おまけ・カレン視点
副題・幸せへの道。
アレの一件から、私はカナルに会わないまま学園を去った。
別に振られて気まずかったから、というわけじゃない。
「とりあえず家に戻るか。色々言わなきゃいけない事もあるだろうし──……俺も多分そこまで長居出来ないだろうから、今のうちにやっちゃうか」」
と、あっさり言って、ディーダは再び私に手を差し出してくれた。確かにカナルとの結婚が一方的とは言え破談になった事は報告しなければいけない。でも、それ以上に幸せな2人を見ていたくなかった。
穏やかに感情を育てていったとはいえ、私は確かにカナルの事を好きだったのだ。
燃えるような恋──……か。少し。ううん。かなり憧れる。カナルとリハヤはそんな燃えるような恋をして、私に突きつけたのだろう。
例え家を捨てたとしても、リハヤと共に歩む道を選んだ。
私もしてみたい。
そんな恋をして、新しい私になりたい。
キラキラと輝いていて、私は悲しいと同時に、あの2人が眩しかったんだと自覚した。
「先に転移して、俺の事を説明しといてもらってもいいかな?
5分程経ったら行くから」
「あ。はい」
神様に選ばれたディーダの存在を、何て説明して言いか分からないけど、ディーダだったら大丈夫そうな気がした。
「あぁ。偽装はしないで行くよ。そっちの方が神々しいだろ」
片目を瞑って笑みを浮かべるディーダに、私からも笑みが零れた。ディーダといると心が軽くなる気がする。
「はい。わかりました」
ディーダの手を取ると、私は実家に転移させられていた。
すごい。神様に選ばれると、こんな事も出来るんだ。感動を覚えながら、私は突然現れて驚いた表情を浮かべているお父様に、色々と言っていいかわからないけど、事情を説明する。
カナルの事を話した時のお父様の表情は──……はっきり言って怖かったです。
力にものをいわせて、カナルの家を潰しかねない表情と、身体から放たれる魔力。その時、タイミングを見計らったようにディーダが現れた。
キラキラを振りまく神々しい光に包まれて。
相変わらず綺麗でウットリしてしまう。両親も例外じゃなく、ディーダに見惚れているのがわかった。
その気持ち、凄くわかります。だって綺麗だもの。
けれどディーダの登場に、私の言葉に半信半疑だった両親も、すんなりと私の言葉を受け入れてくれた。
神様に愛されている以外の何者でもないディーダの姿と魔力。
お父様とお母様に何も言わせず黙らせる。そんなディーダに尊敬の眼差しを向けた。
流石です。その一言に限ります。
それからが私の怒涛の日々の始まりでした。
本来だったら、この年で婚約者に捨てられた私に、次の縁談が来るはずなんてありません。
けれどディーダと実家に戻ってから2日目の日、私は屋敷の近くにある湖に来ていた。幼い頃から大好きな場所で、特等席があるのですが──……そこに知らない人が横になって眠っていました。
マントで身体所か頭まですっぽりと収めて、気持ちの良さそうな寝息をたてていたので、起こすのは悪いなと思い、音をたてずにその場から少しだけ離れる。
あそこは気持ちが良い。その場所を的確に探し出して眠るなんて、見る眼がありますね。そんな事を考えながら、私は湖の周りを歩き出した。
うーん。空気が美味しい。あんなにささくれていた心に、するりと入り込んで私を癒してくれたディーダ。
いるだけで安らげるけど、それは恋という感情ではなく、頼りになるお兄ちゃんという感じだった。
神々しくて、逆に恋愛感情にはならなかったのだろうと思ってる。
その時、私の特等席で眠っていた人が起き上がり、キョロキョロと辺りを見回して、最後に私へと視線を合わせた。
「初めまして。起こしたらごめんなさい。
ちょっと気分を変えたかったから、ここまで来たの」
私の気配で起こしてしまったのかも。そう思ったからこそ、すんなりと謝罪の言葉が出てきた。ディーダと出会ってから、前よりも心が穏やかになった気がする。
「いや。アンタの特等席で眠ったのは俺だろ。ありがとな。気持ち良かった」
声からすると男性。汚れているから分からなかったけど、結構若い人なのかもしれない。
「そこを気に入ってくれたなら、私も嬉しいから気にしないで」
微笑みながら言うと、男の人がその動きを止めた。
何でしょう。そう思ったけど、私は一歩前へと足を踏み出し、両手を広げた。
「気持ち良いでしょう。そこ。私もついウトウトしちゃうんです」
男の人から少しだけ離れた場所にある、大きめな石の上に腰を下ろした。ここも十分気持ちが良い。日差しがキラキラ。これだけで幸せになれる。
「君は……」
「私ですか? 私はこの近くに住んでいるんです。カレンって呼んで下さい」
この人は大丈夫。
私の感は、ディーダと出会ってからものすごく良くなった気がする。過信するわけじゃないけど、ディーダと出会ってから視界が開けたのだ。ここでこうやって穏やかな時間を過ごせるだけで幸せ。ちょっとお手軽かもしれないけど。
それに、この人には教えても大丈夫。そんな気がするの。
私が微笑みながら言うと、男の人が視線を私から逸らして横を向く。
「不用心だな。いかにも怪しい俺に教えても大丈夫か?」
私を試しているような男の人の言葉。
「ふふ。不用心じゃなくて、貴方は大丈夫だって思ったの」
確かにくたびれたマントに汚れた顔。
けれど、黄緑色の両目は綺麗だし、汚れてしまっているけど、柔らかそうな淡い金の髪は触り心地が良さそう。
「貴方の名前を聞いても良い?」
だから、続けてそんな事を聞いてみる。
「……俺はアスファーラ。アスでいい」
「アスね。改めてよろしくお願いします」
頭を軽く下げると、サラリと髪が落ちていく。それを手を使ってかいあげた。やっぱり縛るものが必要ね。
「……あぁ。よろしく……な」
これがアスと私の出会いだった。
それから7日後。大きくて立派な馬車から、あの時とは全く違う格好のアスが降りてきた時には、ものすっごく吃驚した。
あの時に会った明日が、まさかこんな立場の人だなんて思っておらず、自己紹介をされた時に飛び上がって驚きたくなった事は秘密だ。
「こんな形で悪いな。仰々しくするつもりはなかったんだが……。
改めて名乗るが、俺の名前はアスファーラ・K・G・サーヴァメントだ。
カレン。どうかこの俺と結婚してほしい」
流石にこの言葉にだけは、私は驚きを隠せなかった。
その名前は、この国の第一王子様の名前だったから。
「え……でも私は、この年で婚約を破棄にされた女ですよ」
この年になって、婚約を破棄された女に、王子様がプロポーズするなんてありえない。
そう思った私の手を取り、口付けを落とす。
きゃー、と悲鳴をあげなかった私に、自分で偉いと褒めてしまう。
それからの私は元の学園に戻る事はなく、王族とその関係者しか入れない学園に入った。
ディーダはこの世界の神様と交渉し……それだけで本当に人間ですか?と聞きたくなった私の感性は、至って一般的だと思います。神様と交渉するなんて、力の桁が違いすぎて、高過ぎる山をずっと見上げているような首の疲れを感じると言うのでしょうか……。
結局その交渉は、時々私に会いにくるというもので、その言葉通り会いに来てくれた。その頃には名前ではなく、お兄様と呼ばせてもらう程度には身内として信頼しているし、大好きな存在です。勿論家族として。
その存在が力になってくれて、私はあの時と同じく前を向く事が出来る。
そして、お兄様に背中を押してもらい、私はアスと燃えるような愛を育てていった。ただ燃えるだけではなく、お互いがお互いを高めあい、そして深い愛情を育んだ。
今となっては、カナルの事もリハヤの事も、良い思い出になった。
この愛を前にしたら、家族のような愛情は受け取れない。
今更ながら、私はカナルのあの時の心境を理解できた。
会っていないけど、2人の幸せを望んだ。
今の私はとっても幸せなの。
それのきっかけとなったあの2人も、幸せになってくれたらいい。
お兄様とアスのおかげで、私はそう言える様になった。甘い、とか偽善とか言われるけど、それを言うのに何の迷いはなく、お父様を説得し、リハヤとカナルの結婚を認めてもらった。
だって、カナルが親愛ではない恋愛の愛情を言ってくれたおかげで、今の私があるんだもの。




