異変
「今日も店に行くのですか?」
「当然よ。王都に戻るまではこっちで普段通りに過ごしたいもの」
縁談の日程は決まったが、ティアナはいつもと変わらずに自分の店に行くことにした。
クロードは教わった同時魔法の練習をするため、今日はキースが護衛として一緒に店に行くことになったのだが、昨日のティアナの落ち込みを知っていたため、今日は休むと思っていたらしい。
「準備があるからそんなに長くここにいられるわけじゃないもの。お店を長く休んだらお客さんも離れちゃうわ」
意気込むティアナに昨日までの影はない。そのことに安堵して、クロードは籠をキースに渡した。
「2人分の昼食だ」
シャイヤが用意してくれた昼食が入った籠だ。キースはそれを複雑な表情のまま受け取る。
「いつも通りに帰る予定だから」
何事もなければクロードが迎えに行く必要はないだろう。頷くとティアナは笑顔を見せて屋敷を出た。
後ろをついていくキースは最後まで複雑な表情だったが、何も言うことなく歩いて行った。
玄関に1人残されたクロードは、屋敷に入らずにそのまま庭に向かう。
昼食まで1人で魔法の練習をするつもりだ。
教わったことを繰り返し練習することで、その感覚を掴んでいくしかない。
昨日のティアナの様子を思い出す。さっきは元気そうにしていたが、昨夜の彼女は周りの誰もがわかるくらいに落ち込んでいた。
縁談相手は王族。相手方はティアナを気に入って妻にしようとしている。こうなれば相応の理由がない限り断ることはできないし、ティアナが隣国に行かなければいけないこともほぼ決まったようなものだ。平民育ちのクロードでさえそれくらいわかる。
残り1か月。縁談の少し前には屋敷に戻ることになるだろうから、もっと短い間しか、彼女がここにいられる時間がない。
クロードから魔封石を作る許可をもらったときの彼女を思い出す。嬉しそうに魔封石作りに取り掛かっていた。それだけ魔封石を作ることが好きだということが、そばにいて伝わってきていた。クロードが魔法を使いこなせるようになるまで、ずっとここにいるのだと勝手に思い込んでいたのだ。
胸の奥が疼くのを感じながら、庭の中央に立ったクロードは魔法を使うことに意識を切り替えた。
ドン
地響きのような音に驚いて振り返った。
森に囲まれた屋敷では、近くで何か起きても見通すことはできない。だが、今の音は明らかにティアナが町に向かって行った方向からだった。
嫌な感覚が体を突き抜ける。
考えるよりも先にクロードは音のした方向へ走っていた。




