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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅵ 破壊
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Ⅵ 破壊 -14

 


「空!」

 燦の叫び声で、昂は我に返った。

 両腕に抱えていた双子は、意識を失っていた。だが息はしている。

 昂は双子をその場にそっと寝かせると、燦の許に駆け寄った。

 燦を押し倒す形で、空が燦の上に覆いかぶさっていた。その背中はひどく焼けただれていた。

 昂が空の身体を支えてやると、燦が空の下から這い出てきた。空の背中を見ると、口を押えてヒッと息を呑む。

 燦の顔は赤くなり、目が吊り上がった。憤怒の形相だ。だが、その目から涙が零れ落ちていた。

「どうして、どうして、わたしを助けたの?わたしは巻き込まれてもかまわなかったから、この国に来させたんじゃないの?」

 そう言ったきり、声を上げて泣き始めた。

 昂は背中に触らないように気を付けながら、空の身体を起こした。

 よく見ると、背中だけでなく、四肢のあちこちを火傷している。

 だが、生きていた。

 完全に身体は昂に預けたまま、空は薄く目を開けた。体が痛むのか、ひどく顔をしかめた。

 しかめたまま腕を伸ばし、燦の頭にその手をのせた。

「死なせるわけがないでしょ。凛の宝物だもの」

 そう言われて、燦は泣き顔のまま、空を睨みつけた。

「結局、凛の為ね」

 空が何か答える前に、悲鳴に近い声が上がった。

「サン!」

 燦はのろのろとそちらに顔を向けた。ターシャとアラン大公、そしてその護衛についていた兵たちが、駆け付けるところだった。

 兵たちの中に良(りょう)の姿も見えた。燦を見つけて、顔面蒼白になっている。王女の許に良が駆けつけるより先に、少女が躊躇することなく、燦に駆け寄った。

 ターシャは泣きそうな顔で、燦の身体を検めた。

「大丈夫?何があったの?怪我もしてるし、火傷もしてるわ。一国の王女が何してるのよ!」

 最後の方は涙声で、何を言っているのか分からなかった。

 燦は苦笑して、小さな友人の頭を撫でた。

「大丈夫よ、ターシャ。傷も火傷もたいしたことない。あの人が庇ってくれたから」

 燦に指し示されて、ターシャは初めて、空と昂の存在に気が付いた。

 空の顔を見て、ターシャが驚きに目を見張る。

「あなた……クロウじゃない?」

「お前、ガザ国の空という隠密だな」

 ターシャの驚きの声にかぶせるように、後ろの方から声が響いた。

 ターシャが驚いて振り返る。

 娘たちを見守っていた大公は、一歩前に出た。厳しい顔で一同を見まわす。

「何が起きた? この惨状はなぜ起こった?」

「違いますよ」

 空は荒い息の下で、絞り出すように声を出した。

「俺は、針森の薬師、空です」

 針森と聞いて、アランのこめかみがピクリと動いた。なおも、空は続ける。

「覚えておいでですか?二十数年前の事。針森の村がこの国の為に、焼かれたことを。ちょうどこんなふうに」

 外庭の地面は焼け、草花は茶色くなっている。美しかった景色は、あの一瞬の炎でも、様変わりしてしまった。

 針森の村も、一晩で燃えてしまった。

「許せないのか?」

 大公は短く訊いた。

「はい」

 空も短く答えた。

 大公はしばらく目を閉じていたが、やがて開くと、決心したようにしゃべりだした。

「お前は、この国のしたことが許せないという。それはそうだろう。だが、この国の民も同じことだ。お前がこの国に同じことをすれば、この国の者はお前を決して許さない」

 そこで言葉を切ると、アランはまっすぐ空を見た。

「わたしもだ。たとえ、お前の国を焼いたのがわたしの咎(とが)であっても、この国が焼かれれば、わたしはお前を許さない」

  空はフッと笑った。

「咎ね」

 そう呟くと、やおら立ち上がろうとした。昂が慌てて支える。

「どこへ行く?」

 アランが静かに聞いた。

「帰ります。火傷もひどいですし」

 空は当然のことのように言った。言葉はかすれているが、少し笑っているように昂には聞こえた。

「自然発火ですよ。地面も揺れていたし、大気がおかしかった。ここは神の領域ですからね。何が起きてもおかしくない」

 そう言い終わると、急に空の身体の力が抜けた。昂は慌てて支え、思わず空の背中を触ってしまった。ズルッとした感触にぞっとする。だいぶひどい。

 空は意識を失っていた。

「医療班が来る。彼らに任せよう」

 アランはそう言って、今度は昂を見た。

 昂もアランを見返す。

 金色のまっすぐな髪。気の強そうな上がり気味の目。それに反するような優しい口元。

 アウローラ公国大公、アウローラ。

「名は何という?」

 大公に訊かれて、昂は頭に巻いていた布を取り、背筋を伸ばした。

「針森の石師(せきし)信、織師(おりし)蘭の息子、昂と申します」

 アランはしばらく何も言わず、じっと昂の顔を見ていた。

 昂もまっすぐアランを見つめる。

「そうか……それが答えか」

 呪縛が解けたように、アランはそう呟くと、くるりと踵を返した。

 入れ替わりに医療班が到着する。

 空と燦、それに彩と奏を医療班に託し、昂が一息つくと、医療班として来た女が、怪訝な顔で昂を見ていた。

「何しているんですか?あなたも来てください」

「え?俺?」

 面食らって、昂が自分を指さすと、女は呆れたように昂の左肩を指さした。

「何言ってるんですか、あなたが一番重症ですよ。左肩が腐って、腕ごと落とさなきゃならなくなりますよ!」

 女に脅されて、昂の左肩はズキズキとまた痛み始めた。


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