222 悲報、お一人様1つまで
「がっ……!」
「そっ、そんなぁっ…」
「そんなっ…ひどすぎるわっ…」
「うぅっ…」
悔しい。
どうして?
私たち、何も悪いことしてないよね?
「ねぇアリシアさんっ…」
「ダメよ」
「ど、どうしても…?」
「ダメ。それ以上食べると、本当に太るわよ」
「それ以上って!! まだ一個しか食べてないじゃなですかっ!?」
「それでもよ」
うーっ。
私たちの目の前には、空になった器が置かれている。
リズさんに美味しいご飯を作ってもらった後、みんなの顔を見てみると、全員が同じことを考えていたようだった。
そう。食後のデザートだ。
こんな美味しいご飯を食べた後に、またあの美味しいミルクケーキを食べたら、どれだけ幸せなのだろう、って顔してた。
だから、もちろん来た。
そしたら、ショーケースのところに「ミルクケーキはお一人様ひとつまで」と書いてあった。
そう。誰しもが一旦目を見開き、その言葉を受け止めたに違いない。
そして。皆が、見て見ぬふりをした。
その結果。現実を受け入れられないやつらが4人出来上がったというわけだ。
「だって私たちはどれだけ我慢したと思ってるんですか!?」
「そっ、そうです! あのっ、初対面でなんですけど、本当にファンなんです!!」
どうやら、セリはファンらしい。
確かに、お土産をみんなに食べてもらってたあの時、人一倍美味しそうに食べてたような気がする。
まぁみんなファンだろうけどね。
「いい? セリちゃん。今のこのせっかくのピチピチのお肌が、あっという間にムチムチからブヨブヨになっちゃうのよ?」
「むっ、ムチムチまでで我慢しますっ!!」
いや、ムチムチなら私も割と我慢するまである。
「その代わりに、太りにくいケーキもあるの」
「「「「 っ…!? 」」」」
食べても太らないケーキっ…!?
そんなの毎日の主食候補じゃん。
「リンちゃん? 太りにくいだけで、太らないわけじゃないからね」
「わっ、わかってますよっ…」
私の企みは一瞬で潰えたよ。
アリシアさんが奥へと戻り、ショーケースの中から何やら見たことある色のケーキを4つ持ってきた。
「もしかして…」
この色は………
「抹茶…?」
「ふふ。正解よっ」
「「「 まっちゃ…? 」」」
「渋かったり、苦さがある食材だから、人によっては少し苦手かもしれないわ。大人の味というやつよ」
そういえば、3人にはあまり馴染みのない概念だ。
馴染みがないというより、初めての遭遇だ。
以前にアリシアさんが抹茶ケーキを作ってくれた時、素人なりにどういったのがヒットしそうか、案を少し出したこともあった。
苦味を残しつつ、大人な味に仕上げた方が美味しいのではないか、というやつね。
もちろん好みの問題だけど。
「砂糖はかなり少なめになっているの。代わりにミルクを使ってまろやかな仕上がりになっているわ」
「おいしそう…」
抹茶とミルクは、私の中では結構アツい組み合わせだ。
「「「「 いただきますっ! 」」」」
……あむ。
……うんうん。
……美味しい。
まず感じるのは、表面を覆っている抹茶の渋みやほろ苦さだ。
一瞬ケーキかどうかもわからなくなってしまいそうで、甘さはほとんど感じられない。
しかし、一口噛めば、濃厚なミルクでできたスポンジが、抹茶を包み込み、そこでようやく甘さと苦さが混じり合い、バランスのとれたケーキが完成する。
あえて抹茶の粉末を表面に覆うことで、抹茶本来そのものを味わうこともできる。
抹茶が苦手な人は、表面の抹茶を、中に入れ込んで作ったケーキの方が美味しいと感じるのかもしれないけど、私はむしろこっちの方が好きだ。
「これが抹茶……」
セリはどちらかというと渋いのは苦手なのか、一口目は少し顔をしかめていたが、少しずつミルクで中和されることによって、抹茶味というものには興味を持っていそうだ。
味は好きだけど渋いのが苦手、っていうのもよくあるパターンだね。
一方シーナはどうやら抹茶を気に入ったらしく、表面にある抹茶の粉を、少しフォークで掬い、それだけを味わったりしている。
なかなか通だね。
フレアは普段から色々なものを食べたりしているからか、渋いものやほろ苦いものにあまり抵抗もなさそうで、最初から最後までしっかり一つの美味しい食べ物として食べているようだ。
「セリちゃんは中に抹茶が練り込んである方が好みってとこかしら」
「そっ、そうかもしれないです…。うっ…わたしだけ大人じゃない…」
ふっ。セリよ。
あんたはまだまだガキンチョってことよ。
…って言ったものの、私だって14歳の時に抹茶の美味しさがわかるかと言われたら、きっとわかってなかったよ。




