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7.二人の枢密院事の結論

 そう思うと、とたんにむくむくと一つの疑問を解消したくなってきた。よく見れば二人ともとても素敵な青年で、この胸に抱える疑問に対する解を有しているように思える。


 そう、父である玄徳や上司の仁威、それに道場関係者には決して訊けない疑問が珪己にはあった。ましてや面白がるだけの龍崇――自称、恋の師匠――には絶対に訊けない疑問が。


「あの……知り合ったばかりで大変恐縮なのですが、折り入って教えていただきたいことがあります」


 両手で裳を握り上目使いに二人を見れば、隼平はあっけらかんと「いいよ、何?」と請け負い、良季もまた無言で先をうながした。


 珪己はまだしばらくもじもじと衣を指先でつまんでいたが、やがて意を決して口を開いた。


「あの、男の人って、その……」

「男がどうした?」

「……男の人って、どういうときに口づけをしたくなるものなのでしょうか」

「……え?」


 思わずぽかんと口を開けた隼平、対する良季にはまだ理性が残っており、頭に浮かんだ解をそのまま口に出した。


「男が口づけをしたくなる時、それは普通、欲情したときだ」

「こらあ! 女の子に向かって欲情とか言うな!」


 すぱーん、と、隼平が良季の頭をはたいた。


「欲情……?」

「いや、だからそれは……そう! 好きな子といたらしたくなるってことだよ。てか珪己ちゃん、なんてこと訊くの!」


 慌てる隼平をよそに、珪己は龍崇と後宮の前で交わした会話を思い出していった。


(……好きでなくても抱きたい抱かれたいと思う感情があると言ってたっけ)


 隼平の態度も、良季の率直な回答も、先日の龍崇の言葉を裏打ちするかのようだ。さすがは恋の師匠を自負するだけのことはある。


 ちなみに、珪己には侑生が自分のことを好きかもしれないという思考はかけらもない。好かれる理由が自分にはないと思っているからだ。自分よりも美しく彼にふさわしい女性はこの世界にいくらでもいる。何より、知り合ってまだ間もない。直接会ったことも、言葉を交わした回数も多くはないのだ。


 であれば――。


(……侑生様が私に欲情?)


 それもあるわけがない、と珪己はその考えを即座に否定した。自分はまだ内面も外面も大人になりきれていない成長途上の少女でしかない。それを珪己は重々自覚していた。だから侑生のような恋に手慣れた洗練された男が、自分を欲情の対象として見るとは到底思えるわけもなく――。


 珪己は至極真面目に思考する。……実はその思考の性質ゆえに侑生の考えるような『少女らしい反応』を示せないでいる。謎が深すぎて解明への道筋がいまだ見えていないというわけだ。そして隼平と良季の与えた回答は、結局のところこの謎を余計に複雑化しただけだった。


 と、隼平がからっと言った。


「そういうことはその当事者の男に訊けばいいんだよ。なんで口づけしたんだって」


 一瞬固まった珪己の顔が、とたんに赤くなった。ここにおいてようやく見られた『少女らしい』反応ではあるが、どちらかというと、


(そんなこと本人に訊くなんて恥ずかしすぎる!)


 という理由だったりする。ちなみに珪己は、実際に誰かに口づけをされて悩んでいることをこの二人に看破されているとはいまだ気づいていない。


 けれども珪己の変化は二人にとっては興味深く映った。軽く目を見張った隼平がまたしても良季にこそこそと耳打ちする。


「……もしかして、もしかする?」

「ああ。どうやらそうみたいだな」

「侑生はいつものごとく遊んじゃったのかな」

「いやまてよ。やはり楊枢密使命の侑生がその娘御に遊びで手を出すとは思えない」

「……じゃあ相手は侑生じゃなくて別の男か」

「お、隼平もたまにはいいことを言うな。そうだな、たぶんそうだろう」


 二人は二人だけで議論し、そして合点した。


 そして結局珪己の疑問はいまだに解けていない。

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