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【書籍化】Fake Earth  作者: Bird
第4章 汝は人狼なりや?

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96話 対戦カード(明智side)

視点人物:明智彩花


「うぎゃああああああ! 最悪! 災厄! 悪辣(あくらつ)でムカつく! せっかく色々と準備してきたのに、いきなりNPCジョーカーチェスとか意味わかんないんですけど!

 王に選ばれた黒崎晴希って誰? 金で集めたNPCのことなんて知らないし〜! めちゃくちゃクソルールのクソゲーだし〜!

 あ〜もう! 糖分が足りないから、リーダーが作ったキャロットケーキ食べたい〜!!!」



 小柄な女性アバターが頭を抱えたまま、へなへなと崩れ落ち、体育座りになって顔をうずめる。

 完全にやる気を失っている様子だった。

 明智は彼女が気の毒すぎて、敵であることを忘れて、そっと抱きしめたくなる。


 それにしても、こんなに追い込まれたときに食べたいと思うなんて、暁星が作るキャロットケーキってどんな味なんだろう?

 そういえば一度も食べたことがない。

 この戦いが終わったら、食べに行こうかな──なんて死亡フラグみたいなことをぼんやり思う。


──もしもケーキ屋に行けたら、みんなと一緒だといいんだけど、全員無事だろうか?


 明智はレキトたちに思いを馳せる。

 豆田の《誘爆する玉突き人事》によって位置情報がシャッフルされ、NPCとプレイヤーが入り乱れていた戦場から一転、今は見知らぬ部屋で女性アバターと二人きりになっている。

 孤立したのは自分だけ、と甘く見積もれるギルドを相手にしていなかった。


 おそらく暁星が先に使ったギアは、味方の運を一時的に良くするような効果。

 レキトたちも全員バラバラになり、遊戯革命党のプレイヤーと一対一、多対一で戦うような状況になっているだろう。

 しかも、それぞれが苦手とするステージに送り込まれた可能性が高い。

 重度の運動誘発性喘息(ぜんそく)持ちの明智が、豪華絢爛(けんらん)なパーティ会場のような、機動力を求められる広い場所に飛ばされたように。



「はあぁぁぁぁぁ〜! もう〜どうしよう! 有利対面を作ろうとしたせいで、うちのメンバーもバラけてるし!

 こうなったら、豆田に《誘爆する玉突き人事》をもう一回使わせ……いや、余計に不利な配置になる可能性があるか。じゃあ、希羽(のわ)と護衛してる花宵(はなよい)を動かし……うっ、これも悪手か。アントの王のNPCは私たちのギアを全員分使えるから危ないし。

 ……ん? ちょっと待って。考えようによっては、今のところ有利なのは私たち? でも、こっちの王がどうするかわからないし……。

 あーヤダヤダヤダ! めんどい! だるい! 放棄したーい! 考えなきゃいけないことが多すぎるんだけど!」



 体育座りで顔をうずめた女性アバターは、泣き叫びながら自分の頭をポカポカと叩く。

 明智がこの部屋に飛ばされた後、勝ち誇った笑みを浮かべて、「どう? 私の作戦に翻弄された気分は?」と言っていた人物と同一人物とは思えなかった。

 地雷系っぽい茶髪のボブに、気の強そうなつり目。散歩中にキャンキャンと吠えてきそうな小型犬みたいな雰囲気がある。


 伊勢海の情報どおりなら、明智の対戦相手にあてがわれたのは、遊戯革命党の司令塔──「(くり)()(あかり)」で間違いないだろう。


──レキトくんたちと連絡を取りたいけど、さっきから無線もLINEもつながらない。

──遊戯革命党の誰かのギアで妨害されてるのだろう。うーん、とても厄介だ。


 明智はスマートフォンでこめかみを叩いた。

 燈はイベントの対応策を考えるのに必死で、こちらに注意を払ってない。

 今が攻めどき……というわけにはいかなかった。

 NPCジョーカーチェスが始まる直前、燈は意気揚々とギアを起動したことを思い出す。


 燈は()()()()()()()()()()の上に乗っていた。

 彼女の周りには、形の違うブロックが囲むように浮かんでいる。

 L型、J型、T型、Z型のブロック──。

 真上から落ちてくるブロックを隙間がないように配置する、「世界的に馴染みのあるゲーム」を思い起こさせる。


 元ギルドメンバーの伊勢海の情報にはなかったギア。


 明智は対プレイヤー用レーザーを何度か撃ち込んでみたが、L型のブロックがその都度くるりと回転し、レーザー光線をすべて防いだ。



「……はぁ、明日キャロットケーキ食べに行けるかな」



 明智は親指でスマホ画面をスワイプして、手持ちのギアを眺める。

《切っても切れない赤い糸》で燈の小指に赤い糸を結ぶことができても、L型のブロックに素早く巻き取られて、明智が引きずられそうな予感があった。

《迷える羊の子守唄》の歌声の射程には、燈が宙に浮いているため届かない。

 ()()()()()()()()()()も役に立ちそうになかった。


 全世界のNPCの命運がかかった決戦。

 何の前触れもなくイベントが始まり、敵味方関係なく混乱している状況。

 仲間は誰が生き残っているのかはわからない。

「最悪」の可能性を想定しておく必要がある。



──となると、今できる最善手はこれかな?



「もしもし〜! 燈さ〜ん! ちょっとお話したいことあるんですけど、いいですか〜?」



 明智は声を張り上げて、燈との「会話」を試みた。



「はぁ⁉︎ 何⁉︎ 今、絶賛お取り込み中なんですけど⁉︎ ていうか、なに私のことを馴れ馴れしく名前で呼んでのよ!?」


「それは前に伊勢海先輩が『燈さんは自分の名前が可愛くて気に入ってて、みんなに名前で呼ばせてた』って言ってたからですよ。ちなみに私も可愛いと思いますよ、燈さん♪」


「それは仲間だったからでしょ! 敵に呼ばれても嬉しくないんだけど!」


「まあまあ、落ち着いてください。こうやって揉めるのも時間の無駄ですし。私は燈さんにいい話をしたいんですよ」


「いい話? あんたが? 私に?」


 燈は明智を見つめて、形のいい眉をひそめた。

 疑いに満ちた目だった。

 L型のブロックは回転し、J型のブロックは逆回転する。

 振り下ろす前の鎌のように、鋭い角度でピタリと静止する。



「はい。もしよかったら、()()()()()()()()()()?」



 明智は微笑み、燈に協力プレイを持ちかけた。



 〈BATTLE〉明智彩花 VS 栗木燈

 〈STAGE〉旧パーティー会場



 お読みいただきありがとうございます。

 次回、97話「対戦カード(七海side)」は6月に更新予定です。


(作者からのお願い)

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