番外エピローグ 魔剣保持者になった女
「師匠、私女だってちゃんと分かってますよね? 最近、いえここで鍛え始められてから私、女扱いされた覚えないんですけど」
「女である前に弟子一号、だろ? 将来の魔剣保持者じゃないか。お前のなりたかったものだろ」
「いりません! 見てくださいよ! こんなに腹が割れてしまって私の身体が……私もういりません! 帰ります!」
「まあまあ、落ち着け。もうお前を所有者に書き換えたからな。今更騒いだってもう遅い」
「い、いやぁ!」
「またフィーリさん泣いたんですか?」
修行の後で汗を風呂で流してきたマルカが何一つ身に着けずに居間にやって来て水椅子に座った。全身をスラー三世に包まれたマルカは頬を紅潮させて吐息を漏らしている。スラー三世が大好きなこの少年は紛れも無く変態だと断言出来た。人間とスライム、しかも美少年とスライムが種族の壁を乗り越えるかどうかなんて正直全く興味は無い。
「師匠! やっぱりおかしいですよ! まがりなりにも男のマルカより私の方が修行きついなんておかしいですよ!」
「毎日飽きずに良く言ってるな。お前の方が筋肉の成長がずっと良いんだから仕方ない。見ろよ。どことなく筋肉ついたがお前とは比べ物にならん細さだぞ?」
「だからそれが嫌なんですって言ってるじゃないですか! 私、女の子ですから、良いんですそんな筋肉お化けにならなくても。師匠みたいにならなくていいんです!」
「『女の子』? もうそういう歳はとっくに」
「帰ります! 帰りますから! 帰らせてください! 魔剣欲しいなんて馬鹿みたいなこと言ったのは悪かったですから帰らせてください! このままじゃ子供出来ないまま生涯終わっちゃう!」
「大丈夫大丈夫。基本的に魔剣保持者は剣の力で寿命長いんだ。のんびりいけば良いさ」
「フィーリ! 修行終わったんでしょ! 遊ぼうよ!」
「エッチな遊びしようよ! 旦那様なんだから妻の相手しないと駄目だよ!」
「い、いや! 私女の子だから! 女の子だから!」
フィーリ・リミニエ。『抑止』の魔剣保持者で、魔剣保持者の中では最高峰の力を持つと言われる彼女は常に二人の女が傍にいるという。その最高峰の身体能力であらゆるものを粉砕する彼女は別名を『怪腕』のフィーリ、あるいは『破城鎚』のフィーリ、最近は『戦神』のフィーリと呼ばれて恐れられている。
最近相手を選ばず誰彼構わず求婚するようになった顔だけはかなりの美貌を誇るはずの彼女だが、酒場でその8つに割れた逞しい腹筋と頻繁に酒の注がれたジョッキをうっかり握りつぶしてしまう姿に、その求めが今まで受け入れられたことは一度も無い。筋肉好きは言う。
「惚れ惚れとするが、彼女を伴侶にすると早死にをするだろう。長く遠くから見るだけで満足さ」
と。
女の方にむしろ人気は高い。
そんな時、彼女はいつも師の口癖を真似て言う。お断りだ、と。
最近もう師匠相手でもいいかなと死んだ魚の目をしている姿も最近見かけたとか。
ブチ切れた弟子が師匠を押し倒す日もそう遠くはない。
書きたかった場面があってそれに強引に繋げた形です。番外編まで読んで頂きありがとうございました。
書いている抜かずの魔剣と言うと生涯使わず腐る剣が思い浮かんで仕方なかったです。