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第二章第二十話 姫様参戦③

第二章第二十話 姫様参戦③



 南側に誘導すべく、移動を開始する。軍隊アリのざわめきが大きくなってきている中ひたすら南を目指す。


 既に我々は軍隊アリのターゲットとしてロックオンされている様で背後からカサカサとひっきりなしに追跡を受けている。


「あまり気持ちの良い物ではないのじゃ。いつ襲いかかられるか気になってしょうがないのじゃ」


 剣の姫でも背後から迫られるカサカサと言う音は心理的に嫌な様でひっきりなしに背後を確認している。ひと際大きく藪が鳴った。


 ガサッ! 一斉に皆が振り返り身構える。一気に臨戦態勢に入って迎撃をするために。


「待って。待って。あたし、あたしだよ。リュディーだよ~。ひどいよ~。死ぬかと思ったよ」


 偵察を行っていた、リュディーが戻ってきたのだ。間もなくアイダ姫も戻ってきた。敵全体の把握が完了したのだ。


 全体はどうだったのだろう。予断を許さぬ状況で敵の数があまりにも多いことは逃げる隙も与えてもらえないかもしれない。


「どうだ?」


 俺達は足を止めないまま確認する。


「え~とね。普通のは30~40位、兵隊アリは50、近衛は20、女王が2体居るよ。翅アリが見当たらないんだ」


「はいっ! 私も同じく確認しました。翅アリは北に向かった模様です。およそ30です。こちらを追跡して来ているのは働きアリ20程です。残りはそのまま世界樹方面に向かってます」


「チッ! 面倒だな。群体二つが別れたのか。数はそれほどでもないのが救いか。ふむ。しょうがない。反転して追跡して来ている20を殲滅、そのまま本体に襲撃をかけてこちらに呼び込もう」


 南部方面に逃走していた俺達は、一旦停止して軍隊アリを待ち受ける。来た! カサカサと大森林の藪をかき分け、姿を現した。


 どうやって追跡しているのか分からないが、触覚を小刻みに、時には大きく揺らしながら、こちらめがけて着実に迫ってくる。


 確かに働きアリだ。体長が小さい上にハサミのような口が小さい。ほぼ一列になりながら進んで来る。およそこちらの2倍の数だ。一人2体が目安だ。意外と動きは鈍いようだ。


 先頭の働きアリがその複眼で俺達を捉える。急にその速度が増す。それまでは探索しながら進んでいたのが目標を発見して一気に戦闘モードに移行したようだ。


「マイヤ! ミヤ! アンジュ! アイダ姫! 迂回して敵横腹を突いてくれ。敵を分断する。後方は任せた。ティア殿下! グリンダ公女! ヤルルーシカ! リュディー! 左右に展開して横から素早く処理してくれ。正面は俺が受け持つ。特大の魔法を真っすぐ打ち込むからそれが戦闘の合図だ」


 自分とモンスターたちが一直線になる様な位置取りをして、魔法を構築していく。形状はガトリングガンの弾をイメージ。とにかく貫通する様に先端を硬くとがらせる。


 速度は俺のイメージできる最速。ハイパーソニックを思い浮かべる。スーパーソニックのさらに上、マッハ5以上だ。


 いやいや、待て待て。それはやり過ぎかもしれない。弾体が保たなくて発射と同時に分解してしまうかもしれない。


 ええい。どうしよう。亜音速で良いや。ソニックブームが発生しない位。3,2,1発射。ズドォンって音がして前方で働きアリの背中が次々に裂けて行く。


 狙いは働きアリの頭スレスレくらいにしたんだ。直接硬い甲殻に当てるとどこまで貫通できるか分からなかったからだ。当たってもやや柔らかい腹部だけが良いと思ったんだ。うん。うまくいった。


 この一撃で戦闘不能までは追い込めなかったけど、当たらなかったアリはひっくり返って、運良く持ち上げた腹部に当たったアリは内臓を撒き散らしてのたうつことになった。


 直接当たらなかったから、かなり遠くまで貫通出来たと思う。


「ゴー! 殲滅して」


 掛け声と同時に、俺も前方に向かって走り出す。先頭の一体は運悪くどこにも当たらなかった。それでもひっくり返っているうちに止めを刺しておきたい。


 一気に間合いを詰めて、もがいているアリの首を切り飛ばす。3匹まで切り飛ばせた。


 そこで戦闘終了だ。全員が戦闘不能状態になったアリたちを難なく粉砕していたのだ。素早く素材と核を回収して、次の目標へと移動を開始する。


 暫く前進すると居た! 軍隊アリの群れだ。後方にやや大きめの群れの塊が二つある。あれが女王アリと近衛アリだろう。


 その周囲を兵隊アリが囲っており、進行方向に働きアリが密集して進軍している。さてどうしたものか。出来れば女王アリを仕留めたいが、ここでの戦闘も避けたい。


 世界樹に近過ぎる上に南に行けば農園もある。敵戦力もそぎ落としておきたい。こっちは9人しかいないんだから。しょうがない。


 どのくらい効くか分からないけど全員で敵全体に頭上から魔法攻撃を加えて退避だ。翅アリが居ないのはラッキーだ。


「全員聞いて。数が多いから全員で頭上から広範囲に石弾の雨を降らせるよ。女王付近は俺とリュディーが受け持つ。働きアリは、グリンダ公女一人でお願い。残りは兵隊アリに攻撃して」


 リュディーがどっちの女王アリを攻撃するかの確認をして来る。


「わかった。サラはどっち狙う? 手前側の女王アリがあたしで良い? ん。了解」


 全員が魔法構築に入った瞬間。ギギェー見たいな鳴き声が響き渡った。女王アリの一匹が俺らの存在に気づいて鳴き声を上げた。


 敵が全員こちらを向く。不味い。気付かれるのが早過ぎる。魔法構築が間にあわない。ぎりぎりまで粘って発射ー!


ズッダダダダダーーーーー。石弾の雨が敵全体を覆う。それなりの傷を負わせたと思うが、威力・数とも足りなかった様だ。斃せたアリは一匹もいなかった。


 悪いことに遠くから翅音まで聞こえてくる。完全に俺達を敵認定して、こちらに向かってこようと体の向きを変えた。とりあえずの目的は、達成した。アリたちの目を俺達に向けるのには成功した。


「全員全力で退避ー!」


 俺達は一丸となって南に向かって逃げ出した。リュディーがぎりぎりまでその場にとどまり女王アリの動向を探ってくれた。


「うまくいったよ。女王アリも近衛を引き連れて追って来てる。凄い怖い。」


 何の感情も見せずに機械の様に一斉にこちらに向かってカサカサ、カサカサと追撃して来るのだから怖い事この上ない。スピードも俺達とそんなに変わらない。


 俺のせいだけどね。俊敏も瞬歩もない俺だと肉体の速度そのままだから、起伏に富んだ大森林の中を移動するのは困難を極めるのだ。


 卵型の様に密集していた軍隊アリがその陣形を崩して一気に俺達を覆い隠さんとしている様に覆い被さってくる。30分ばかり逃げ続けたが、一向に引き離せない。


 相手は目と鼻の先、いつ尻をかじられてもおかしくない距離にまで迫ってきている。そろそろ俺が限界だ。全力疾走30分きつい。スピードを落としたいけど、その途端追いつかれる。


 しまった! 木の根に足を取られた。思わず転びそうになる。転んだらもう立ち上がれないかもしれない。そこにさっとアンジュが瞬歩で近寄ってきて、さらうように俺を抱える。


「ア、アンジュ! はあ、はあ。ご、ごめん。もう限界だった。はあ、はあ」


「問題ないですよ。見ていましたから。マイヤ! 速度を上げなさい! サラは確保した。リュディー、アイダ姫二人は瞬歩持ってますね? 交代しながらサラを運んで行きますよ。集まって」


 速度を俊敏持ちの限界まで引き上げ、一気に引き離しにかかる。そこに先頭を走るミヤから悲痛な叫び声が上がる。


「ああ~~~。前方に敵ー。妖魔の群れだ」


「東に進路を修正。はあ、はあ。妖魔の群れを掠めて更に南下して。はあ、はあ。」


 妖魔の群れ―ゴブリンだったらしい―は軍隊アリの一団に飲み込まれて消滅した。やっぱりゴブリン程度じゃ足止めにもならなかった。


 東にややズレたが南下は続いている。やっと世界樹の圏内付近から離れ農園部も越えて完全な未開地に突入する。


「ここから先は何が居るか分からない。はあ、はあ。気をつけて周りの変化を見逃さない様にして。はあ、はあ」


 どんどん、どんどんと南下して行く。まだ軍隊アリは付いて来ているので止まる訳にはいかない。


 スピードを上げた事と多少でもゴブリンの群れと遭遇した事でその距離は目と鼻の先から30m位は引き離している。さらに逃げ続けること10分、俊敏持ちもそろそろきつくなってきている。


 軍隊アリとの距離も50mまで開いた。そろそろ転移するべきか。俺が迷いだしたとき先頭を走るミヤから声が上がった。


「なんかある。ダンジョンだよ。ダンジョン発見~。このままだと軍隊アリがダンジョンに入っちゃうかもしれない。それよりうちらが目障りなら追いかけてくるけどさ」


「このダンジョンがどのくらいのレベルか分からない以上、ここに入れるのは得策じゃない。このままダンジョンを巣にされちゃったら討伐が面倒になるだけだ」


 さてさて困っちゃったな。世界樹とは結構目と鼻の先なんだよな。かと言って軍隊アリたちを殲滅も出来ない。


 んん? ダンジョンの入り口は狭いな。ここに陣取って入ってくる奴を限定しながら殲滅は出来ないだろうか。


「ダンジョン入口に陣取って軍隊アリの殲滅は出来ないかな? どう思う?」


「背後からなにが現れるか分からないけどそこはアイダ姫に守ってもらう。そうそうAランク冒険者の手に負えない敵が一層からは出てこないだろう。だから4人交代で休憩を挟みながらならいけるんじゃないか」


「OK。ならマイヤの案でいこう。アイダ姫を先頭に突入。すぐに入口に展開。最初はマイヤ、ミヤ、グリンダ公女、俺でいこう」


「あいよ」「は~い」「疲れましたぁ~」


 それぞれ返事が上がる。直ぐにアイダ姫が突入する。ダンジョンの入り口付近はやや広くなっておりその先に下へと続く階段がある。


 アイダ姫が真っ先に階段の入り口に陣取って背後からの敵に備える。マイヤ、ミヤがダンジョンの入り口に陣取ってその後ろに俺とグリンダ公女が位置取る。


 グリンダ公女が回復&防御、俺が攻撃、マイヤとミヤが壁の役割だ。交代要員が、アンジュ、ティア殿下、リュディー、ヤルルーシカだ。今は休んでもらっている。


 ダンジョンに陣取って直ぐに追跡して来ていた軍隊アリの先頭がマイヤ達と激突した。はは、これが鎧袖一触ってやつか。


 軍隊アリ単体はそんなに強くはない。数で恐れを知らずに攻撃して来るから脅威なだけだ。


 次々と襲いかかってくるがまだ本隊が来ている訳じゃないので、多くても2~3体だ。マイヤとミヤで粉砕している。俺とグリンダ公女はまだ出番なしだ。


「グリンダ公女、俺らも少し肩慣らしして置きませんか? 序盤でしておかないとマイヤ達が苦しくなってからでは危ないと思います」


「そうですねぇ~。よろしいですわぁ~。わたくしの錫杖捌きもぉ~ご覧に入れましょう」


 意見がまとまった所で、前衛に『スイッチ』と声をかける。マイヤとミヤも心得たもので、最後の攻撃で軍隊アリを大きく弾く。


 そのままスルスルッと後退して来るので俺とグリンダ公女が思いっきり前に踏み込みながらとどめの一撃を放つ。


 グリンダ公女は言うだけあって、素晴らしい錫杖捌きを見せた。下から掬い上げる様にして軍隊アリの頭を強打してのけ、止めを刺すと同時に自分の前から吹き飛ばす。


 俺はと言うとその場で首を撥ねてしまったので再度胴体を蹴り飛ばさねばならなかった。俺は続く他の軍隊アリも軽くいなして首を切り飛ばしたり前足を切り飛ばしてから止めを刺したりしている。


 グリンダ公女は基本錫杖なので打撃武器と同様の攻撃方法に錫杖の先端で突きを放つ杖術を駆使している。


 俺は武器が刀なので体捌きで敵をいなすかかわして一撃を入れるのが基本スタイルなので動きが激しい。一方杖術を駆使するグリンダ公女も似たような感じだ。


 4~5匹ほど相手にした所で一回り大きい兵隊アリが登場した。働きアリをワンランクからツーランク強くした感じだ。外殻は強度を増して、牙は一回り以上大きい。


 さすがにまだ刃を弾かれることはないが、関節の方が斬りやすい。動き的には働きアリと大して変わらないが攻撃主体になっている。


「グリンダ公女。まだ行けそうですか?」


「全然問題ありませんわぁ~。あふぅ~。あなたこそ大丈夫ですのぉ~? 無理はなさらないで下さいねぇ~」


「ああ、俺もまだ大丈夫だ。後ろからマイヤとミヤが突きを入れてくれてるから楽だな」


 ダンジョンの入り口に陣取った俺達はまだまだ余裕があった。それもダンジョンからの魔物の襲撃があるまでだった。


「ちっー! こちらも来ます。アンデッドを含んだ魔物が数体接近してきます。ターンアンテッドの準備お願いします!」


 アイダ姫様の警鐘が響く。残念なことにダンジョンから襲いかかってくる魔物は、ゴーストやスケルトンなどのアンデッドモンスターだったのだ。


 スケルトンなどの物理攻撃が可能なアンデッドはまだいいがゴーストなどは剣では切ることが出来ない。


 唯一効果があるのが癒しを含む聖属性の魔法にあるターンアンデッドとホーリーウェポンだ。他の魔法剣地、水、火、風の四元素の魔法付与でも効果はあるがその効き目に天地の差がある。


 ホーリーウェポンなら一撃で消滅させられるが、他の魔法剣では数撃~十数撃も必要になる。それでも倒せるから何もしないよりはましだ。


 暗いダンジョンの通路の先からカタカタと顎の骨を鳴らしながらゆっくりっと近づいて来る。


 その隙間から一気にゴーストがアイダ姫めがけて突っ込んで来た。いよいよダンジョン側も接敵したようだ。

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