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魔王の守人  作者: 木賊苅
閑話
33/33

聖誕祭

「何か、やけに騒がしくねぇか?」


 食堂の隅で昼食をとっていた煌は、正面で麺を啜っていた友人に、そう唐突に問い掛けた。

 近頃マイブームになっている小麦で作られた太めの麺を、はふはふしながら啜っていた莉央は顔だけを上げた。ずるる、と麺を口の中に吸い込み咀嚼し、ごくりと飲み込む。


「そりゃあ、明後日はシュトス・カリムの聖誕祭だもん」


 浮足立って当然でしょ、と返す莉央に、煌は首を傾げた。それに莉央は固まる。

 まさか、まさかとは思うが…………


「煌君、もしかして、シュトス・カリムの聖誕祭、知らない?」


 大きく一つ返された頷きに、莉央は箸で掴んでいた麺を汁の中にぼちゃりと落とした。跳ねた汁を慌ててテーブルに備え付けられている紙ナプキンで拭う。

 イベント事に疎いとは思っていたが、名前すら知らないとは。


「だって、煌君、町とかそれこそ校内の掲示板とかに貼り紙あるし、クラスで話題に上がるでしょう!?」

「町行かねぇし、掲示板なんざ見ねぇし、五月蝿いからクラスにゃ近寄らねぇし」


 つーかこの時期は空気がウザくて毎年山に篭ってんだよ、今年は何でかユーファや理事の野郎に止められたから行ってねぇけど。

 出来るものなら今からでも篭りたい、と言わんばかりの煌の表情に、莉央は愕然とした。そこまで人の集まりを避けなくても、と思うが、夏までの彼女にとって人混みを苦手とすれど、好む筈がないこともわかり、何とも言えない感情が胸を占める。

 本気でわかっていない様子なので、とりあえず気を落ち着けるべく深呼吸し、箸を丼の縁に置いた。


「シュトス・カリムの聖誕祭っていうのはね、数十年前に他大陸から伝わった、冬のイベントなの」


 何でも、聖人と呼ばれた回復魔術に秀でた人物の誕生日を祝うものらしく、親しい者で集まり、楽しく飲食を共にし、プレゼントを送りあう。


「最近、赤や緑で学校が飾り付けられてるでしょう?聖誕祭の為のなんだよ?」

「ふーん?」

「…………あまり興味ない?」


 煌君が聞いたのに、と意識が逸れているような生返事に唇を尖らせると、彼女はきょとん、と目を瞬かせた。あぁ、と声を漏らし、決まり悪げに頭を掻く。


「や、興味ねぇわけじゃねぇんだけど。何か、似たようなモンを母さんが家でやってたなぁ、て」

「煌君のお母さん?」


 今度は莉央が目を丸くする番だった。

 煌の母親といえば、異界からやってきた異人だ。異界にも似たような催し物があるということに興味がわく。

 莉央は少し身を乗り出した。


「どういうの?」

「おおむね同じ。有名人の誕生日で、飲んで食って騒いで、前日の夜のうちに赤い服着た爺さんが家に不法侵入してガキにプレゼントを置いてくっつー」

「えーと………」

「ま、母さんの主観だからきっとどっか歪んでると思うけどな」


 反応に困る莉央に肩を竦める煌。はは、と莉央は乾いた笑いを返す。何て不用心な世界だ。その世界では魔術が存在しなかったと聞くが、だとしても不用心すぎる。


「でも煌君、本当に知らないの?この学校、全校生徒参加のパーティーあるのに」

「パーティー?…………あぁ、あれってそのシュトなんたらってのなのか」


 初めて知った、と感心した声を出す煌に莉央は耐え切れずため息を吐いた。だってあまりにも酷すぎる。


「聖誕祭の夜は恋人と過ごすと幸せになれるって、女の子の中じゃ定番なのに」


 煌とて立派な女の子だというのに、この興味のなさ。それオレに関係あるのか?とでも言いたげな表情。いや、オレには関係ないだろ、とたった今言いきった。

 このままだと、駄目だ。自分が何とかしなければ。でなければ絶対に、将来困る。

 妙な使命感に駆られた莉央は、ぐっと膝の上で拳を握り決意を固めた。

 煌の性質を損なわないよう、出来る限り彼女の中の女の子を取り戻させる。それは、同年代でありで同性の友人である自分の役目だ。

 汁だけになった丼を脇にどけて腕を伸ばし、がしっと机に置かれた煌の片手を両手で掴む。


「煌君、明後日の煌君の時間、私にちょうだい」

「………は?」

「ちょうだい」


 ずいと身を乗り出し真顔で告げた莉央に、煌は反射的に頷いた。

 二日後の昼過ぎ、この時頷いたことを心底後悔することを、彼女は知らない。











 シュトス・カリムの聖誕祭当日。桐ケ谷魔道学園の講堂は、普段のわずかな日光が薄暗い室内を照らしているという様相とは、この日ばかりは一変していた。

 天井付近に浮かぶ燭台の蝋燭に灯った淡い光は、室内を隅々まで照らし、壁などは赤や緑といったカラーリングで飾り付けられている。壁際には様々な軽食やデザート、お菓子などが盛られたテーブルが並んでいた。そして極めつけは、その場に集まった生徒たちの装いである。

 白と黒を基調にした制服と学年別のマントという形式ばったものではない。男子はタキシードや燕尾服、女子は色とりどりのドレスでその身を飾っていた。ある者は壁際で皿やグラス片手に談笑し、ある者は男女で身を寄せ中央に空いた空間で流れる音楽に身を任せてステップを踏んでいる。

 桐ケ谷魔道学園にて恒例となっている、シュトス・カリムの聖誕祭の日に行われる夜会である。衣装も飲食物も、全てを学園側が提供するため、生徒達は参加するだけでいい。衣装のカタログがHRで配られるなど、この学園の三大イベントの一つとなっており、毎年主催する学園も参加する生徒も各々準備に力を入れて臨んでいる。

 そんな場にそぐわない、物騒な空気を醸し出している者が一人。


「なぁルシア。もうちょい愛想よく出来ひんの。ガキ共がビビッとんやけど」

「だから?」

「うん、まぁ、そやな」


 ホンマ煌ちゃん好きやなぁ、とぼやくカークの格好も、いつもの機動性重視な物と違い、軍服を着崩した物で、額のバンダナは外されて前髪は後ろに撫で付けられていた。一方のルシアは普段と変わらぬ黒ずくめ。

 そんな二人の周囲には、誰一人として近付く者がおらず、結構な広さの空間が出来ている。夏季休暇前の終業式での出来事によって、煌に関する噂は好転したが、ルシアに関しては未だに恐れを抱いている者の方が多数を占めているのだ。


「………それで、」


 いつまで引き止めるつもりだと、壁に背を預けて立つルシアが不機嫌を隠さずカークを睨む。

 何故かアルスが今日は丸一日休みを与えてきた――その分、ここ三日程の仕事量が凄まじいものだったのだが――ので、土産を携え人間界に来たルシア。しかしいつものように学院の中庭に現れた瞬間、何故か待機していた着崩しながらも正装なカークに捕まり、煌に関するいいものを見せるからと土産も何だかんだで取り上げられ、そのまま解放されずに催し事をしているらしい講堂に引きずって来られ、現在も押し止められている。彼の機嫌は下がっていき、空間も広がっていく一方だ。

 殺気混じりの魔力を近くで浴びているカークは、ふるりと背筋を奮わせながらもへらりと笑ってみせる。


「もうすぐ、来る思うで?」


 要領を得ない返答に、ルシアの眉間に深い溝が出来た、その時。聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「カーク、いた!」


 瞬間、傍らに立つカークの身に纏う空気が柔らかさを帯び、満面の笑みがその顔に浮かんだ。守人が傍にいるのといないのとで違うのは、彼も同じである。


「莉央」

「もうっ、わかりやすいとこにいてって言ったのに!」

「わかりやすいやろ?」

「ぅ、それはそうだけど…………」


 事実、これだけの人数がいる中でこれだけの広さの空間があれば非常に目立つ。

 カークの守人である莉央もいつもの制服姿ではない。サーモンピンクの膝丈シフォンワンピースにアイボリーのストールを羽織り、足元はレースのリボンが足先についた、ワンピースより少し赤みの強い色のストラップ付きパンプス。普段は背中に真っすぐ流されている亜麻色の髪は少し巻かれ、レースで出来た髪飾りで結い上げられている。うっすらと化粧も施されているのか、頬はほんのり色づいていた。

 彼女を上から下まで見たカークは、にっこりと破顔する。


「かわえぇなぁ、莉央」

「ふふっ、ありがとう。でもね!」


 礼を告げた莉央は、見てほしいのはこっちなの!と繋いでいた手をぐいと引き、背後にいた人物を隣に引きずり出した。

 裾にいくほど薄くなる青いグラデーションのかかったマーメイドドレスに、肩に羽織った紺の薄衣(うすぎぬ)からはうっすらと肌が透けている。足元は薄衣と同色のヒールの高いサンダル、肩につかない長さの白銀の髪は左のサイドを器用に編み込まれ、青い大きな花の髪飾りが飾られている。何処か居心地悪そうに歪められている顔は、莉央と同じく化粧が施されていた。


「………煌?」


 ルシアが茫然と少女を見たのちぽつりと呟くと、その肩がびくりと揺れる。頑なに目を合わせようとしない彼女は、うろうろと視線を泳がせたかと思うと、傍らの莉央を見下ろした。元より十センチ以上の身長差は、彼女の方がわずかに高いヒールの物を履いているせいで更に開いている。

 間違いない。彼女の持つ色彩はそう見るものではないし、魔力は彼女がルシアの守人であると告げている。そもそも、彼が間違えるはずもなかった。

 しかし、何故、そのような格好を?


「ふっふっふ、煌君、キレイでしょう?」


 煌の腕に抱き着き誇らしげに胸を張る莉央に、カークは大きく頷いた。


「ホンマ見違えたわぁ。煌ちゃんも立派な女の子やったんやなぁ」

「目潰れろバカーク」

「バカーク!?」


 腕を組み、満面の笑みを浮かべた莉央をくっつけた煌は、ふんと鼻を鳴らし大袈裟に衝撃を受けるカークを睥睨する。見た目が変わっても中身はまったく影響を受けていないようだ。


「煌」


 焦れたルシアが名を呼べば、再びその肩を揺らした彼女は、ちらりとその蒼い瞳を彼へと向けた。が、すぐにまた逸らしてしまう。


「煌?」


 何故そうも頑なに目を逸らすのか、と困惑の色を乗せた声に、うぅ、と小さく呻き声を漏らす煌。煌君、と莉央に何度か促され、彼女はようやくルシアを正面から見た。口をヘの字に歪め、目の縁をうっすらと赤く染めながら彼を睨みつける。


「…………言っとくけど、オレが好き好んで着てるわけじゃねぇからな」


 断じて違う、莉央とユーファが、仕方がなく、ともごもご告げる様子は、元来はっきりと物を言う彼女の本来の姿とは掛け離れている。

 しばらくぶつぶつと呟いていた煌だが、次いで深いため息をつくとがっくりと肩を落とし、へにょりと眉尻を下げた。


「柄じゃねぇのも、似合ってねぇのも自覚してっけど。二人が、この格好したらお前が喜ぶって言うからさ」


 何だよ全然喜ばねぇじゃん、恥晒しただけかよ馬鹿みてぇ、と毒づく彼女の耳は目尻と同じく赤く染まっている。

 着替えてくる、とそのまま踵を返した煌に莉央が慌てて縋り付くのと、ルシアの隣に立つカークが彼の脇腹を肘で突いたのはほぼ同時。

 大きく一歩踏み出したルシアは、かつかつと慣れない様子で歩き出した煌の肘を掴み無理矢理引き寄せた。ぅわっ、と小さく悲鳴を上げる彼女の背を自身の胸に押し付け、腹部に腕を回して逃亡を防ぐ。

 ほ、と微かに安堵の息を吐いた煌が、軽く身をよじって背後を振り返り、眼光鋭く睨み上げた。


「おっ、まえなぁ………!こちとら慣れねぇ靴履いてんだから、こけたらあぶね「似合っている」………は、」

「似合っている。綺麗だ」


 ヒールの分近くなった顔をまっすぐに見つめ言うと、ぽかんと呆けた顔が勢い良く赤く染まっていった。な、な、と口を震わせ硬直している煌に首を傾げると、肘を掴んでいた手で青い花の髪飾りをそっと触れる。縁が波打つリリーユのような形状のそれは、今回ルシアが魔界から土産として持ってきた煌への贈り物だ。予想していた通り、白銀の髪によく映えている。

 普段の男物の服の格好には合わないことがわかっていたが、彼女の瞳の色だと思ったら気付けば購入していた。なるほど、このような姿なら問題ない。

 例え他の者の手で渡されたのであろうと、自分が贈った物を着けてもらえて嬉しい。しかも、偶然とはいえ贈った物に合う、普段の彼女なら絶対にしないような格好を、自分が喜ぶだろうからとしてくれて。

 胸の奥があたたかい何かに満たされる。


「綺麗だ、煌」


 心の底からもう一度そう告げた瞬間、物凄い勢いで口が塞がれた。


「わ、かった………わかったから、頼むからお前、ちょっと黙れ」


 完全に身を反転させた煌が両手をこちらの口に押し付け、上目に睨みつけてきている。顔は赤いままで、何故か目も潤んでいるのだが、ルシアの癖に、とはどういう意味だろうか。

 とりあえず必死に目で懇願してくる彼女に頷いた。それでも口元の手は離れない。


「………王様って、笑うと破壊力凄いね」

「普段が無表情やからなぁ………わいも初めて見たわ、微笑むルシア」


 何なんアレ、ゲロ甘すぎやろ砂糖吐くわ。ホンマどんだけ煌ちゃん好きやねん。

 はわぁ、と感嘆する莉央とうんざりした様子のカーク。そんな二人が後方でこそこそと会話する声はどうでもいいが、目の前でぷるぷると震え出した煌のことが気になる。


「煌」


 髪飾りに触れ中途半端に上げていた手を腰に添えて名を呼べば、彼女は視線を床に落としそろそろと腕を下げる。


「…………二度と、着ねぇ」

「何故?似合っている。お前の色だ」

「んなこと言うの、お前らぐらいだっつの。どう見ても、男が女装してる間抜けな格好じゃねぇか」

「?元より女にしか見えないが」

「目悪いんじゃねーの、ルシア。つかお前オレのちいせぇ頃知ってんじゃん。その頃はワンピースとか着てたし、それでだろ」


 道中どれだけ目ん玉ひん剥かれたか知らねぇだろ、と言葉を交わす内にいつもの調子が出て来たのか、煌は腕を組みルシアをまっすぐ見返す。ルシアは二つの蒼が自分に向けられている事に満足し、しかし褒め言葉を受け入れない彼女に不満を抱いた。

 似合っていると、綺麗だとそう思っているのは事実なのに、何故信じてもらえないのか。

 歯痒い想いを口に出来ず黙り込んでいた、その時。あ、と莉央が声を上げた。腕の中の煌がそれに反応し、くるりと体の向きを変える。そして目に入った人物に、お、とこちらも声を漏らした。


「先輩とアリア」


 薄緑のワンピースを着た小さな少女と、着苦しそうにしている黒いタキシード姿の男子生徒が、こちらを見て目を見開いていた。食事に集中していたのか、二人の手にはそれぞれ皿とグラスが握られている。うろうろと視線を泳がせたかと思えば、男子生徒、柳陰隼はおずおずといった様子で近付いてきた。その後に誓人であるアリアが続く。


「周防、と………」


 不機嫌を隠そうともしないカークの背に隠れた莉央を気まずそうに見た隼は、次いでルシアに背後から抱き着かれているような煌に目をやり、困惑の表情を浮かべる。


「柊、だよな?」

「以外に見えるか?先輩」

「何度も言うが、隼でいい。いや、見えないが………」

「アンタが卒業するまで止めねぇ。ほら、これが正しい反応なんだよ。違和感しかねぇだろうが」

「ぁ、いや、違う」


 自分の言葉は正しい、と言わんばかりに胸を張った煌に、隼は即座に否定する。


「綺麗だから、逆に普段が勿体ないと思ったんだ」

「そうよ!信じらんない、アンタ何であんな格好してるわけ!?アレがこうなるなんて詐欺でしかないわ!男装が似合う上に女の格好させても似合うなんて、女なのに女に対する宣戦布告のつもりなの!?」


 隼の言葉を掻き消すように叫んだアリアの第一声はそれだった。正直わけがわからない。

 勢いに飲まれた煌がぱちくりと瞬く。


「えーと………つまり?」

「似合ってる、てことだろうな。アリアに同感だ、俺もその………よ、よく似合ってる、と思う、柊」

「あー………どうも?」


 耳を赤くし、吃りながらも言い切った隼に、煌は居心地悪そうにしながらも素直にその言葉を受け取った。それがルシアには何だか面白くない。正体のわからぬ不快感に思わず腕に力を入れれば、現在両腕は煌の腹部に回されている為、ぐいと彼女の体を自身に押し付ける結果となる。ルシア?と首だけで振り返った煌に名を呼ばれ、そこで自身の一連の行動に気付いた。

 無意識の行動で、自分のことなのに理由がわからない。さてどう返すべきかと煌の顔を見つめながら考えていたところに、ねぇ!と莉央の声が割って入った。


「もうすぐ曲変わるし、煌君、王様と踊ってきたらどう!?」

「はぁ~?」


 煌の意識が莉央へと逸れ、顔もそちらの方へと向けられる。それにホッとする自分と残念に思う自分がいることに、ルシアは内心首を傾げた。煌の傍にいれば感情的になりやすい自覚があるが、今までにない感情の動きに理解が追いつかない。


「オレが社交ダンスなんつー高尚なモン出来るわけねぇだろ」

「大丈夫、女側は男役の人に着いていくだけでいいから!煌君運動神経いいから問題ないよ!」

「いや、つーかオレもだけどそれルシアも出来ねぇとダメじゃねぇか」

「ルシアは出来る思うで?見たことないけど、仮にも生まれながらの王族やし」


 自分の名が呼ばれたのに顔を向けると、煌、莉央、カークの三人が無言でこちらを見つめていた。煌のみに目を向け、一つ頷く。


「簡単なものなら」

「出来んのかよ…………」


 裏切り者めと目で語る煌に、自然表情筋が緩んだ。するりと腹に回していた腕を解くと、一歩下がって左手を差し出す。


「踊ってくれるか、煌」


 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた煌は、がくりと肩を落とした。せめてもの反抗なのか、手を重ねる時はべしんと勢い良く叩き付けてくる。


「オレが失敗してもてめぇのせいだぞ、ルシア」

「お前に恥はかかせない」

「けっ、どうだか。言ってろバァカ」

「当然だろう。俺はお前の、誓人なのだから」


 緩く手を引き、二人で中央の広場に歩み出る。踊っている間は、二つの蒼は自分だけに向けられている。それは凄く、魅力的なことだと思えた。











(オマケ)


「燁子さん、皇夜さん、鬱陶しがられながらも蝶よ花よと育ててきた煌ちゃんがようやくっ、ようやく女の子らしく着飾ってくれたよ………っ!やっぱり二人の子供だよね凄く美人だあぁでもそれで変な輩に目をつけられないか心配で心配でもう僕気が気じゃない………………っ!!」

「主人、先生方と生徒の方達の前です。咽び泣くのは部屋に戻ってからにしませんと、理事としての威厳が………今更ですね」





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