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魔封石使いと破壊騎士  作者: ハナショウブ
洞窟へ
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洞窟へ

翌日も晴天になったことで、山登りにはちょうどいい天気となった。

「少し足が重いかも」

早めに休ませてもらったとはいえ、慣れない山登りをしたせいでティアナの体は前日より明らかに動きが鈍くなっていた。

他のメンバーは何事もなかったように山道を登っていく姿がうらやましい。

「もっと鍛えないと駄目なのかしら」

騎士2人に、アルトは元傭兵ということもあって、体力には自信があるらしい。それに比べると体力をあまり使わない魔封石士はこういう時に足手まといになりやすい。

「無理はするなよ」

隣を歩くクロードの気づかいに支えられるように気持ちを奮い立たせて歩いていく。

「体を軽くする魔封石を今度作ろうかしら」

身体を軽くして飛ぶ力を強くする魔法がある。あれは一瞬の作用であるが、それを応用して浮きながら移動できる魔封石を作ればこんな苦労をしないですむ。そんな贅沢を考えていても、今は自分の足で登るしかない。

ようやくイリスのところへ到着すると、魔術師2人はすでに洞窟に向かうための準備を整えて待っていた。

「この先にありますから、足元には十分に気を付けて」

すぐに出発するイリスに、ティアナは止める勇気が持てずに内心ため息をついた。

すると、エリクスが近づいてきて手を差し伸べた。

「洞窟までは獣道を通る。足場が悪いからティアナは俺が魔法で運ぶことになった」

「え?」

どういう意味かわからなかったが、とりあえず差し出された手に自分の手を重ねると、ふわりと風が吹いた。

「風よ」

短い言葉とともに急に体が軽くなる。それと同時にわずかに地面から足が離れたのを感じた。

「わわっ」

慌てるティアナだったが、地面から離れたはずの体は安定していた。

「エリクスの魔法」

「風の力で体を浮かせた。手さえ離さなければ継続できるから、このまま洞窟まで行く」

魔法で運ぶとはこういうことだったらしい。この山は地の精霊の領域のため空間魔法で移動するのは阻まれる可能性があるため、どうしても歩いていく必要があった。それを考えた時に絶対に一緒に行かなければならないティアナへの配慮が考えられていたようだ。

「ありがとう」

体力のないティアナにとっては大変ありがたい行為だ。

エリクスが手を引くと音もなくティアナも動く。不思議な感じはあるが、これで体力を使わなくてすむ。

先ほど自分が考えていた魔封石が、エリクスの魔法で現実になっている。感激すると同時に、自分も同じ魔法を魔封石で作ろうと本気で考えていた。

隣を歩いていたクロードが後ろになることで、一行は洞窟へと出発した。

「そういえばイリスに言っておくことがあった」

先を進むアルトが先頭を歩くイリスに話しかける。

何もすることがなくなったティアナはその会話を何気なく聞いた。

「昨日の山に侵入者がいたって話なんだが」

「何か手がかりでもあったのか?」

2人とも息を乱すことなく獣道を進んでいく。

「別の村で賊が出たって話があった」

それはティアナも昨日アルトから聞かされていた。村長の家で報告をして戻って来た彼が、村長から聞いた話をティアナ達にも話してくれたのだ。

「情報が来るのが遅くなったが、数日前に村が襲われたらしい。被害はそんなに大きくなかったらしいが、金品を取られたって話だ」

小さな村だったため金目の物は多くなかった。そのため賊が村に来ても、襲われる家は少なく済んだという。

「女子供もすぐに隠れられたらしくて、被害はなかった」

賊が襲うのは金目の物だけとは限らない。自分達より弱い女や子供を攫う賊もいるのだ。子供はどこかに売り飛ばし金に換えるが、女性は自分たちの欲望を満たすためだけにさらわれることが多い。そのため、村が襲われると一番に女子供は隠れて見つからないようにするのだ。被害がなかったことにほっとするも、もしも攫われていたらと思うと、自然と体に力がこもった。

手を握っていたエリクスにもそれが伝わったように、一瞬こちらを見たが彼は何も言わずに再び前を向いて進んでいく。

「俺たちの村が襲われなかったのは、ただ運が良かっただけだと思うが、もしかすると、この山に入って洞窟を見つけたのがその賊だった可能性もある」

洞窟内の魔石を発見して奪っていったのが賊ならば、それなりの数を持っていかれた可能性がある。そのため、1つ落としていたとしても気にしなかったのだろう。

山のすぐ近くにある村が襲われなかったのは、魔石を確保したことで賊が襲うのをやめた可能性も十分にあった。

「しばらくは村でも警戒したほうがいいという話になった」

「そうか、私も村に降りていたほうがいいかもしれないな」

イリスも時々山を下りて村人と交流をしている。その村が襲われる可能性があると聞いては、のんびり山籠もり生活をしているわけにはいかないと考えたようだ。

「自分も、領主である父に報告しておきます」

2人のすぐ後ろを歩くカインが会話を聞いて口を開く。彼の父親は襲われた村も、この村も領地に含まれている。襲われた村から報告がいっているだろうが、カインからも報告を上げておけば対応が早くなる可能性が高い。

そんな会話をしながら歩いていくと、草むらに覆われた先に人の背丈よりも低い穴がぽっかりと開いている場所に辿り着いた。

「ここですか?」

エリクスから手を離すと魔法が勝手に解けて、ティアナは地面に足を付けた。再び戻ってきた体の重みに違和感はあったが気にすることなく洞窟の中を覗いてみた。

「明かりがないと進めないな」

隣のエリクスが片手を前に突き出した。

「光よ」

小さな呟きとともに手のひらに光の球が出現し、軽く放ると彼の頭の上をふわふわと漂い始めた。

「足元が悪いから気を付けて」

イリスも同じように光球を生み出すと体の近くに浮かせて洞窟の中に入っていった。

「俺たちの分の明かりをくれないのかよ」

後に続こうとしたアルトが先に入ってしまったイリスに文句を言う。

アルトとカインは魔法が使えないので、自分で光を生み出すことができない。

ティアナは持っていたカバンに手を突っ込むと、中から光の魔封石を取り出した。

「これを使ってください」

アルトに渡すと、魔封石を小さく弾いた。すると、魔封石自体が発光して明かりになってくれる。

戦闘用の魔封石ではないので、魔力持ちでなくても使用できる。

「助かる」

礼を言ったアルトが洞窟の中に入っていく。

1つしか持ってきていないので、もう1人の魔力持ちではないカインの分が必要だった。

「ティアナ」

彼の分の明り取りをと考えていると、クロードが近づいてきた。

「先に中に入っていてくれ、俺とエリクスは後から行く」

「え?」

突然のことに戸惑うと、クロードはすぐに離れて頭上に浮かせていた光球を消したエリクスと一緒に元来た道を戻り始めた。

「どうしたのかしら?」

首を傾げると、カインは何かに気が付いたのか納得した表情で2人がいなくなった方向を見ていた。

「あの2人なら大丈夫でしょう。我々は先に洞窟の調査をしていましょう」

何かに気が付いて引き返したのは間違いない。それが何なのか言わずに行ってしまったことが気になるが、ここで待っていても2人がすぐに戻ってくるとは限らない。

「そうですね」

あまり納得はしていなかったが、今は自分の役割を果たすしかない。そう言い聞かせて洞窟に向き直った。

「光よ」

両手を前に突き出して右と左に1つずつ光の球を生み出す。

1つをカインに向かって放ると、もう1つは自分の頭上に浮かせる。

「これで大丈夫ね」

「助かります」

ティアナが先に洞窟に入り、後ろをカインが歩くことになった。

先に入った2人は、少し進んだところで待ってくれていたので、合流するとさらに奥へと進んでいく。

途中で一度だけ後ろを振り返ったが、クロード達が追いかけてくる気配を感じることはなかった。


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