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宇宙(そら)の運び屋は、あなたの想いを届けます  作者: 角山亜衣


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1-7.覚醒

レムリアス船内:コクピット――



『マスター、特務艦アリアードより、惑星モルディの自動防衛システムについて詳細なデータが送られてきました。メッセージが添えられています。“現状で把握できた情報は、これが全てだ”』


「ありがとう、メインモニターにお願い」



 モニターには、大陸がひとつと、その周囲に散在する小さな島が映し出された。


『周囲の小島に、複数の固定砲台が配備されています』


 いくつかの小島にマーカーが重なる。


『各固定砲台は強力なレールガンを備えています。音速の数倍で撃ち出された質量弾は、大気圏上層まで到達します』


「アリアードの揚陸艇が撃墜された高度は?」


『大気圏上層です。降下直後に撃ち抜かれたようです』


「威嚇もなしに、か。ほかの武装に関しては?」


『受領したデータでは以上です。惑星モルディへ強行降下した場合、成層圏に到達できた事例はゼロ。熱圏~中間圏での撃墜率が100パーセントです』


「なんてこった……“楽園”と呼ばれる星が、“天国”への入口に見えてきたぜぇ」


 ギルバートは覚悟を決めたような目で天井を仰いでいる。


「あら、ギルはヴォルフ艦長のアリアードに乗せてもらってて良いのよ? あたしが突破したら、一緒に降りてくれば――」


「おいおい、見くびらないで欲しいね。これでも――“男の子”なんだぜ?」


「……ぷっ、あはははっ! キメ顔で締まらない台詞ね。でも……その覚悟、背負わせてもらうわ」


 その時、ふと、心の声が囁きかけてきた。



“命を懸けてまで挑む必要があるの?”


 え? ……言われてみると確かにそうかもしれないけど――


“啖呵切っちゃった手前、後戻りできなくなってるだけじゃない?”


 違う! そんな安っぽいプライドなんかじゃない!!


“じゃあ、どうして? ここで待っていれば、誰かがどうにかしてくれるはずよ?”


 だって、ダイソンさんから預かった“想い”を、早く届けてあげたいじゃない?

 地上では暴動が起きているっていうし、受取人の、キティのことだって心配じゃない!?


“だからって、自分の命と、ギルバートの命を懸けてまで挑むこと?”


 それは――――――違う。


“でしょ? あたしたちが命を懸けてまで――”


 違う! そうじゃない! “命を懸ける”? はぁ? あたしは、こんな所で、こんな事で、死ぬなんて思ってない!! “命を懸けてまで挑む”? 何言ってくれてるの? こんなこと、日常茶飯事だったじゃない! 口笛吹きながらレムリアスを動かす。それだけのことよ!!


“ふふふっ そう、それでこそ、《《あたし》》よ。思い出して――――――”


 ・

 ・

 ・


(…………何? 今の……あたし何を……)


 ちょっとだけあった不安な気持ちが、妙にスッキリしている。

 そうだ。無意識のうちに、ヒヨっていたんだ。


 でも、あたしの中のもう一人のあたし? なんだか懐かしかったような……。


 思考がクリアになって、心も落ち着いている。

 うん。今なら何が来たって対処できる!


「リリス、自動防衛システムは個々に独立しているのか、どこかで集中管理されているのか、わかるかしら?」


『……、……、宇宙港の地下に制御回線が集中しているエリアがあるようです。恐らくそこが中枢と思われます』


「そう。――よし、それじゃ、作戦はこうよ。攻撃を避けながら降下して、宇宙港に着陸する。と同時にリリスがハッキングして防衛システムを無力化する。以上よ」


「な、なんだよ! 最初に言ってた特攻と変わんねぇじゃねぇか!」


『全力でサポートしますよ、マスター』


「オッケイ。リリス、ヴォルフ艦長に繋いでくれる?」







『貴様! あのデータを見て、まぁだそんなことを言っているのかー!?』


 ヴォルフ艦長は顔を真っ赤に怒鳴りたてた。


「お気遣いは、ありがたく頂いておくわ。でも、これは決定事項よ。特務艦アリアードは引き続き、静止軌道上で待機していて」


 あえて偉ぶってみる。一度やってみたかったのよねぇ。


『き、貴様、なんでそんな偉そうに……くそっ! だが忘れるなよ!? あのデータは防衛システムのほんの一部に過ぎないんだからな!』


「もちろん心得てるわ。“撃墜率100パーセント”の壁、突破してやろうじゃないの!! その先は、出たとこ勝負ね」


『軽々しく言いやがる……サイレント・ハウンドの言うように、止められないようだな。…………幸運を祈る……』


 小声でそう言ったヴォルフ艦長は、帽子のつばで顔を隠した。


 必死に止めようとしていたのは、あたしを気遣ってくれてのことだろう。


 彼はここで、訳も分からずに多くの部下を失っている。

 判断を誤ったと、自分を責めているかもしれない。悔やんでいるのかもしれない。

 無慈悲に攻撃してきた惑星モルディの防衛システムに対して、怒りや憎しみを覚えたかもしれない。


 彼のそんな“想い”も、勝手ながら預からせてもらうわ。


「心遣いに感謝します。次にコールするときは、モルディの宇宙港からよ。それでは、通信終わります」







「さてと……始めるわよ! レムリアス、バトルモードに移行!」


『了解、マスター』


 コクピット全体が沈み込み、モニターが壁に収納される。

 船体のあちこちでガンゴンズズゴゴと音がしているので、きっと何かしら変形しているのだろう。


 目の前のコンソールが開き、せり上がってきたヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着する。


「ギルの分もあるわよ? 状況が見えないんじゃ不安でしょうから」


 ギルバートは珍しそうに覗き込みながらHMDを装着した。


『グラビティキャンセラー展開。システム、バトルモードへ移行完了』


 リリスの声が、いつもより機械的に変調する。


 HMDにレムリアス視点の映像と、目標に関する情報が映し出された。

 座っているシートの肘掛けが反転して、指先にフィットするボタンが並んだ操縦桿に代わった。


 いくつかのボタンを軽快に操作する。


「各所スラスター、チェックOK。突入コース、最終確認……OK」


『偏差ゼロ。降下角度十二度。マスター、神経リンクを同期します』


 一瞬の痺れとともに、意識が船体と融け合う感覚――


 そして、あたしの精神は徐々に冷静に研ぎ澄まされていく。


「さぁて、行くわよ! 大気圏突入、開始!」


 グラビティキャンセラーのお陰でGは感じられないが、HMDの映像から急速に降下しているのがわかる。


 視界は一面の青で満たされる。


 中央に見える大地。その周辺の一角がチカっと光った。


『レールガンからの射出を確認。到達まで、8秒、5、4、3、』


「初弾は余裕ね」


「こ、この速度で回避とか……出来ちゃうのか? ……出来ちゃうんだな」


 ギルバートの声が遠ざかっていく。集中力が増していく。


 数秒後、すれ違う質量弾が一瞬見えた。


『次弾、射出を確認。来ます』


 一発喰らったら即アウトのこの状況。死と隣り合わせの緊迫感。

 気持ちの高揚が止まらない。

 加速していく!


「まだまだー! 一気に成層圏まで抜けるわよ!」


 数秒後、質量弾とすれ違う。


 船体の前方で大気が光の壁に変わる。

 赤から白へ、白から青白いプラズマへと色を変えていった。


『次々来ます』


 最低限の回避行動で、いくつもの質量弾とすれ違う。


『中間圏、抜けます。3、2、――成層圏到達』


 ――――くる!


 小島のひとつがチカっと光った。


『粒子ビームによる砲撃です。左舷被弾。ダメージは軽微』


(かわしきれなかった!?)


『粒子ビームの掃射です』


 レールガンからの砲撃もまだ止まない。


(もっと集中して……もっと! 全ての感覚を研ぎ澄ませるの!)


 ――――――見える。軌道が……抜けられる道筋が!


 次々と飛来する光を、全てかわして降下を続ける。


「宇宙港までは!?」


『このペースだと、9分53秒、52、51』


「このまま終わりってことは、ないわよね」


『ドローン編隊、高速接近中』


「リリス! 片っ端からハックして無力化!」


 流石に数で来られちゃうとキツい。

 道筋が細い。糸のように細く、針の穴ほどの抜け道しか見えない。


『船底に被弾。ダメージ軽微』


「リリス、グラビティキャンセラーの出力を少しだけ抑えて! ギル、耐えてね!」


『了解』「え? お、おう!」


 グンっ! とGが掛かる。


「ぐ、うぅ……」


 ギルバートが必死に耐えている呻き声が聞こえる。


(ごめん、頑張って!)


 ガガンっ! と被弾した振動が伝わってくる。


 これよ――この感覚!

 緊張感が増したことで、頭の上につっかえていた何かが外れた。


 まだまだイケる! ここからが本番だ!!


『――シンクロ率上昇。緊急時は音声による情報伝達をカットします』


 リリスのハッキングのお陰で、ドローンは次々と落下していく。


 同士討ちしないように控えていたであろう粒子ビーム掃射が再開される。


 ――正面! 高出力レールガン!?


 通常のレールガンよりも数倍の弾速で迫りくる驚異。

 死を感じた瞬間、あたしの中で何かが弾けた。




 周囲の時間が止まったように感じる。

 それか、自分が時間の外に出てしまったかのような感覚。


 そして全てがスローモーションのように動き出す。


(あれ? なんだろう――この感覚――)


 ゆっくりと接近してくる質量弾。


 余裕で回避行動に移る。レムリアスはあたしの感覚についてきてくれた。


 ゆっくりとすれ違っていく質量弾の表面に刻まれた型番を読みながら見送る。


 そして時間の動きは徐々に元にもどっていく――


「はぁ、はぁ、はぁ、今の感覚……」


『マスターの反応速度が、瞬間的に私の処理速度を凌駕しました』


 そうだ。知っている。覚えている! この感覚――


 この感覚の向こう側に#ΔΣ∴λ_……――//re…sync?……■■■■■■――

 …■■……//*01001110*01100101*……――――

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