1-5.再会は運命? それとも……
エルラド星系:資源採掘惑星β・ドック――
採掘ターミナルのドックは、鉱石や補給物資を積み下ろす作業員たちの活気にあふれていた。
レムリアスが着艦すると、船を見た若い整備員たちは物珍しそうに笑ってくる。
『いつの時代の船なんだ?』
『博物館でだって見たことのないモデルだな』
『え? 現役なの? 動くの?』
『タイムスリップでもしてきたのか?』
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ふふふっ、この船の見た目でしか判断できないなんて、残念な人たちね。
あたしは、レムリアスの貨物リストに納品完了のチェックを入れながら、大きく伸びをする。
そのとき、背後から豪快な声が響いてきた。
「あんた、運び屋だよな?」
振り向くと、作業服姿の男が立っていた。
短髪に四角い顔。色黒なのか、それとも鉱石の粉塵で汚れているのか判別できない煤けた肌に、現場で鍛え上げられた迫力を感じさせる、がっしりとした体格。
「ええ、セレスティナ・エシュタールよ。あなたは?」
「お疲れのところ、すまない。オレはダイソンってもんだ。ダイソン・マクレガー。ここでエンジニアをやっている」
「エンジニアのダイソンさん、ね。あたしに何か?」
「実はな、ちょっと、頼みがあって……」
ダイソンは周囲を気にしながら、小さな箱を差し出してきた。ごつい手には似合わない、丁寧にラッピングされた箱。その隅には『キティへ』と、可愛い書体で書かれたカードが貼ってある。
「……娘の誕生日なんだ。ゼル星系の惑星モルディにいる家族に、どうしても、これを届けてやりたくて……」
気恥ずかしそうに声を潜めるダイソン。
「誕生日プレゼント!……いいわね、そういうお届けもの。運び屋冥利に尽きるってもんよ。しかも、お届け先が惑星モルディだなんて素敵じゃない」
ゼル星系の惑星モルディといえば、地表の九割を海に覆われたリゾート惑星として超有名なのだ。
お金持ちが悠々自適に暮らしているイメージだったけど、色々あるのね。きっと。
「頼まれてくれるのか!? ありがてぇ~!!」
ダイソンは胸をなでおろして、深く頭を下げた。
「娘さん、おいくつに?」
「もうすぐ四歳になるんだ。それまでには帰るって約束してたんだが……ここの現場でトラブルが起きちまってな。今、俺が抜けるワケにはいかねぇんだ。本当、助かるぜ」
「そう、大変ね。だけどタイミングは悪くなかったようね。任せて。最近じゃ忘れがちだけど、“あなたの想いを届けます”ってのをモットーに運び屋やってるのよ」
包みを大切に受け取り、報酬の一部はキッチリ前金で頂いた。
「それにしても、随分と年期の入った船だなぁ。現役なんだろ? じっくりと隅々までいじってみてぇなぁ……接合部があんなに……こんなスラスター見たことねぇぜ……大昔の特注品か、そうでなきゃ、どっか他所の星系の……」
ダイソンは独り言のように呟きながら、レムリアスの船体を舐めるように眺めていた。
他の人たちと違って、見る目がありそうね。
☆
エルラド星系:ワープターミナル――
レムリアスは静かにドックへ滑り込む。
途中、エルラドⅣに立ち寄って補給を受けつつ、ゼル星系へのお届け依頼がないか“窓口”で確認した。残念ながら、そう都合の良い依頼は無く、今回は“たった一つのプレゼント”を積み込んで向かうことになった。
相当な赤字になることは確実だけど、“想い”を運べる依頼なのだから――良しとしましょう。
ギルバートと再会できるかもって、ちょっとだけ期待してたけど、それも叶わず。
胸に染みわたる寂しさを感じて、“ちょっとだけ”のはずが結構本気で期待していたのだと気づいた。
『着艦を確認。ゼル星系への渡航手続きには、追加の書類提出と貨物検査が必要になります』
「貨物検査? いつもはそんな検査しないじゃない……何かあったのかしらね」
そうこうしている間に、検査ドローンが飛来する。貨物室は空っぽ。
手荷物としてコクピットに持ち込んでいた貨物を提示して、スキャンを受ける。
当然、問題なし。
「さーてと、あとの手続きはお願いするわね。ラウンジで時間を潰してくるから、出発時間が決まったら教えてちょうだい」
『了解。いってらっしゃい、マスター』
ラウンジで合成コーヒーを紙コップに注いで、空いていたシートに腰を下ろす。
(やっぱり、レムリアスの中で淹れるコーヒーの方が美味しいわよね。ギルにご馳走したかったなぁー)
そんなことを考えて、ぼんやりと大型モニターを眺めながらコーヒーを啜る。
すると隣のシートに、ドスン! と誰かが座ってきた。
空いているシートは結構あるのに、なんでわざわざ隣に!?
睨みつけるように視線を向けると――
「よ! こんな場所でまた出会えるなんて、運命を感じちゃうねぇ」
「え? え!? ギル! どうして? ええー!?」
「レムリアスが入港してくるのが見えたんでね」
「またそのパターン? あなた、ここに住んでるワケじゃないわよね?」
「はははっ、まさか。ゼル星系へ向かうとこだったんだが……またしても足止め喰らってるところさ。何かの呪いかね……そうでなきゃ、運命のイタズラ、かな?」
「ふふっ、きっと呪いの方よ(絶対運命だわ! こんな偶然、ありえない!)」
その時、構内アナウンスが流れた。
【ゼル星系行きをご利用のお客様へ、ご連絡いたします――】
アナウンスは、ゼル星系行きの航路が封鎖中で、復旧の目途が立っていないという内容だった。
「封鎖!? どういうこと……リリス、何かわかる?」
『(最新の運航データでも、ゼル星系への正規航路は全面封鎖と確認。復旧時期は未定です。……、……、ゼル星系側で何かトラブルが発生しているようですが、デマと思われる情報も多く、詳細は不明です)』
またしても、おかしなトラブルに巻き込まれそうな、嫌な予感がする。
でも今回の荷物は、誕生日前にお届けしなくちゃ……。
「(リリス、単独ワープで行きましょう)」
『(承知しました、マスター。やむを得ないですね。ギルバートにも声を掛けてみてはいかがでしょうか。運賃を頂ければ、多少なりとも赤字を薄くできます)』
リリスってば、あたしに気を遣ってくれてる?
でもまぁ、言われるまでもなく、誘おうとは思っていたけど、ね。
ただ、あんまり前のめりに言っちゃうと、あたしがギルに乗って欲しいって思ってるのがバレバレで、なんだか面白くないわよね。
「ねぇ、ギル。物は相談なんだけど、あなたが望むなら、また乗せてあげてもいいわよ?」
「ん? 乗せてくれるのは嬉しいが――航路が封鎖されちまってるんだぜ?」
「それはそれよ。運び屋には……っていうか、あたしだけの独自ルートがある、と言ったら?」
「マジか……。そいつぁ、嬉しい申し出だが……懐具合がなぁ……。それに今回は、それほど急いじゃいないしなぁ……」
え? え? 拒否られてる?
「そ、そうなの……。前回、あなたには助けられてるし、運賃は気にしなくても良いんだけどなぁー」
「お!? そこまで言われちゃ、断るわけにもいかねぇな。是非、また頼むぜ!」
「あー、う、うん(結局、あたしが熱烈に誘ったみたいになっちゃった……けどまぁ、いっか) あ、でもひとつだけ約束して。これから案内するルートは、絶対に秘密にして欲しいの。多分だけど、ジャーナリスト的には特ダネ中の特ダネだと思うのだけれど……」
「おお、任せてくれ。口は堅い方だし、友人を売るような真似はしないよ」
「良かった。あなたを信じるわ」
「そういや、“自慢のコーヒー”も、まだ頂いてなかったな」
「ふふふっ、ご馳走するわよ? リリス、乗員一名追加ね!」
『(了解、マスター。運賃を頂けないのは残念です……)』
☆
レムリアス艦内:コクピット――
「よっ! リリス! 数日ぶりだな。またお世話になるぜ!」
『歓迎します、ギルバート。またお会いできて光栄です』
サブモニターには、封鎖中の航路と、リリスが算出した非正規の航路が映し出されていた。
『途中の安全性は保障できませんが、ゼル星系への最短ルートを確保しました。……進路設定、完了。いつでも出発できます』
「やっぱり、運び屋のルートってのがあるのかい?」
ギルバートは興味深げにモニターを覗き込んでいる。
「んー……っていうか、この船、レムリアスの秘密の一端を披露するわ。みんなにはナイショよ?」
あたしは得意げに口角を上げて見せた。
「まずは出発しましょう。レムリアス、発進――!」
☆
エルラド星系:正規航路外宙域――
レムリアスは静寂の中を進んでいく。
『ワープドライブ、起動しました。座標の設定……、……、完了。グラビティキャンセラー展開。ワープドライブ、臨界到達。いつでもワープ可能です』
「ちょ、ちょっと待ってくれ。レムリアスって、単独でワープできちゃったり……しないよな?」
「言ったでしょ? “レムリアスの秘密の一端を披露する”って。リリス、座標固定。ワープ起動!」
『了解。全システム、オールグリーン。カウントダウン開始、3、2、1――』
「おいおい!? うそだろぉぉおおお――!?」
外部モニターに映っていた星空が、光の線となって引き伸ばされていく。
船体は時空の狭間を滑るような、奇妙な静寂と微振動に包まれた――
☆
『ワープ完了。座標を確認……、……、ゼル星系・惑星モルディまで、約9AUの位置にいます』
「マジかよ……。ワープドライブってなぁ、えらく巨大で……超弩級戦艦にしか搭載できないんじゃなかったのか?」
「あたしのレムリアスは、特殊なのよ」
「そうなんだな……船も特殊なんだろうけど、リリスも……だよな。当たり前のように会話してたけど、AIだってこと忘れちまうほど人間味がある。あり過ぎる」
『誉め言葉と受け取ってもよろしいでしょうか』
「ははは、もちろん、良い意味で、さ!」
『ありがとうございます、ギル。マスター、休憩室のほうに、とっておきのコーヒーをご用意いたしましょうか』
「そうね。モルディまでは、まだ少しあるし、お願いするわ」
「お! “自慢のコーヒー”ってやつか!? 俺ぁ本物のコーヒーに目が無くてね~」
「ふふ、気に入って頂けると良いわね。ギル、こっちよ」
微妙な距離にワープアウトしたのは、少しでも長くギルバートと過ごせるように気遣ってくれたのかしら?
本当にリリスってば――。
胸の奥が、ほんのり暖かくなるのと同時に、ちょっとだけ鼓動が高くなった気がした。
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コクピットの窓の向こうには、まだ遠い惑星モルディが小さく光っていた。




