多いですよ? 女男爵」
「あれ~? 貴族ってそんなことになってるんですか?」
「高位貴族ですね。伯爵以上でしょうけど。自領を細かく分けて奥さんや子供にも分けておくんです。子供が結婚するときは持たせても良いですし自領に戻して持参金を持たせても良いです。逆にお嫁さんを貰ったりすると領地をもってきたり、持参金を持ってきたりしますからトントンですけどね。高位貴族との結婚は儲かりますよぉ~。だから他の貴族たちは家格を気にするんですねぇ~。損しちゃうじゃないですかぁ~。と言うことで皇族が降嫁するときは最低でも子爵領位は持ってきますからね。こぞって他の貴族達は迎えるんですよ。大抵はひと貴族に一人くらいなんですがサラは3人ですからねぇ~」
「え~と。子爵領3つ分ってことですか? それ持って降嫁して来るんですか?」
「ふ・ふ・ふ。今は子爵です。ただの皇族の子供の一人ですから。降嫁するときにどのくらいまで上がるかは分かりません。でもどうしても取り込みたい時ってどうすると思います?」
「え、あ、いや。陛下も公爵殿下も侯爵さまもそんなに無茶はなさらないのではないですか。き、きっとそうですよ」
「ふふふ、教会の事も覚えてます? ティア殿下のところは天領って言って帝国の半分位有るらしいですよ? アイダのところはどうかな? 軍部は動くかなぁ~?」
「こ、怖いこと言わないで! 村くらいしか管理したことないんですから。ここに村を作ったらマイア達を領主にして管理しようかと思ってましたけどそれどころじゃないってことですか。どうしよう」
「な、サラ! そんなこと考えていたのか!? 私は領主とか嫌だぞ。ちゃんと義母様みたいに奥さんするからな!」
「え、え! でも従士ってだけでも村の管理はあるんだよ?」
「うそ~! 奥さんするだけじゃないの? 僕しらないよ~」
マイヤとミヤの悲痛な叫びがこだました。




