10 とりあえず常識は学ぼう
イリアさんはこの店をラーメン屋に魔改造、もとい改築することを前向きに考えてくれている。
もちろん、カレーもこれまでに食べたことないくらい美味しいので、メニューとして残したいよ。
しかし、夫の許可がいるということだ。
夫とセリの3人で普段はお店を切り盛りしているそうだが、夫どこいった?
もう夕方過ぎてるんだけど…
と、最初は思ったのだが、どうやらこの街は基本的にお昼が1番活発になるらしい。
夕方も空いているお店はあるにはあるが、半分以上が閉まってしまう。
ところが、冒険者ギルドや商業ギルドは基本的に24時間空いているらしい。まあ確かに。言われてみれば当たり前か。コンビニみたいなものだね。
もうわかる通り、ここは朝型の街。
毎朝始発電車に起こされていた私にはもってこいだ。
だからこの店、名前はフォーレン・ハウスというらしいが、ここもお昼のいわゆるランチ営業をした後は15時ごろに閉店するそう。
だからセリは夕方前のあの時間に森にいたわけね。
にしても今更ながら、この世界に来てまだ1日も経っていない。
私めちゃくちゃ非常識なんじゃない?
そう思った私は夫のセルニアさんが帰ってくるまで、イリアさんに常識を学ぶこととなった。
イリアさんはどうやら冒険者をしていたらしく、旅の途中でセルニアさんと出会い、結婚してセリを身籠ったことで大人しく料理店をすることに決めたそう。
セルニアさんはというと、元から料理をしていたらしい。詳しくは聞いていないが、セルニアさんがイリアさんに一目惚れして、この街に一緒に移り住んできたと。
そしてこの街の名前はデューセルというらしい。そしてこの街デューセルはグレイスという国に属しているらしく、他にもいくつか街があるそうだ。
もちろん国もいくつかあるそうだが、その辺は面倒なので聞いてない。
私の出身地なども聞かれたが、へんぴな村に生まれて、村の名前すらない場所だったからわからない、という理由でなんとか誤魔化せた。
なんか罪悪感がある。ごめんなさい。
そしてセリに言ったのと同じように、家出をした設定になっている。
貨幣の価値については
銅貨・・・100円
銀貨・・・1000円
金貨・・・1万円
大金貨・・・100万円
ぐらいであることがわかった。
銅貨が100円なのは高い気がするが、基本的に物々交換的なことも成立するらしく、100円に満たないものは食材や日用品などで埋め合わせをするそうだ。
まぁ、細かいことはどうでもいい。
とりあえず街に入るだけで1000円取られたの悔しい!!!
くーっ!!!
そういえば、虎を売った時に金貨14枚ももらった。
今8枚あるから、ポーションは金貨6枚ってことか。
ポーションが意外と安いと感じるのは気のせいかな…
もしかしたら物価が安い国なのかもしれない。
「イリアさん、さっきのカレーっていくらぐらいで売ってるんですか?」
「銅貨3枚よ?」
「やっす!!!」
物価安いわ。
カレー300円って…
そら6万円のポーション高いわ。
だいたい日本の3分の1ぐらいの物価なのかな。
そう考えたら虎、高すぎない?
もしかして虎、優良株??
セリがイリアさんに私の魔法のことを喋ったらしく、イリアさんから、私の魔法に関することも聞かれたが、村ではみんな使ってた、という摩訶不思議な言い訳を信じてくれた。
自分の魔法力に関しては薄々気づいているため、そんな村があったら伝説になってるわ、と自分でツッコミを入れつつ話を進めていく。
そんなこんなで常識を学んでいると、薬草と明日の食材を買い出しに行っていたセルニアさんが帰ってきた。
もちろん、セアが治っていることはまだ知らない。
「帰ったぞ。お客様か」
「あなた。こちらはリンさん」
「初めまして、リンです」
「すまないな。何ももてなすことができん。こんなところでよければゆっくりしていってくれ。ところで、セ…セアの調子はどうだ…」
「そ、それが…」
「なっ! まさか………くっ…まだ10歳なんだぞ………っ……すまん…すまない……俺の………せいで……」
亭主という責任を感じているんだろう。
まぁ、これでセアが治ってなければ私も涙が出ていたかもしれない。
「そ、それが、セルニア、そちらのリンちゃんがセアを治癒魔法で助けてくれたの」
「…?」
「セアはもう元気になったのよ」
「ほ、ほんとうか…」
「セルニアさん、事実です。今、上でセリと一緒にいるはずです。確かめてきてください」
「なっ…! なんと…わかった」
するとセルニアさんは駆け足でセアの元へと行く。
すると、セルニアさんが泣き叫び、セアが少し嬉しそうに遠慮している声が聞こえる。
しばらくするとセルニアさんが私の元へやってきた。
「リン…といったか…。その、今回はセアを助けてくれてありがとう。治療費についてなんだが……」
「あなた、治療費はリンちゃんは必要ないそうよ」
「そ、そんな…ことがあるのか…?あれは高位の神官ですら治せないと言われたんだぞ…?」
「それでも必要ないそうよ。でも、リンちゃん?」
「あ、はい。あの、その代わりなんですけど、このお店で新しい商品を出して欲しいんです。私がメニューも全て考えます」
「新しいメニュー…?」
私はセルニアさんにラーメンのことを説明した。
すると、二つ返事で了解された。
「もちろん、命の恩人がしたいということだ。もし売れれば私たちのためにもなる。売れなくても、セアが助かったんだ。それ以上の喜びはない。とはいえ、そんなことで本当にお礼になっているのか?」
「もちろん、なっていますよ。むしろ、私にとってもメリットしかありません」
ラーメンが食べれる以上のメリットなど考えられない。
「それで、もう一つお願いなんですけど、この辺で宿屋を探していて。どこか知りませんか?」
「どうして? うちに泊まればいいわよ?」
「そうだな。狭い家だが1人ぐらい増えても構わん。セリも喜んでくれると思うぞ」
「えっと本当ですか」
「もちろんよ。リンちゃんには感謝しきれないからね」
お金も節約したいし、ここはありがたく甘えさせてもらおう。
少し世間話をしていると、セリが戻ってきた。
セリにお世話になることを伝えると、喜んで受け入れてくれた。
こうして私の濃密な異世界生活1日目が終了したのであった。




