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暁の皇子  作者: さら更紗
エピローグ
149/151

エピローグ -1

「あんた、そんなことしたらねぇ、炎王か櫂(かい)あたりに、すぐ殺されちゃうわよ」

 蘭にそう言われて、昂はたちまち情けない顔になる。

「えぇっ。それじゃあ、どうやって気持ちを伝えればいいんだよ!」

 昂の言い分に、蘭は涼しい顔で答えた。

「言葉よ。心を込めて愛の言葉を贈るの」

 蘭の言葉の嘘くささに、昂は鼻白む。

「ガザや公国は、契ることに対して複雑だからな。軽い気持ちで抱くもんじゃない」

 信が訳知り顔で言う。たちまち昂は反発した。

「軽い気持ちじゃない!」

 そんな息子を、信は笑い出しそうな顔で見ていた。

「じゃあ、そう言えばいい。契って、あの国の王になれ」

「そんなんじゃ……」

 昂は頭を抱えた。

「燦を見ていると、何かしてやりたい、守ってやりたい、一緒にいてやりたいと思うんだ。結婚して、一緒に国を支えたいわけじゃない。あいつがあいつでいられるようにしてやりたいだけなんだ。それじゃ駄目なのかな」

「駄目だね」

 そう言ったのは、信ではなく、なぜか信と一緒に針森の村に来た、隼(しゅん)だった。

 以来、昂の家族のところに入り浸っている。

「なんで、あんたがいるんだよ!」

 今更な疑問をぶつける昂に、隼は真面目な顔で応じた。

「仕事。凛様への現状報告」

「じゃあ、もういいだろ。早くガザに帰れよ」

 そういう昂に、隼はふふんと鼻を鳴らした。

「姫さんへの不穏な動きあり。見極めなくては」

「不穏て……」

「婚約者でもないのに王女に不埒な真似など、死罪です」

 厳かな顔を作って宣言してみせる隼に、昂は抗弁する気力を失くした。

「大変そうだねぇ」

 夕が蜜茶をすすりながら、しみじみと言った。

「わたし絶対、外の男を好きにはならないわ」

 陽も隣で頷く。

「初恋だろうにねぇ」

 昂が「お前らなぁ」と文句を言いかけたところで、信が「ところで」と昂を止めた。

「お前、生業(なりわい)は決まったのか?」

 昂は父親の顔を見た。その顔はどんな表情も浮かんでいなかった。

 ただ訊いている。

 うるさく鳴り始めた心臓を宥めて、昂は話し始めた。

「俺、商人になろうと思う」

「商人?」

 夕が首を傾げた。

「うん。キースさんみたいな商人。針森には商人がいないだろ?外から来た商人に売るだけだ」

 昂はこっそり信の顔を窺った。耳を傾けてくれている。

「そうじゃなくて、村の商人として、村の品を外の世界で商いたいんだ。村の品の良さは、村の人間がよく分かっている。俺が商人として、村と外を繋げたい。ガザで行商している商人のおっさんと仲良くなったんだ。その人に、商いの仕方を教わろうと思う」

 昂は一気に話すと、息をついた。

 隼が「おおっ」と合いの手を入れる。

「良さんのこと?あの人は一癖も二癖もあるけど、笑っちゃうくらい良い人だよね」

 信がフッと笑った。それが笑い声だということに、昂は最初気が付かなかった。

「いいんじゃないか、商師(あきないし)か。お前らしいよ」

 そう言うと、またおかしな顔をして、フッと笑った。

「それにしても、俺とお前、同じような人生送ってるな」

 信に言われて、昂は目を瞬(しばた)かせた。

「俺が?信と?どこが?」

 聞いていた蘭もふきだした。

「後は、その燦とうまくいくといいわね」

「うん……」

 昂は素直に頷いた。

 この間、久しぶりに夢を見た。

 燦は化け物の被りものから、すっかり顔を出して、のっしのっしと歩いていた。化け物の皮というよりは、もう着ぐるみと言っていいかもしれない。脱ぐことは出来ないらしいが、それはそれでいいような気がした。

「でも、燦は空が好きなんだよ」

 言うつもりはなかったが、ぽろりと口に出してしまった。

 たちまち、皆が驚きを口にした。

 隼だけがしたり顔で頷いている。

「不毛な恋だけどね」

 報われることのない恋。


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