第二章第十九話 姫様参戦②
第二章第十九話 姫様参戦②
魔法を行使したまま移動じゃと!?
そのようなこと試した事が無いのじゃ。魔法を使いながらも多少は体を動かす事は誰でもするが、その場を離れるとか激しく動くのは集中を大きく阻害するのじゃ。
避けるべきことのはず。ええい。悩んでも仕方ないじゃろ。やってだめならその時に考えるのじゃ。
「では、全員で移動する。尚、慣れないうちはゴーレムが崩れるので直ぐに再構築すること。その繰り返しでいずれ出来るようになる。行くぞ」
◇ ◇ ◇
直ぐに移動が開始されましたわぁ~。あ、ゴーレム崩れちゃったぁ~。再構築してぇ~。ああ駄目ぇ~。どんどん壊れてくぅ~。どうしましょうぉ~。
聖女とまで言われてるのにゴーレムの維持も出来ないなんてぇ~。チラッ。ふふふ。ティア様も出来ないわぁ~。安心安心。
あれれぇ~!? なんでマイヤ達のは出来てるの! えぇ~。あんな数のゴーレムを操ってたの!
◇ ◇ ◇
私はどちらかと言うと魔法の方が苦手で有ります。しかしAクラス冒険者としてここはやって見せねばならないでしょう。くっ! キツイですね。
しかしまだまだ嘴の黄色い小娘どもには負けません。魔法に集中しつつ体は惰性に任せます。そう、そうです。そのまま・・・ここまででしたか。
さすがに拠点までは持ちませんでしたか。なら再構築して再度送り出すまでであります。
◇ ◇ ◇
「サラ、収穫が済みましたので持ってきました。そちらはどうですか」
「ああ、アンジュ。こっちも何往復かしたよ。父様のところで数は数えて貰ってるからどんどん送り込んでる。ここに残す分は氷室と貯蔵庫に入ってるからそれ以外は全部出しちゃうよ」
「そうですか。あちらも三段目までは収穫しだしましたので、半分ですね。ざっと見た感じ普通の10倍位の収穫量になりますね。さらに大きさが数倍ですので、1000人分くらいの収穫ではないですか」
「小麦と大豆はこのまま続行で、他はトマト、キュウリ、ナスなんてどうかな」
「良いんじゃないか。野菜の事など分からん。全部シュナイダー領に渡すのか?」
マイヤが確認して来る。
「うん。え~と。必要数分だけ確保して、それ以外は帝都に持って行くって言ってたな。転移で持って行ってくれって言われてるよ。捌くのはニコラスに任せちゃうけどね運搬費はもちろん取るよ。へへへ」
軽く情報交換をして作業続行だ。
「姫さん方、マジックバックを交換して直ぐに戻るぞ」
「ちょっと待って、こっちも詰め終わったから一辺に持って行っちゃうよ。ヤルルーシカ種渡しといてね。じゃあ、行ってきます」
シュンッ。て感じで転移し、暫く経って空のマジックバックを持って戻ってきた。あっちは人海戦術で整理してたよ。
「はい。これ持って行って。どんどん行こう。ここの出荷が終わったら合流するからもう少し待って。一段目と二段目はもう植えちゃって良いからね」
三回程運んでもらった段階で在庫分の出荷が終わった。俺とヤルルーシカが農園に合流すると三段目の収穫が終わるところだった。農園に溜っている作物をマジックバックに入れて出荷しちゃう。
「う~ん。失敗したね。各畑で同じものを植えるべきだったね出荷がめんどくさいよ。試作農園と同じように6種類全部植えたのは間違いだね。次は変えよう。一段目はトマト、二段目はキュウリ、三段目はナスにしよう。四段目に大豆で五段目に小麦。」
冒険者組に種を蒔かせ、俺とヤルルーシカがマジックバックに収納する。姫様方は念願の収穫を楽しんでいる。
身の丈と同じ大きさのトウモロコシを悪戦苦闘しながらもぎ取るティア殿下、アイダ姫がジャガイモを引っこ抜くのに勢い余ってひっくり返ったり、グリンダ姫様は両手にニンニクを掴んで笑っている。三者三様収穫を楽しんでいる。
そうだよね。最後の収穫だけだと農業って楽しいんだよね。それもちょっとならと言う但し書きが付くけど。
まあいいや、楽しんでる内は勝手にやらせとこう。こっちはさっさと出荷しないと。ははは、どんどん収穫してる。楽しんでるな~。
四段目の収穫を終えた姫様方、若干疲れが見えてきている。そうだよね。一個一個が重いから疲れるんだよな。
マイヤ達も合流して一気に収穫、種蒔きまで終わらせた。あとは出荷先、つまり実家の方の出荷の手伝いだ。
「あ~、俺は実家の方を手伝ってくるけど皆はどうする?」
「ん~。姫さん方が来たから、周辺の索敵と、殲滅を大々的にやろうと思う。実際の実力も見ておきたいしな」
三人の姫が魔獣討伐と聞いて、それぞれが反応する。ワクワクする者、めんどくさそうな者、無関心を装う者。三者三様である。
実はこの三人結構バランスが良い。前衛二人に回復一人、後足らないのは広域殲滅をしてくれる魔法使い、つまりサラである。サラを含めるとちょうど良いバランスになるのだ。
若干肉弾戦よりだが、それはアイダ姫がいるからで、アイダ姫はどちらかと言うとバランス型である。魔法もほどほど卒なく熟す。
さすがはA級冒険者だ。サラが加入したことによってマイヤ達冒険者組も肉弾戦派だったのが魔法を強化されてきておりバランス型に移行しつつある。
「了解したよ。俺も終わったら合流する。ニコラスに家畜の方も依頼だしておくよ」
皆と別れて、出荷作業を継続する。転移すること数回で最後の出荷を終えた。
「カラナムのおっちゃん、これ最後の作物。次は一ヶ月後ぐらいかな、小麦と大豆はそのままで次はトマトとキュウリとナスにしてみたよ」
「へい。坊っちゃん。こっちはまだ数量確定に時間がかかりそうでやすから、後2刻から3刻後くらいに帝都で待機してるニコラスに持ってって下せえ」
「あ~、まだそんなにかかるんだ。じゃあ他の魔獣の品も持ってきちゃおうかな。今大規模に殲滅してるんだよ。さかなと卵も獲っちゃおうかな」
「さかなと卵はミゲルの領地で消費致しやすから慌てなくても良いでやすよ。ひょっとしてすげえ量なんでやすか?」
「う~ん。それほどでもないと思うよ。さかなは生のままでも良い? 下処理に時間喰っちゃうんだよね。ほらうちは人数が足らないから、おおざっぱな仕事なら早いんだけどちまちましたのは普通の人と変わらないんだよね」
「良いでやすよ、村の奥様連中を集めときやすから報酬で何匹か渡せば喜んでやってくれやすよ」
「オ~ケ~。じゃあ、3刻前後したら持ってくるようにしておく。あ、そうそう家畜を購入しようと思ってるんだけどニコラスに運ばせるから俺が来るまではここで預かってよ」
「ええでやすが、早めに取りに来て下せえよ。飼料なんかありゃしませんから。水位ならやっときます」
「悪いね。ニコラスとはなるべく時間を合わせるよ。代金は前回と今回の売り上げから差っぴいといて。十分あるよね? そっちは鶏くらいはいる?」
「へえ、魔獣の品もありやすし、この作物もいい値が着きそうなんでやしょうから、2、3百匹くらいまでなら十分購入出来やすよ」
「なにが良いか分からないから、食用で馬、牛、羊、山羊を50と鶏を100羽、軍馬と乳牛を10頭位かな。」
「軍馬は結構値が張りやすが、まあ大丈夫でやしょう。まだ褒賞金やら支援金も手を付けていないんでやしょうから」
「まあ、9人しかいないからね。そんなに使うこともないんだよ。マジックバッグはもっと欲しいかな。出来たら無制限のやつとかないかな~」
「あんま、欲かかねえ方が良いでやすよ。今でさえ出来過ぎなんでやすから」
「はいはい。じゃあ、後でね」
◇ ◇ ◇
坊っちゃん、本当に出来過ぎでやすよ。気を付けておくんなせえ。チッ。どうなってやがんでぇ。今までこんなにうまく行ったことなんてなかったんでやすよ。
こっちじゃもうほとんど魔獣は見かけねえ。坊っちゃんが大森林に入ってから少ししたら、ぱたっと出なくなりやした。
坊っちゃんの方の収穫を見るとかなり狩っているのは分かりやすが、それでも少な過ぎでやすよ。何か起きなきゃいいが、まったく年を取ると心配ばかりでやすよ。
ミゲルの領地も魔獣がいなくなりゃ、こんな良い土地はねぇくらいだ。泣く泣く坊ちゃんを放逐してから良い方に転がり過ぎてやす。
しっぺ返しがいつ来るのかそいつをどう凌ぐかが山場でやしょうね。それで元に戻っちまうか発展していけるかが決まるでしょうよ。
へっ、どっちにしても坊っちゃん次第か。頼んますよ坊っちゃん。
◇ ◇ ◇
そのまま皆のところに転移した俺は、魔獣との死闘の最中に突っ込むことになった。
「うぉ! 不味いとこに来ちゃったか。相手は何?」
「色々ですぅ~。さっきキラーマンティスを仕留めたとこですぅ~。今はぁ~、え~とぉ~。ヘルスパイダーとレッドスコーピオンですねぇ~。まだ後続もいるみたいですよぉ~?」
「分かった。俺も参戦する。マイヤ! レッドスコーピオンを俺が殲滅するから、ヘルスパイダーをやっちゃって。ふん」
俺の気合と同時に上から石つぶてがレッドスコーピオンの背中に突きささる。前衛組がレッドスコーピオンから解放され、上からいやらしく攻撃を仕掛けていたヘルスパイダーに襲いかかった。
その時俺の横に居たグリンダ公女に黒い何かが襲いかかる。チッ! 抜き打ちで村雨を一閃し、そいつの首を切り飛ばす。ブラックスネークだ。昼間だったから視認しやすかった。
「グリンダ姫様、後方でも気を抜かないで! どっから来るか分からないですよ」
「あ、ありがとう。ごめんなさぁ~い。ちょっと真面目に行きますよぉ~。魔力・物理障壁展開~、攻勢障壁展開しますぅ~。う~ん神聖障壁は良いかなぁ~。さあ、これでもう私に手だし出来るのはぁ~そうそういないですよぉ~」
流石は聖女とまで言われてる姫さんだ。一気に三重の障壁を展開してヘルスパイダーの子供達を攻勢障壁だけで駆逐していく。それを見ていたヤルルーシカがメイスを構え直す。
どうやら癒しは任せて攻めに転ずる気の様だ。頭上ではリュディー、アンジュが木の上から吊り下がっているヘルスパイダーを叩き落している。
下では待ってましたとばかりにマイヤ、ミヤ、ティア殿下、アイダ姫が次々と襲いかかる。昆虫系の魔獣は心臓やら頭を潰してもなかなか死なないのが厄介だ。
二人一組で削りながら仕留めて行く。数も減ってきた所で俺もヤルルーシカのところに参戦する。今まで一人だったので牽制だけだったが俺が参戦することで仕留めにかかる。
「ふぅ~、何とかなったか。今日はいつもより多いな。倍位はいるな。ここで姫さん方の参戦は助かるな~」
マイヤのぼやきが始まった。
「ふふふ、そうじゃろ、そうじゃろ。そちたちもなかなか良いパーティーじゃぞ。それにしてもサラ殿の魔法の威力は高いの。どういうことじゃ?」
「ああ、元々素質が有ったみたいだ。ギルドで中級並みに魔力があるって最初言われたよ」
「ひひひ、それだけじゃないんだよ。サラったら変なこと考えながら魔法を撃ってたから凄い事になってるんだ。下手な師匠とかに附かなかったのが良かったみたいだね。自分の発想だけで変な使い方してたんだよ」
ミヤは面白がって説明しだす。あれ~俺の魔法って変だったんだ。
「う、うん? 変だったのか・・・」
「そりゃそうだ、初めて撃った魔法、それも初級の石礫でブラックスネークがもんどり打って倒れ込んだんだぞ。あれは驚いた。思わず攻撃の手が止まったぞ」
マイヤの褒め殺しかな~。
「ほおぅ~、それは本当ですのぉ~? そんなことが出来るのですかねぇ~。わたくしも最初にヒールをした時は随分驚かれましたけどぉ~」
きらりと光るグリンダ姫様の目。対抗心がふつふつと持ちあがってるのが分かるよ。ここでアイダ姫様が西の方を気にしだした。
「みなさん。ちょっと良いでありますか。どうやら西の方がキナ臭い気配が漂ってきてるであります」
「うわぁ。凄い数。なんか来るよ。アンジュこれ何か分かる。僕はやったことない気配だよ」
「・・・軍隊アリですね。これは・・・巣分かれでしょうか」
索敵の鋭い連中が、とんでもない事を言いだす。
「不味いな。巣分かれだとするとこの人数じゃキツぞ。こっちに向かってるってことは世界樹に一直線じゃないか」
軍隊アリ、前世でも記憶にあるが南米の方のジャングル? に居るアリだったか、それとは別物だ。
体長50cm程の働きアリ、30cm程の羽アリ、1m程の兵隊アリ、1.5m程の近衛アリ、女王アリからなる完全縦社会の集団型のモンスターだ。
基本的に獰猛で何でも襲って食べる。集団で行動し、ほぼほぼ軍事行動と同じ原理で動く。厄介なことは、女王アリを仕留めてもそこで終わりにならないのが特徴か。
女王アリを仕留めると次代の女王が引き継ぐか新たに育て始めたりする。一匹一匹はそこそこの強さだが、如何せん数が多い。
大抵は数百匹から大きな集団だと万の単位で行動する。今回は巣分かれのため特に凶暴だが数は通常の半分以下である可能性が高い。
「さて、選択肢とし拠点を放棄してこのまま逃げる。拠点を防衛するために迎撃する。が考えられるがどうする?」
「当然迎撃じゃ。世界樹を失う訳にはいかんじゃろう」
「軍隊アリがいなくなってからぁ~、改めて拠点を作りなおすのもぉ~有りだと思いますわぁ~」
「この集団が世界樹を越えて東に行ってくれるならそれも有りでしょうが、周辺を防壁で囲ってしまっているので南か北に流れる可能性がありますよ」
「アンジュの言う通りであります。その場合シュナイダー男爵領に流れ出ることも懸念されるであります」
皆がそれぞれ意見を出す。これを聞いて俺は腹をくくった。
「よし。決めた。迎撃だよ。アイダ姫とリュディーで偵察してほしい。敵の規模と構成、進行方向だ。他の魔獣が多いのもこの集団に追われたからだと思う。基本戦術はゲリラ戦だけど、いつまでも追って来るんだよね? だから南側に誘導する。南への誘導がうまくいったら、転移で逃げるぞ。」




