246 門前
『ねぇ見て、あの子達可愛くない?』
『ほんとだ…姉妹かな?』
『それは違うって。きっとどこかの貴族様よ…!』
『けどそれならもっと護衛が…』
『バカね! お忍びなのよ! きっとあの馬車に乗っているお爺さまがお強いのだわ…!』
さて、無事に6日目の朝に着いたのだが、あまりにも朝早すぎて、まだ門が開いていなかった。
さすがに叩いて開けてもらうわけにもいかないので、大人しく列に並んで待つことにした。
そういうわけで、さっきから絶妙に惜しいお姉さんたちの会話を聞いているが、魔法も使ってないし身分も明かしてないのに、なんかむず痒いところをついてくる。
もしかして、私から王者の風格ってやつが出てる?
ま、冗談は置いといて。
フィリアとも、さすがに世間話程度の内容しか話していない。
こんな大勢の前で国の運営がどうだの、禁忌魔法がどうだの、エルフだドラゴンだとしゃべれば、さすがに怪しまれることは間違い無いからね。
「あっ、そろそろちゃうか?」
フィリアが何かの気配を感じ取ったのか、ぼそっと呟いた。
すると、門の隅の方にある扉が開き、門兵らしき人が出てきた。
ぱっと見、ドワーフぽさはない。
身長が低くて、体格が少しゴツくて… みたいなのを想像していたけど、見慣れた人間の形(?)だ。
「お待たせ致しました。只今より開門とさせて頂きます」
すると、ガラガラガラガラと大きな音を立てて、門が徐々に開いていく。
「おーっ」
この感じ、まさにアレだ………
「何を関心してんのや」
「いや、過去の記憶を思い出してね」
「またわけのわからんことを」
過去の記憶。
もちろん、開店前に凸したラーメン屋の記憶だ。
11時オープンのくせに、11時に行けば間違いなく3時間待ち必須のラーメン屋なんてのもあった。
そういうときは10時前ぐらいから並んでいたものだ。
今か今かと待ち侘びた先にあるのは、静かな空間に鳴り響くシャッターが開く音と、暖簾をかけた際に鳴る、これまた心地の良い音。
今まさにそんな気分だよ。
さて、門が開き徐々に人が中へと流れ始める。
荷馬車はもちろんながら、観光に来たのであろう人たちもいれば、何かの依頼を受けたのだろう冒険者らしき人たちもいる。
それに、なんかしらの職人っぽい人も結構いる。
さすがはドワーフの街だ。
「はっ…!? こっ、こ、これはフィリア様…!?」
「よっ! 久しぶりやな」
「ど、どうしてこんなに早くに…!?」
「ホルグに会いたくて、つい急ぎすぎたんや」
「かっ…!」
フィリアよ、あんまり仕事の邪魔になるようなことを言うのはやめよう。
あんたは自分が可愛いということを、自覚しといた方がいいよ。
「んっと、フィリアの知り合い?」
「うちが来る時、いつもお世話になってる門兵さんや」
「なるほど」
つまりフィリア担当ってことか。
「どうもホルグさん、初めまして。リンと言いますっ!」
「むむっ、あなたが…」
ホルグさんが驚いたように私の姿を見る。
もちろん、今回の客は料理人と言うから、もうちょっとオジサンっぽいのを想像していたのかもしれない。
「では、こちらの方へどうぞ」
色々と落ち着きを取り戻したダンさんに、門を潜った先にある少し大きめの部屋に案内された。
「ではフィリア様。お手紙をお預かりします」
「んーっと、リンちゃんが持ってたっけ」
「あっ、これか。私が持ってます」
ホルグさんに手紙を渡した。
「もしかしてリンさんも魔法がお得意なのですか?」
「えっ、ばっ、ばれっ…えっ…?」
「これは失礼。収納魔法を無詠唱で使えるとなれば、将来頼もしい人材になるでしょうな」
「あっ、あぁ〜。まぁ魔法はほんの少し嗜んでますので…」
そういえば忘れてたよ。
収納魔法くらいはみんな無詠唱で使えるけど、ある程度魔力の扱いに慣れていないと使えない。
学院にいるから無意識に使ってしまうけど、一般市民からすれば少し難易度が高い。
「ただいま、国王にご到着を伝えておりますので、しばらくお待ちいただけますでしょうか」
「あっ、そのことなんですけど」
「どうかされましたか?」
「元々は2日後に到着する予定だったわけですし、国王様にも色々と予定があると思うので、私たちは2日間観光させてもらいますよ」
「あっ…えぇっと…」
「んっ…?」
ホルグさんが言葉を詰まらせている。
「それでしたら、問題ございません」
「大丈夫なの…?」
フィリアの方を見てみるも、フィリアも満更でないような顔をしている。
「ま、まぁリンちゃん。国王様の性格的にな。今日行っといた方がええ」
「そ、そんなもんなの…?」
お客様を待たせてはいけません!的な感じで、もしかしてめちゃくちゃ他人思いの優しい人だったり?
もしや、昭和の営業マンみたいな思考回路してない?
しばらくすると、門兵の1人が慌てて戻ってきた。
「いっ、今すぐにご案内するようにとのことです!」
「今すぐ!? そんな朝イチから大丈夫なんですかっ!?」
「今すぐでございます!」
伝えに来た門兵も、必死の形相で私たちを連れていこうとしている。
「では、こちらへ」
ホルグさんに案内してもらうも、気持ちさっきより速足になっている。
なんだかみんな、忙しないよ?
門から城までは特別なルートで繋がっており、一般市民の目を気にすることなく、城までたどり着ける仕組みらしい。
さすがはドワーフの街だ。
私としては街中を見ながら、なんてのが良かったけど、まぁこれはこれで探検みたいでワクワクする。
「そういえばここ1週間、国王様の話題が出なかったけど、どんな人なの?」
「会ってからのお楽しみや」
いや、なんか怖いんだけど。
うちの国王に引きを取らず、お相手さんも相当だとか誰か言っていたような。
「グレイス王国より、宮廷魔術師団長フィリア様! 料理人リン様! ご到着でございます!」
いや、私の肩書き弱っ。
─────ギギギギィっ……
そんなことを自分で突っ込んでいると、重たそうな扉が、重たそうな音を立てて開いた。




