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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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16/102

第16話:【喉仏ミュート】見参未遂ニキ大バズりと、お姉ちゃんの手形チェック

※リメイク版として第1話から投稿中です。

【悲報】ヒーロー見参ニキ、名乗りをセルフミュートして失敗する【見参未遂】


1:名無しの探索者

ステラライブの再検証配信、また黒銀のニキが出てきてゴーレム粉砕してて草。

しかも今度は、自分の喉を締め上げながら「見参、未遂だッ!」とか叫んでたんだがwwww


2:名無しの探索者

見参は未遂。出演は現行犯。


3:名無しの探索者

本人が名乗りをキャンセルしようとして失敗した説。


4:名無しの探索者

なお、戦闘力は一切キャンセルされていない模様。


5:名無しの探索者

軽自動車サイズの拳を素手で止める。数トンの結晶板を蹴り飛ばす。スタッフ全員無傷。

本当に何者なんだよ。


6:名無しの探索者

しかも結晶板、ただ蹴っただけじゃない。人がいない壁側へ飛ばしてる。


7:名無しの探索者

最後もゴーレムを外側へ爆散させず、内部から粉塵にしてた。あれ、周囲に破片を飛ばさないためだろ。

普通に壊すより何倍も難しいやつ。


8:名無しの探索者

安全第一(物理)

物理で安全を実現するな。


9:名無しの探索者

強いというより、頼もしい。


10:名無しの探索者

身体のラインも頼もしい。


11:名無しの探索者

帰れ。


12:名無しの探索者

それより最後の「達者でな、レディ」が強すぎる。


13:名無しの探索者

見参はキャンセルしてもレディは言う男。


14:名無しの探索者

ヒーロー見参ニキ

↓

見参未遂ニキ

↓

安全第一物理ニキ

↓

達者でなレディ

↓

喉仏ミュートニキ

名前が増えすぎ。


15:名無しの探索者

本人、めちゃくちゃ嫌がってそうなのがまた良い。


16:名無しの探索者

それに比べて、赤城レオンさんさぁ……。


17:名無しの探索者

安全確認を怠って危険ルートへ連れていく

↓

ボスを出す

↓

支柱を折る

↓

逃げる

↓

戦術的撤退(笑)

↓

後方で指揮を執っていたと釈明

役満では?


18:名無しの探索者

レオンは危険から逃げる。見参未遂ニキは正体バレから逃げる。後者も十分情けないのに許せるのは、助け終わってから逃げてるからだな。


19:名無しの探索者

ハルカちゃんが「玲司?」って言った瞬間に消えたの気になる。


20:名無しの探索者

玲司って誰?


21:名無しの探索者

ハルカちゃんの弟。雑談でたまに出てくる無職。


22:名無しの探索者

いやいやいや。さすがに無職の弟がダイヤモンド・ゴーレムを粉塵化するわけないだろwww


23:名無しの探索者

無職はゴーレムを粉塵にしない。これは社会常識。


24:名無しの探索者

職業・筋肉かもしれない。


25:名無しの探索者

結論。赤城レオンは説明しろ。見参未遂ニキは公式チャンネルを作れ。


「……作れるか、ボケナス」


 深夜。実家のリビング。俺――黒瀬玲司は、大型掲示板のまとめスレッドを見ながら深いため息をついた。


 ネット民の考察班は相変わらず優秀だった。俺が名乗りを嫌がっていること。破片を飛ばさないように戦っていたこと。正体を隠すために逃げたこと。だいたい合っている。


 やめろ。当てるな。


 ただ、最後に「無職の弟なわけがない」と結論づけてくれた点だけは救いだった。この偏見が今の俺を守っている。探索者人生で、無職への偏見に感謝する日が来るとは思わなかった。


 俺はただの無職仮。心が乾燥した短期裏方スタッフ。ついでにAランク探索者。最後だけは言えない。


「しかし、見参未遂ニキって何だよ……」


 ヒーロー見参ニキだけでも致命傷だった。安全第一物理ニキは、俺の方針に近いので百歩譲る。喉仏ミュートニキは、人体の部位をあだ名に入れるなと思う。職業・筋肉に至っては、人間ですらない。


 だが、達者でなレディ。これは無理だ。


 なぜ最後にレディを付けた。俺の口よ。なぜそこだけ能力へ敗北した。


 スマホを伏せる。三秒後、気になってまた見る。自傷行為だ。


 画面には、すでに切り抜き動画が並んでいた。


【喉仏ミュート】黒銀ヒーローが戦闘中に自分の首を絞めた理由が尊すぎる


【安全第一物理】ダイヤモンド・ゴーレムを粉塵にした衝撃制御がヤバい


【達者でなレディ】語彙が古すぎる謎ヒーロー、二度目の逃亡


「尊くない。恥ずかしいだけだ」


 やめておけ、と未来の俺が警告している。だが現在の俺は、好奇心と恐怖が混ざった最悪の指で画面を進めた。


【検証】黒銀ヒーローはなぜ名乗りを嫌がるのか?


【比較】一回目と二回目の黒銀スーツ、密着度に変化はあるのか


「最後の動画を作った人間は前に出ろ」


 説教する。大人として。ただし心の中では正座させる。


 密着度を数値化するな。俺の尊厳を研究対象にするな。


 画面上部に新しい通知が出る。


【アンケート:黒銀ヒーローの弱点は喉仏なのか】


「俺の精神を先に分析しろ」


 スマホを伏せる。今度こそ見ない。


 ガタッ。


 リビングのドアが開いた。俺は反射的にスマホを裏返す。


 現れたのは姉貴だった。昼間はステラライブの看板VTuberとして再検証配信をやり遂げた女が、今はもこもこのパジャマ姿で髪をゆるく結んでいる。


 ただし、目だけが普通ではない。獲物を見つけた肉食獣の目をしている。


 やめろ。夜中にその目で弟を見るな。


「……あ、玲司。まだ起きてたんだ」


「ああ」


 俺は極めて自然に答えた。


「明日の機材搬入リストを確認してた」


 嘘である。見参未遂ニキの掲示板を見て、自分の心を自分で削っていた。


 だが、短期スタッフらしい言い訳としては、なかなか自然だ。


 姉貴はテーブルを挟んで正面へ座った。姉弟としては普通の距離。今の俺には取り調べ室だ。


「ふーん」


「何だよ」


「別に」


 別に、の顔ではない。


 姉貴の視線が俺の首元へ落ちる。俺はパーカーのジッパーを顎まで上げていた。いつも通りすぎて、逆に怪しい。


「玲司。フード取って」


 心臓が嫌な跳ね方をした。


「何でだよ」


「いいから」


「部屋が冷える」


「暖房ついてるよ」


「心が冷える」


「そういう逃げ方する時、だいたい何か隠してるよね」


 鋭い。普段はコンビニへ行って別のコンビニから帰ってくる女とは思えない。


「あと、ジッパーも下げて」


「嫌だ」


「どうして?」


「防寒」


「首だけ?」


「首は大事だ」


「今日のヒーローさんも、自分の首をすごく大事にしてたね」


 終わった。


 いや、まだ終わっていない。ここで動揺したら負けだ。


 俺はAランク探索者。七年生き延びた男だ。姉の手形チェックくらい乗り切れる。


 ……たぶん。


「玲司」


 姉貴の声が少し低くなる。


「お姉ちゃんの命令」


 やめろ。その言い方は地味に効く。二十三歳の成人男性に効いてはいけない。だが効く。シスコンではない。長年の姉弟関係による条件反射だ。


 それに、拒否し続ける方が不自然だった。


 俺はため息をつき、フードを外してジッパーを鎖骨の辺りまで下げた。


 姉貴の視線が喉元へ固定される。


 しまった。思ったより赤い。


 昼間、名乗りを止めるために自分で全力ミュートした跡だ。喉元へ、うっすらと指の形に近い赤黒い痕が残っている。


 セルフ喉仏ミュートの代償。人類史上、一番情けない負傷理由かもしれない。


 姉貴の息が止まる。


「……これ」


 いつものからかう声ではない。心配が混じっている。怒られるより、笑われるより、心配されるのが一番困る。


 姉貴が身を乗り出す。


「やっぱり、手の跡だよね」


「そうか?」


「誰かに絞められたの?」


「違う」


「じゃあ何?」


 俺は落ち着いて答えた。用意してある。百点満点の言い訳が。


「昼間、撤収作業中に結晶板が落ちてきた。避けようとした時、チーフマネージャーが『危ない!』って、俺の襟首を後ろから全力で引っ張った」


「……チーフが?」


「そう。その時の跡だ」


 姉貴の目が細くなる。かなり疑っている。


 だが、ここで重要なのは嘘の完成度ではない。嘘を現実にする根回し力だ。


 明日、チーフマネージャーへ頼めばいい。あのいい人すぎるチーフなら、きっと困惑して、理由を聞いて、最後は頭を抱えながら話を合わせてくれる。


 裏方同士のビジネス的信頼関係。別名、口裏合わせ。社会とはそういうものだ。


「チーフ、そんなに握力強かった?」


「見た目に反して強い」


「眼鏡なのに?」


「眼鏡と握力は関係ない」


「玲司より?」


「俺よりは弱い」


「自分の握力は認めるんだ」


 しまった。細かいところを拾ってくる。姉だけに。


「……てっきり」


「てっきり?」


「あの見参未遂のヒーローさんが、自分で自分の首を押さえていた跡と、ちょうど同じだなって」


 俺は鼻で笑った。極めて自然に。


「姉貴、ファンタジー脳が過ぎるだろ」


「そうかな」


「なんでヒーローが戦いながら、自分で首を締めるんだよ。どんな状況だ。そんな奴がいたら、ヒーローじゃなくて不審者だろ」


「でも実際にやってたよ」


「……」


 事実は強かった。


「それは見間違いだ。ヒーローはそんなことをしない」


「見参未遂ニキはしてた」


「ニキを公式名みたいに使うな」


 姉貴が少しだけ笑う。だが、まだ目は疑っていた。


「今日のヒーローさん、声が少し枯れてたね」


「風邪だろ」


「ヒーローさんが?」


「ヒーローも風邪を引く」


「玲司も枯れてるね」


「乾燥だ」


「ダンジョンは湿度高いよ」


「心が乾燥している」


「便利だね、心」


 俺はジッパーを上げた。もう十分だ。これ以上見られたら、心どころか正体まで乾燥して粉になる。


「……そっか。チーフがね」


「信じられないなら、明日聞けばいい」


「聞くよ?」


「聞け」


 言ってしまった。明日、絶対に根回ししなければならない。


 俺の予定表へ新しい項目が追加された。


・人工魔力チップの解析


・赤城レオン側の証拠整理


・チーフマネージャーへの口裏合わせ依頼


・喉仏の保湿


 最後だけやけに情けない。Aランク探索者の予定表とは思えない。


 姉貴がスマホを取り出した。嫌な予感がして、予感は的中した。見参未遂ニキの切り抜き動画を、俺の目の前で再生し始める。


 やめろ。本人の目の前で本人を再生するな。


 画面では、黒銀のヒーローが自分の喉を押さえながら、ゴーレムの拳へ突っ込んでいる。


>喉仏ミュートwww


>見参未遂ニキきたあああ!


>安全第一物理!


 文字が流れる。


 消せ。動画ごと消せ。


 姉貴は画面を見ながら、小さく笑った。


「でも、この人、本当にすごかったな」


「……そうか」


「ちょっと変だけど」


「だいぶ変だろ」


「でも、助けてくれた」


 姉貴の声が柔らかくなる。


「二回も」


 俺は黙った。笑えなかった。


 前回も今日も、一歩間違えれば姉貴は死んでいた。助けられたから笑っていられる。それだけだ。


「もし、このヒーローさんが本当に、名乗るのも姿を見られるのも嫌がってるなら」


 姉貴が画面を止める。


「お礼って、どうしたらいいんだろうね」


 本人に聞くな。それを本人に聞くな。


 俺はスマホを見ないまま、ぼそりと答える。


「スーツとか名乗りとかを、いじらなければいいんじゃないか」


「うん」


「助かったって。普通に言えばいい」


「それだけ?」


「それだけで十分だろ」


 姉貴が俺を見る。


「玲司って、ヒーローさんの気持ちに詳しいね」


「一般論だ」


「便利だね、一般論」


 またその顔だ。完全には信じていない。でも、無理に踏み込んでこない。それがありがたくて、少しだけ怖い。


 姉貴はスマホを伏せた。


「じゃあ、寝るね」


「ああ」


「玲司も早く寝なよ。明日も事務所のお手伝い、よろしく」


「俺は短期だ」


「短期でも頼りにしてる」


「……仕事だからな」


 姉貴が立ち上がる。だが、ドアノブへ手を掛けたところで、一度だけ振り返った。


「玲司」


「何だ」


「無茶してないよね?」


 俺は一瞬、答えに詰まった。


 喉元が痛む。全身にも戦闘の疲労が残っている。無茶をしていない、そんなわけがない。それでも、目をそらして答えた。


「してない」


 姉貴は少しだけ寂しそうに笑った。


「そっか」


 ドアが閉まる。しばらく動けなかった。


 この姉は本当にタチが悪い。疑うなら問い詰めろ。からかうなら笑え。怒るなら怒れ。


 心配するのだけはやめてほしい。一番効く。


 スマホを見る。掲示板には、まだ新しい書き込みが増えていた。


26:名無しの探索者

ハルカちゃんの弟説はないと思うけど、「玲司?」で逃げたのは気になる。


27:名無しの探索者

偶然だろ。無職の弟がダイヤモンド・ゴーレムを粉塵化してたら、日本社会の前提が崩れる。


28:名無しの探索者

今日も無職への信頼が厚い。


 ありがとう、社会常識。今だけは味方だ。


 だが、姉貴の勘だけは社会常識を平気で飛び越えてくる。


 俺はスマホを伏せた。


「……さて」


 笑っていられる時間は終わりだ。


 俺は立ち上がり、自室へ戻った。明かりは点けない。カーテンを閉め、ドアへ鍵を掛ける。


 配信終了後、誘導核は協会立会人へ提出した。ただし、その場で製造シグナルと魔力波形の複製だけは取ってある。


 自然発生の魔獣には存在しない、明らかに誰かが埋め込んだもの。机の画面には、そこから複製した製造シグナルが表示されている。


 携帯型魔力分析端末へ接続する。


 ピッ。


【解析中――七十二パーセント】


 まだ時間がかかる。俺は椅子へ座る。


 人工物なら製造元がある。販売元も、購入者も。どこかに必ず痕跡が残る。


 感情で追えば逃げられる。証拠で追う。一つずつ、逃げ道を塞ぐ。


 机の端でスマホが震えた。


【急上昇:達者でなレディ】


 閉じる。


【解析中――八十九パーセント】


【新着動画:一回目と二回目の胸板比較】


「消えろ」


 通知を閉じる。


 解析は進む。尊厳は減る。睡眠時間も減る。何一つ釣り合っていない。


【解析中――九十六パーセント】


 前回のクリスタル・クラブ。今日のダイヤモンド・ゴーレム。二度も姉貴の配信が危険に晒された。偶然にしては、できすぎている。


【解析中――九十八パーセント】


 誰が仕込んだ。何のために。


【解析中――九十九パーセント】


 画面が一度だけ暗くなる。


 そして。


【解析完了】


【製造シグナルを検出しました】


 俺は椅子へ深く座り直す。


 表示された製造番号を見て、目を細めた。


「……お前らか」


 ギャグで済む時間は、そこで終わった。

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

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