報告と
リンはレイと共にお城へ来ていた。陛下へ謁見する為だ。銀髪から黒髪へとなったリンは、迷いが吹っ切れたかのように堂々としていた。
「ランドゥの国の姫が見つかったらしい!」「生きていたのか……!」「魔導士のレイ様が連れ立っているそうだ」
噂は城から、そのうちに町へも届くだろう。
「面をあげよ」
リンが顔を上げる。
「おぉ! リン姫! 大きくなって……」
陛下は涙を溜めている。隣のお妃はこちらに駆け寄ってきた。
「生きていたのね……無事でよかった!」
「ありがとうございます。ご心配をお掛けして、申し訳ございません!」
「いいのよ。事情があったのでしょう?」
妃はリンを抱きしめて泣いた。
その様子をレイは後ろで見つめていた。
今までの事情を伝え、報告を終えたニ人。ロン殿下とマドカも交え、談笑していた。
「リン姫は、ヒーラーの素質があるのだな。しかも魔導士を目指すとは……。レイ良かったな」
陛下は、かつての婚約者同士が並んでいることに、感慨深い視線を送った。
「はい。リンは、私が長年追っていた魔法使いを、自分で捕まえてしまいました。きっと、魔導士試験も容易く合格するでしょう」
レイが紅茶を飲みながらさらりと言う。
「それにしても、ロンも知っていたなんて……」
妃がロン殿下をじっと見る。
「すみません母上。兄から口止めされていたので」
ロン殿下はニコニコと、全く悪びれていない笑顔を振りまいた。
「リン姫はレイの屋敷にいるのよね? 城へ戻る気はないの?」
妃が優しく声をかける。
「はい。レイ様に魔法の特訓もさせてもらっていますし……」
「母上、リンを連れて行くのは私が容認しません」
レイが口を挟む。
「レイ様……」
そんな主人に頭を抱えるマドカ。
「まぁ! レイは昔からリン姫の事になると頑固なんだから!」
妃は楽しそうに笑った。レイの隣りで赤くなるリンだった。
◇
「陛下とお妃様へご報告できて良かった……」
リンはほっと胸を撫で下ろす。
「そうだね。二人とも喜んでていたね」
レイは空を見上げた。
「あの……レイ?」
リンがレイのローブをそっと握る。
「ん? どうしたの?」
レイが優しい瞳でリンを見つめる。
ああ、私……レイのこと……好きなんだ。
リンは不意に、自分の気持ちに気が付いた。
「あの、私、レイのこと……」
「ふふふ」
笑ってリンに向き直るレイ。リンの肩を掴むと、そっと顔を近づけた。
「……す」
突然、リンに口付けするレイ。
「……ごめんね。我慢できなかった」
レイが微笑む。リンは顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。
「それで? 私のこと好きなの?」
レイがぐいぐい聞いてくる。そうなのだが、確かに間違っていないのだが……!
「な、なんで私の告白を遮るのよ——!」
「ふふふ。だから、リンが可愛くて我慢できなかったんだよ。ごめんね?」
全く悪びれていない謝罪である。
二人は仲良く家へと帰るのであった。
◇
学園祭の事件から数日が経った。
その後、ライアンは事情聴取を受け釈放された。人質を取られて脅されていた事、まだ少年という事で、しばらく監視は付くが母と弟と暮らせるようだ。魔法学園は自主退学するそうだが、「自分の力で魔導士を目指すよ」と前を向いていた。きっとそのうち、最年少魔導士として名を馳せるだろう。
リンは迷っていた……魔法使いは捕まり、脅威は去った。マーサの事も大丈夫である。もう銀髪にする必要はないが、黒髪だと言うことが知られれば、学園中に王族だと言うことがバレてしまう。それに、レイとの関係も……。
エマとカナタには事情を話したい。魔法学園を退学するにしても、言おう! 勇気を出して、言うの!
「リン〜お客様ですよ」
マーサの声が聞こえる。
誰だろう?
「はーーい……」
応接室へ入ると、そこにはエマとカナタが座っていた。
「ふ、二人とも、どうしてここへ!?」
リンは目を白黒させる。負けじとエマとカナタも驚いて固まっている。
「えっと、招待されて……」
「私も……」
カナタが手紙を見せてくれる。それはお茶会の招待状であった。差出人は……レイ?
「これが昨日届いてね。しかも烏が持ってきたのよ! これは本物だと思って、ここの住所に来たの」
「僕もだよ! これは魔導士様に会えるチャンスだと思って来たんだけど……」
「……なんでリンがここにいるの?」
カナタが首を傾げる。
「それに、その髪色……瞳も……」
エマが口を開けたまま、リンを見て固まっている。
リンはしどろもどろである。
「あ、えっと……それは」
どうしよう? さっきまで打ち明けようと思ってたのに、勇気が……
「二人共、よく来たね」
二人の顔がパァッと明るくなる。リンが振り返ると、戸口に寄りかかったレイが立っていた。
「レイ様!」「魔導士様!」
エマとカナタが頬を染める。
「実は、リンから二人に話があるんだ」
「わ、わたし!?」
レイがリンを見て大きく頷く。レイにはお見通しだったらしい。
「レイ……ありがとう」
リンは二人に向き直る。
「エマ、カナタ。……実は私、ランドゥの国の姫なの! あと、レイは私の婚約者ですっ!」
一気に話すと、リンはそっと二人を見た。
エマとカナタは、驚きで固まっている。
「……あの、今まで黙ってて、ごめんなさい」
リンが頭を下げる。
「リン! 謝らないで、いいのよ。驚いただけ! 別に怒ってないわ!」
エマが駆け寄ってきた。
「そうか。リンはお姫様だったのか……レイ魔導士様が婚約者、ほぇ〜」
カナタは放心状態だが、ハッと我に帰りリンを見た。
「そうだよ! 謝る事なんてないよ? リンはそうしないといけない事情があったんでしょ? ……ライラの事は聞いてるからさ」
「そっか……。ありがとう二人とも。ライラにも、また会いに行こう!」
リンが二人を元気づける。
「そうだね!」
カナタがメガネを直しながら、大きく頷く。
「騙してたこと、文句言わないとね!」
エマも笑顔で頷いた。
「……よかった。じゃあ、招待した通りお茶にしようか! マドカ頼む」
レイが呼ぶと、マドカがお茶と美味しそうなお菓子をを運んできた。
「……あれ? 以前にもお会いしました……?」
エマがマドカを見て目を丸くしている。
「エマ殿、ご挨拶が遅れて申し訳ないございません。私、レイ様の弟子兼従者のマドカと申します。ロン殿下の級友でもあります」
「そうだったの……ってことは、リンは」
「ごめん! マドカの事は知ってました!」
リンが頭を下げる。
「ちなみに、ロン殿下は私の弟だよ?」
レイが美しく微笑む。
「そ、そうだったの……」
エマは小さく呟いた。
夕日が赤く染まる。お茶会はお開きになった。
「じゃあ、今日はありがとう!」
「ご馳走様でした」
二人を見送るリンとレイ。
しかし、エマとカナタが振り返り、顔を見合わせて何やら立ち止まっている。と、こちらに戻ってきた。
「どうしたの?」
リンが訊ねる。
「……リンは学園続けるの?」
二人が心配そうな顔でリンに問いかけた。
「えっと……」
下を向くリン。
私は通いたい……でも、きっと難しい……。
「あのね、私は、学園に通いたいけど……それは——」
「リンは実践以外の知識がまだまだ足りないんだから、学園は通い続けた方がいいんじゃないかな?」
と、レイが助け舟を出した。まぁ、もっともな正論なのだが……
二人がほっとした顔をした。
「よかった!」
カナタが声を上げる。
「ライラもいなくなって、リンまで辞めちゃったら悲しかったの!」
エマはリンの手をギュッと握った。
「じゃあ、また学園でね!」
二人は大きく手を振って帰って行った。二人が見えなくなるまで見送ると、リンはレイの手を握った。
「レイ! 大好き!」
リンは最高の笑顔でレイに笑いかけた。レイはリンを愛おしげに見つめるのだった。
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